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第十三章 真実を知る者

神具の力

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「――これでもダメなのか……」

 レーザーの照射が終わっても、光の障壁にはヒビ一つ入っていなかった。
 シュウゴの表情に絶望の色が浮かぶ。
 トライデントアイの最大出力をもってしても通じないとなると、なすすべがない。
 それでも攻撃の手を緩めず、ニアがサタンの背後から襲い掛かり、シュウゴも遅れて続いた。
 隼の充電はとっくに完了しているが、これを開放したところで状況は変わらないだろう。
 
(――お兄様危ない!)

 必死に頭を回転させていたため、大きな隙ができたことにシュウゴは気付けなかった。

(しまっ……)

 シュウゴが視界に意識を戻したときには、もう胸の前までティルヴィングの切っ先が迫っていた。
 動きがスローモーションに見えた。
 サタンの背後から、ニアが慌てて右肩へ爪を振り下ろそうとしている。
 シュウゴもそうだが、その動作によって彼女も隙だらけだ。

「……バカが」

 サタンは一瞬酷薄な笑みを浮かべると、シュウゴへ突きを繰り出していた体勢から瞬時に一回転。
 真後ろにいたニアを薙ぎ払った。

「カハッ!」

 ティルヴィングの黒い刀身がニアの胸を一文字に斬り裂き、鮮血が飛び散った。ニアは苦痛に顔を歪めるが、それでもヒュドラの血の生命力は並ではない。
 だがサタンもそれだけで終わらず、左手に漆黒の炎を溜めていた。
 至近距離でニアへ放ち、轟音と共に吹き飛ばされた彼女は壁へ叩きつけられた。ニアはその衝撃で気を失い、力なく床へと落下。同時に形態変化も解けていた。

「ニアぁっ!」

 シュウゴが顔を歪め必死に叫ぶ。
 サタンは何事もなくシュウゴへ振り向くと、神経を逆撫でするような薄ら笑いを浮かべた。

「ふんっ、貴様でもおとり程度の役には立ったか」

「くっそぉぉぉっ!」

 怒りに我を忘れたシュウゴは、帯電していた稲妻を開放する。
 瞬時に間合いを詰める。
 そして、ただ力任せに雷纏う斬撃を叩きつけ、連撃を繰り出した。
 サタンは余裕に頬を緩め、軽々と稲妻の連撃をいなしていく。
 
「まだそんな力を残していたのか。だが、遅い!」

 サタンは最小限の動作で連撃をいなした後、冷静に隙を見極め魔剣の切っ先を突き出す。
 弾丸のような鋭い突きはアイスシールドで防ぐが、ただの一突きで氷の障壁は破壊され突き飛ばされる。

「ぐぅっ!」

 勢いよく吹き飛び距離を離されるが、なんとかバーニア噴射で留まる。
 あまり破壊力に苛立ちを募らせるが、そのとき脳裏に閃いた。

(そうだ! メイ、グングニルだ! あの槍を使え!)

 目前へサタンの追撃が迫る中、シュウゴは必死に念じる。
 ティルヴィングは容易く竜の鱗すら斬った。それは神の道具であるからに他ならない。ならば、サタンを倒せるのも同じ神具。

(は、はいっ!)

 メイは急いでグングニルの元へ駆け出す。

 ――キイィィィンッ!

 振り下ろされたティルヴィングをブリッツバスターで受け止めると、サタンがシュウゴの顔を覗き込み、眉を寄せた。

「……なにか企んでいる顔だな」

 シュウゴは答えずサタンを睨みつける。
 だがそれも一瞬。
 いくら雷を纏わせたブリッツバスターであっても、ティルヴィング相手に持ちこたえられず、すぐに押し切られた。
 
「そらっ!」

「ぐっ!」

 サタンの蹴りを左腕で受け止めるが、衝撃で大きく蹴り飛ばされる。
 そのとき、メイの苦悶の声が頭に届いた。
 
(う、ぅぅぅっ……)

「メイ?」

 シュウゴがサタンに警戒しながら一瞬メイへ目を向けると、彼女はグングニルを掴んで硬直していた。

「はっ、神具をそう簡単に扱えると思うなよ虫けら。生身で触れればたちまち皮膚は焼かれ、見えない神力に弾かれる」
  
 サタンは不敵な笑みを浮かべた。
 彼の言う通り、メイは見えない力で体を吹き飛ばされ、床を転がった。
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