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第十二章 海の汚染源

黒い霧

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 ――フシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!

「っ!?」

 シュウゴは即座に噴射を止め急停止。
 クラーケンの口元の細い無数の触手がうねり、口内から霧が凄い勢いで放たれたのだ。それは真っ黒な霧で瞬く間に宙に充満し、海が暗黒に包まれる。
 カイシンの甲板では船員たちがパニックに陥っていた。
 
「な、なんだ!?」
「霧、だと……」
「くそっ! なにも見えねぇ!」
 
 濃さは明けない砂漠でアンフィスバエナが発しているものと同じだ。今まで見えていた触手や本体、カイシンの姿も覆い隠してしまう。

「くそ……」

 ユミルクラーケンの姿も見失ってしまったシュウゴ。
 しかしあの巨体だ。すぐに移動できるとは思えない。
 シュウゴは不穏な空気に流されず、大剣を強く握り直すと再び突進する。さきほどまでクラーケンが見えていた方向へ。
 しかしそのとき、前方で突如眩い光が生まれた。
 
「んなっ!?」 

 シュウゴが驚愕の表情を浮かべたと同時に、霧の奥から白光のレーザーが放たれる。
 シュウゴは反射的に右へバーニアを噴射し、ギリギリで直撃を避ける。レーザーは肩をかすめ、装甲と一本の小型レーザー砲『ゴースト』を焼き削りとった。
 さらに二撃目が迫る。
 
「くっ!」

 次はかわしきれず、アイスシールドを展開しレーザーを防御。その火力で押し飛ばされ、体勢を崩す。
 シュウゴは今の攻撃で確信した。
 あれはイービルアイのレーザー照射だ。今までに何度も受け止めているから間違いようがない。
 
「柊く~ん! 危ないっ!」
 
 ニアの叫び声がシュウゴの耳に届く。
 体勢を崩し、きりもみしながら浮遊しているシュウゴの元へ二つの影が急接近していた。
 隼の肘バーニアを駆使して強引に前を向く。

「こん、のぉぉぉっ!」

 強引に体をねじり、目前まで迫っていた鋭利な爪を紙一重でかわすと、すれ違いざまに大剣を水平に薙いで敵の胴体を斬る。それは和風の装束を裂き、肉を斬った。
 続けて爪を繰り出してきた二体目の攻撃をアイスシールドで弾いて大剣を引き、切っ先を敵の胸へ向けるとカウンターで突き刺した。

「――クアァァァァァッ」

 甲高い奇声を発しながら海へと墜落していった魔物は、竜の山脈に出没するはずの『デビルテング』だった。
 一体どういうことかと、シュウゴがクラーケンのいた前方を見ると、

「なんだと……」

 霧の中から数々の魔物が現れた。
 イービルアイやデビルテング、さらにアラクネまで青黒い蝶の羽を広げて飛んでいる。
 おそらくダンタリオン同様、この霧によって魔物たちを生んでいるのだ。
 シュウゴの額に冷や汗が浮かび、悔しげに顔を歪めた。今は長期戦などする余力がないのだ。
 
「くっそぉぉぉっ!」

 それでもシュウゴは魔物たちへ向かって行く。
 ニアも援護しようと羽ばたいて前進するが、レーザーと糸の束の一斉攻撃を受ける。

「うっ……」

 全ては避けきれず、糸が右翼に絡まった。これではまともに飛べない。
 それでも攻撃の手は緩むことなく降り注ぎ、ニアは左翼だけで大きく羽ばたきながら攻撃をスレスレで避け後退すると、カイシンの甲板へ不時着した。
 ニアは急いで絡まった糸を爪で剥がしながら周囲を見回す。

 ――カイシンも総崩れだった。
 触手に加え、イービルアイやアラクネが上空から攻撃をしかけ、大砲とレーザーを破壊していく。騎士たちも剣を抜いて戦うが、そもそもクラスCの魔物は通常の騎士やハンターでは一人で倒しきれない。
 ハナやデュラも奮闘してはいるが、カバーしきれず被害が瞬く間に広がっていく。
 
「――ニア殿! ご無事ですか!?」

「え? う、う~ん!」

 ニアの存在に気付いた一人の魔術師が彼女に駆け寄って来る。
 しかし、彼女の目の前まで来た瞬間――
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