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最終章 転生の代償

青い星

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「――なんだあれは……」

 空を見上げたシュウゴは唖然と呟いていた。
 彼の腕には親友の亡骸が抱かれ、慟哭の末に天を仰いだ。
 レーザーカノンの爆発によって高台から部材の破片が周囲に降り注ぎ、多数の死傷者を出してパニック状態に陥っていた。至るところで黒煙が上がり、鍛冶職人や技師たちが負傷者の救出に奔走している。
 ダンタリオンを倒せたのかなど、今は誰も気にする余裕がない。
 そして、空に訪れた異変にも――

「――青い星?」

 シュウゴの後ろで立ち尽くしていたメイが呟く。
 ダンタリオンが倒れたためか、空を覆っていた霧は薄くなり、一か所だけぽっかりと穴が開いたように晴れていた。ただ、そこから覗くのは青空でも太陽でもない。
 『青い星』だった。
 まだらに黄土色や白色の模様のようなものが見えるが、全体的に青が多い。
 幻想的にも見える綺麗な星。
 シュウゴには見覚えがあった。

「嘘、だろ……まさか『地球』なのか?」

「地球?」

 メイが聞きなれない単語に聞き返すが、シュウゴは気が動転して答えられなかった。
 あれはどう見ても地球だ。
 シュウゴも昔、地球儀やらテレビやらで何度も見たからよく分かる。
 問題は、なぜこの大陸の空に地球が見えるのかということ。
 さらによく見れば、ただ空に浮かんでいるというよりは、時空が歪み別空間を覗いているかのようだ。つまり、空が晴れたのではなく、空に穴が開き別次元と繋がったかのような空間の歪みが見られる。

「ぅっ……」

 その不思議な光景に唖然としていたシュウゴは、まるで自分自身がその歪みに吸い込まれてしまいそうな錯覚を覚えた。
 
 ――帰りたい――

 心の中で誰かが呟き、無意識のうちに右手を伸ばしていた。
 意識を持っていかれそうだ。
 しかし聞き覚えのある足音で我に返る。

「――デュラさん!」

 メイの声に反応し、こちらへ顔を向けたデュラは、シュウゴの目の前に横たわったシモンの亡骸を見て一目散に駆け寄った。
 彼はシモンの前にひざまずくと、深くこうべを垂れた。
 それを見たシュウゴは温かい気持ちになる。
 デュラがシモンのことをどう思っていたかは定かではないが、少なくとも死を悼むほどには親しく思っていてくれていたようだ。
 
「シモンは最期まで勇敢な男だったよ」

 シュウゴの悲壮な呟きにデュラは頷く。
 メイも泣き出しそうな顔で俯く。
 
「本当に、最高の親友だった……」

 シュウゴは声を震わせながらしみじみと言うと、目を閉じゆっくりと息を整える。
 そして、彼の亡骸を優しく地面に置いて立ち上がり、表情を引き締めデュラへ顔を向けた。

「デュラ、ニアの容態は?」

 大丈夫と言うようにデュラは強く頷いた。
 強張っていた頬を緩めたシュウゴの代わりに、「良かったです」とメイが安堵の声を漏らす。
 シュウゴは再び空を見上げた。
 今、突き止めるべきは突然現れた青い星のことだ。
 感慨深くシュウゴがそれを見上げていると、視界を黒いなにかが横切った。

「ん? なんだ?」

 シュウゴが呟いたその直後――

「――う、うわぁっ!?」
「な、なんだ!?」

 周囲で悲鳴が上がる。
 シュウゴが焦燥感にかられ周囲を見回すと、突如黒い霧が大量に発生し高台周辺に蔓延していた。

「なっ……これはまさか!?」

 シュウゴはその黒い霧に見覚えがある。
 それを認識したとき、全身が怖気おぞけ立った。

「お、お兄様、これはいったい……」

「くそっ……なんでこんなところに!?」

 視界を遮断する濃く黒い霧。
 それはかつて、明けない砂漠に蔓延していた黒い霧と酷似していた。
 だがありえない。
 これを生み出していたはずの砂丘に霧撒く凶蛇竜アンフィスバエナは、姿を消したのだ。
 一瞬、アンフィスバエナが移動してカムラの現れたのかとも思った。
 だが、あれが近くに現れたのであれば、地震の一つも起きないのはおかしい。
 
「次から次へと……」

 シュウゴは忌々しげに呟き、警戒心を強める。
 張り詰める緊張感におかしくなりそうだ。
 デュラとメイも気を引き締め、武器を強く握って周囲を見回している。

 そのとき、再び悲鳴が上がった。
 それは、黒い霧に困惑しているといった生優しいものではない。
 人間の『断末魔』だ。

「――っ!」

 シュウゴは息を呑み、突然駆け出した。
 突然のことに動転して大事なことを忘れていたのだ。
 カムラのため、今ここで絶対に守らねばならない人がいる。

「メイ、領主様の居場所を探ってくれ!」

「はっ、はい!」

 もし、この霧に紛れて敵が襲撃してきたのなら、真っ先にこの町のトップを狙う可能性が高い。
 ヴィンゴールは、絶望的な状況に立たされているこのカムラをまとめるために、最も重要な存在だ。どんなときでも、彼のカリスマ性に部下も領民たちもついてきたのだ。
 決して失ってはならない。
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