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第三章 もう一人の半妖

帰りを待つ妖たち

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 龍二が本邸に帰りついたときには、もうかなり夜遅い時間だった。
 玄関では雪姫が優しい笑顔で出迎えてくれた。

「龍二様、お帰りなさいませ。こんな遅くまで大変お疲れ様でした」

「ただいま、雪姫」

 龍二は軽く応えると、縁に腰掛け靴を脱ぐ。
 本邸での生活にもすっかり慣れ、雪姫からも「さん付け」と敬語は止めるよう頼まれたので、今ではフランクに話している。
 雪姫が靴を受け取って棚にしまうと、スリッパを出してくる。
 まだ肌寒い日が続くので、ふわふわとした柔らかいタオル地の防寒スリッパだ。
 龍二がそれを履いて立ち上がると、目の前の衝立に複数の目玉が開いた。

「目々連も、ただいま」

 龍二が頬を緩ませて告げると、目玉たちは嬉しそうに目を細めた。
 最初は戸惑っていたものの、段々と妖たちと心を通わせることができてきたようだ。
 すると、横で雪姫が微笑ましいものを見るようににっこりしているのが分かった。

「あら龍二様、なにか楽しいことでもありましたか?」

「え? どうして?」

「なんだかいつもと比べて、生き生きとしているようでしたから」

 本人に自覚はなかったが、摸擬戦で得た高揚感と達成感が顔に出ていたのかもしれない。
 雪姫にニコニコと見つめられて、龍二はなんだか恥ずかしくなった。
 玄関から少し歩くと、今度は鈴が走って来る。

「龍二さま、お帰りなさーい! 鈴とあそぼー!」

「おっと」

 鈴はいつものミニスカ着物を着て、真正面からダイブしてきた。
 龍二は慌てて受け止めるが、相変わらず彼女の体は軽い。
 鈴は楽しそうにはしゃぎながら、龍二の服に頬をすりつけてくる。

「こら鈴、ダメですよ? 龍二様はお疲れなんですから。龍二様、お風呂も沸いていますので、先にお体を温められてはどうでしょう?」

「じゃあじゃあ、鈴も一緒に入るー!」

「え? ちょっ、鈴、それはダメだって!」

 鈴のじゃれ合いを微笑ましい気持ちで見守っていた龍二だったが、こればかりは必死に拒絶する。
 実はこの間も、龍二の入浴中に鈴が風呂場へ乱入してきて大変だったのだ。
 こう見えて発育はいいほうなので、健全な男子には刺激が強すぎる。
 もし桃華が見ていたら、記憶を抹消されるほど殴られていたことだろう……

「えぇー!? また龍二さまのお背中流したいのにー!」

「おい待て! その『また』って付けるのはやめるんだ! 酷い語弊を生む恐れがある!」

「ごへー?」

「特に、桃華がいるときにそういう話をするのは、絶対にダメだからな? でないと、俺の身が危ない」

 死活問題だった。
 そんな犯罪まがいの行いをしていると誤解されたが最後、どんな目に遭うか分かったものではない。

「ぶーーー! つまんなーい!」

 鈴は唇を尖らせると、駄々っ子のように龍二の服を引っ張って上目遣いに見上げてくる。
 
「分かった分かった。次の土曜日、たくさん遊んでやるから我慢してくれ」

「えーほんとー!?」

「あぁ、約束だ」

「やったぁ! 鈴ねぇ、龍二さまと蹴鞠けまりがしたいなぁ~」

「分かったよ」

 龍二は目を輝かせる鈴の頭を撫でる。
 なんだか小さい子供ができた気分だ。
 雪姫は「鈴、良かったですね」と微笑むと、彼女には目々連とでも遊んでいるように伝えた。

「うん、分かった! 目々連の目でもつついてあそぼーっと」

 そう言って元気に走り去っていく。
 龍二は苦笑しながら、「それは遊びとしてどうなんだ?」と首を傾げるのだった。
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