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第十四章 カムラを守る命たち

迫りくる怨嗟の怪物

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 時は少し遡り、シュウゴたちが神殿の遺跡へ向かってすぐ、異変は起こった。

 最初に気付いたのは、カムラ北の高台の上で新兵器『電磁加速式光線源投射砲ハイパーレーザーカノン』の設置作業をしていた中年の男だった。
 彼が作業の手を止めてふと町の外を見渡すと、普段は遠くすら見通せない半透明な灰色の霧が今、巨大なバケモノの姿をかたどっていたというのだ。
 
「――なにかの見間違いじゃないんですかぁ?」

 高台の下でざわついている作業員の一人から話を聞いたシモンは、疑うように眉をしかめ聞き返した。

「で、でも、あの真面目な『やっさん』が言うことですから……」

 やっさんというのは、高台で作業している中年の鍛冶職人だ。ガタイも手際も良く、なにより誠実で、彼に武具の鍛造たんぞうを頼むハンターも多い。
 シモンは「そっかぁ」とため息のように呟き、自分もその光景を見ようと、高台の壁に立てかけてあるハシゴに足をかける。
 その直後、第二教会から数人の騎士が青ざめた顔で飛び出て来て、シモンは足を止めた。
 彼らの慌てように驚いた初老の鍛冶職人が、騎士の一人をつかまえ、事情を聞いた。

「おいっ、一体どうした?」

「バッ……」

「ば?」

「バケモノだ! 都市のバケモノ……ダンタリオンが廃墟の村に出たんだっ!」

「んな!?」

 シモンを含め、その場にいた全員が絶句する。
 騎士たちは大慌てで討伐隊駐屯所へ向かって行った。

 ――それからすぐに幹部が集められた。
 グレンも事情を知り、業務を即座に中断して領主の館に駆けつけた。
 館の二階は今、いつも通りヴィンゴールの左右に幹部たちが立ち並んでいるが、かつてない緊張感に包まれていた。

「みなさまおそろいのようですので、早速本題に入ります」

 キジダルが前に出て説明を始める。
 その表情はいつもより険しく、緊張のためか眉がひくひくと痙攣していた。

 ――非常事態が発生したのは、シュウゴたちがクエストへ出発してから数十分後のこと。
 当時、討伐隊のうちの一小隊が廃墟と化した村で魔物討伐及び素材の収集を行っていた。彼らは順調に足を進め、村の最北端まで差し掛かった。
 そのとき一人の隊員が気付いたのだ。普段よりも明らかに霧が濃いことに。
 そしてさらに進むと、濃い霧の中にダンタリオンの姿が浮かび上がったという。
 彼らはクラスS級の魔物の出現に泡吹き、一目散に逃げた。
 報告を受けたグレンは、すぐさま汚染された都市へ小隊を派遣してみたが、ダンタリオンの姿はなかったという――
 
 キジダルが状況報告を終えると、すぐに広報長官が狼狽し青ざめた顔で口を開ける。 

「な、なぜですか!? なぜこんな急に……」

 その細い腕がかすかに震えていた。
 総務局長もまるい額に油汗を滲ませる。

「そうです! あの都市から村までどれほどの距離があるか……」

「理由は分かりません。しかしこの数日、討伐隊が汚染された都市へ行っていないことは事実です。新兵器開発に必要な材料は、基本的に山脈や洞窟で手に入るので」

 グレンがここに来る前にかき集めた情報を伝える。ダンタリオンを見た者がいないのであれば、あれが動いても気付かないのは仕方ない。
 バラムもゆっくり頷いた。

「ハンターも同じく」

「その数日の間に移動したというのか……」

「でしょうね。あれほどの巨体ですから、移動速度は我々の尺度では測れません」

 ゲンリュウの重苦しい呟きに、参謀が答えた。
 人間の一歩と巨人の一歩では、またぐ距離に大きな差があるのだ。
 そこで、神妙な面持ちで腕を組み沈黙していたヴィンゴールがようやく口を開く。

「あの手記にある予言の日が、こんなに早く来たというのか。ファラン、迎撃用の砲台の完成はまだか?」

「申し訳ありません。設置はもう間もなく完了するところですが、実用化には機能試験と校正による調整が必要となってきます」

「そうか……そなたらが最前を尽くしてくれているのは理解しているが、今は一刻いっこくを争う。万全の状態でなく、たとえ一度きりだったとしても、どうにか使うことはできないか?」

 ヴィンゴールは悩んだ末に言った。無理やりにでもレーザーカノンを発射させるという判断だ。
 ファランはその言葉を予想していたように、表情を変えることなくすぐに了承した。

「かしこまりました。なんとしても形になるよう最善を尽くします」

「任せる。ゲンリュウ」

「はっ!」

「すぐに討伐隊を招集し、ダンタリオンの迎撃に向かわせろ。カムラにあるあらゆる資源を使うことを許す」

 ヴィンゴールがそう指示を出すと、キジダルが険しい表情で前に出た。

「お待ちください」

「なんだ?」

「恐れながら、予言にある『ダンタリオンのカムラ襲撃』と判断するにはまだ早いかと」
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