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第十四章 カムラを守る命たち

移動する城塞

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 第一陣はグレンを含め二十名程度。
 彼らは廃墟と化した村をまっすぐに駆け抜け、ダンタリオンの目撃報告があった北部へ向かっていた。
 騎士のほとんどが五十代だが、まだまだ現役のベテランで実力も衰えていない。
 グレンは四十代半ばだが、彼らを一つにまとめて指揮をとれることに、この上ない頼もしさを感じていた。
 やがて、第一陣は廃墟と化した村の中央広場を過ぎた辺りで足を止めた。

「――そんな……」

 老騎士の一人が上空を見上げ、唖然と呟く。
 前方には、まるで城塞のように巨大な悪魔ダンタリオンの姿があった。
 大きく湾曲した角を生やす悪魔の頭部は、肉なきむき出しの骸骨。背の巨大な翼を広げ、全身は毒々しい紫の毛皮で覆われている。その内側には、臓物のような脈動する紺の物体が詰め込まれており、不気味にも人の顔が浮き彫りになっていた。
 周囲には薄紫の濃い霧がたちこめ、下顎のない頭部から溢れ出すどす黒いドロドロの原液は周囲に溢れ出し、一定の範囲まで広がると気化する。移動は全身を引きづるようなホバー移動で、徐々に原液の波を伸ばし、進行上の障害物はなぎ倒して溶かしているようだ。
 
「ちぃっ……」

「こんなに魔物がいたら、手がつけられん」

 ダンタリオンの周囲には、まるで護衛のようにイービルアイやアラクネ、デビルテングなどの魔物が複数飛び回っていた。
 だが問題はそこではない。
 ダンタリオンの移動速度が予想に反して速すぎるのだ。

「大隊長!」

 横から副隊長に声をかけられ、グレンは神妙な表情で頷く。
 すると、副隊長は老騎士たちに戦闘開始の号令をかけた。

「「「――うおぉぉぉっ!!」」」

 老騎士たちは武器を握りしめて雄たけびを上げ、絶望に臆することなく魔物たちへ向かって行く。

「シュウ、お前はいつでもカムラへ戻れるように準備しておけ」

 グレンは横にいた童顔で優しそうな雰囲気の騎士へ告げた。
 彼は見た目に反して四十歳で、この臨時部隊の中では一番若かった。カムラへの伝令役だ。
 シュウは頷くが、困惑を隠せない。

「は、はい。しかしまだ情報が掴めていませんが……」

「いや、重要なことが判明した。奴は報告にあった場所から、もうここまで進んでいる。それはつまり、目的があってそこへまっすぐに向かっているということだ。そして、奴の進行方向にあるのは、カムラだ」

 シュウは顔を強張らせ、息を呑む。
 
「最悪だ……」

「ああ、一刻早く領主様に伝えたい。だがせめて、奴を足止めする方法ぐらい特定しておきたいが……」

 グレンが今シュウを戻らせるべきか、もう少し情報を待つべきか悩んだ。
 そうこうしているうちに、戦況は目まぐるしく変わっていく。
 老騎士たちはさすが大ベテランと言ったところで、複数人で連携し、堅実に立ち回っている。
 被害もなくはないが、確実に魔物を仕留め、状況は均衡していた。

「――ダンタリオンから離れろ! 原液に触れたら体が消滅するぞ!」

 魔物との攻防に集中し、ダンタリオンの接近に気付かない騎士たちへグレンは叫んだ。
 彼らは慌てて後退しようとするが、運悪くデビルテングの反撃を受ける者がいた。

「くっ!」

 慌てて跳んで回避し、地面を転がる。
 なんとか攻撃は避けることには成功したが、迫っていたダンタリオンの原液に触れてしまう。
 
「う、うわぁぁぁぁぁっ!」

 その騎士は瞬く間に飲まれ霧と化した。

「んなっ!?」

 それを老騎士たちは顔を絶望に歪める。
 原液はまるで生き物のようだった。騎士が触れた途端、液体はまるで生き物のようにうねって立ち上がり、獲物を丸呑みしたのだ。
 さらに、原液は騎士たちが倒した魔物の死骸を飲み込み、霧へと変質させ、新たな魔物を生み出していく。
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