145 / 251
第十章 侵された聖域
疫病
しおりを挟む
それからハナは用事があると言って先に鍛冶屋を出た。
「――それで、例の聖女フェミリアについては調べがついたのか?」
「いいや。あれから領主様のところの書庫で調べ続けてるけど、これといって有用な情報はまだない。一つ分かったのは、『聖女』という存在がある聖域で神の加護を受けた者のことを指すらしいってことだけだ」
「ある聖域? それはどこのことだ? それに加護っていうのは?」
手がかりになりそうな情報を聞き、シュウゴが身を乗り出す。
しかしシモンは苦い表情で首を横へ振る。
「聖域の場所も、加護の内容も、なにも分からないんだよ」
「そうか……」
シュウゴは目に見えて落胆し肩を落とす。
謎の手記には、目撃されたことのない魔物の情報までぎっしりと詰まっている。だから、その持ち主と思われる聖女フェミリアが凶霧の詳細について知っているに違いないのだ。だからこそ落胆を隠せない。
そんなシュウゴを見てシモンもため息を吐くが、すぐに頭に疑問符を浮かべた。
「そういえば、それを確認するためにここに来たのか?」
「ん? あっ忘れてた!」
シュウゴはパッと顔を上げると、腰のポーチから一枚の設計図を取り出す。
ハナとの再会や聖女のことに気を取られてすっかり忘れていたのだ。
シュウゴはようやく本題に入った。
「この装備を作って欲しいんだ」
シモンはまたどんな無茶ぶりをされるのかと、眉をしかめながら設計図を受け取る。
それを真剣な表情で食い入るように見ていると、彼の目が徐々に見開かれていった。
「おいおい、これって――」
それから数日後、シュウゴたちは前回の戦いで消耗した装備の修理と消費したアイテムの補充を済ませ、久々のクエストに出ることにした。最近は「設計士様」とちやほやされて忘れがちだが、本業はハンターだ。あまりサボっているとクラスを落とされかねない。とはいえ、クラスBなど目立つからあまり好きではないのだが。
シュウゴは紹介所の掲示板で適当なクエストを選ぶと、発注書を受付のユナに渡す。
ユナは左右のハーフツインを揺らしながら愛嬌のある笑みを浮かべた。
「あっ、シュウゴさん! お疲れさまです」
末っ子のユナは、姉二人とは違って活発な性格で、シュウゴと話すときは特に楽しそうに表情をコロコロ変える。初対面のときは事務的な対応だったが、最近は気を許してくれているのだろう。
女の子に話しやすい相手だと思われていることに、シュウゴは内心で歓喜していた。
シュウゴも頬を緩めながら挨拶を返す。
「ユナさん、こんにちは。クエストの説明を頼めるかな?」
「はいっ。えっと……フィールドは沼地で、クエストの目的は十種類以上の薬草の採取です。依頼主様は教会の医師をされている方で、『新種の疫病』の特効薬を探すことが目的のようです」
「疫病?」
シュウゴは思わず聞き返した。新種の疫病が発見されたなんて知らない情報だ。不穏な単語を聞き逃すわけにはいかない。
ユナは「そうなんです……」と真剣な表情になって説明を始める。
「つい数日前、今までにない新種の疫病が発見されたみたいなんです。患者はまだ数人ですので、感染力は不明ですがどうも既存の処方薬では効きが悪いみたいなんですよ」
「それで手あたり次第に薬草を集めてるってことか」
「はい。実際、沼地以外にも洞窟や竜の山脈なんかでも採集依頼を出されていて、今は他のハンターの方が挑まれているところなんですよ」
「新種の疫病かぁ……良い薬草が見つかるといいけど」
シュウゴが眉間にしわを寄せ、表情を曇らせる。デジャブを感じるのだ。転生前の現代でも、新種のウイルスが原因で世界中が大変なことになった記憶が微かに残っている。
その詳細を思い出そうと、物思いにふけっていると、メイとニアが心配そうに左右から顔を覗き込んできた。
「お兄様? どうかされましたか?」
「柊くん~? 悩みごとだったら、私に相談してよ~」
シュウゴはハッと我に返ると、「大丈夫だ」と言ってクエストの受注手続きを済ませた。
「シュウゴさん、お三方もお気を付けて行ってらっしゃいませ」
ユナの見送りを受けてシュウゴ、メイ、ニア、デュラの四人パーティーは沼地へ向かうのだった。
「――それで、例の聖女フェミリアについては調べがついたのか?」
「いいや。あれから領主様のところの書庫で調べ続けてるけど、これといって有用な情報はまだない。一つ分かったのは、『聖女』という存在がある聖域で神の加護を受けた者のことを指すらしいってことだけだ」
「ある聖域? それはどこのことだ? それに加護っていうのは?」
手がかりになりそうな情報を聞き、シュウゴが身を乗り出す。
しかしシモンは苦い表情で首を横へ振る。
「聖域の場所も、加護の内容も、なにも分からないんだよ」
「そうか……」
シュウゴは目に見えて落胆し肩を落とす。
謎の手記には、目撃されたことのない魔物の情報までぎっしりと詰まっている。だから、その持ち主と思われる聖女フェミリアが凶霧の詳細について知っているに違いないのだ。だからこそ落胆を隠せない。
そんなシュウゴを見てシモンもため息を吐くが、すぐに頭に疑問符を浮かべた。
「そういえば、それを確認するためにここに来たのか?」
「ん? あっ忘れてた!」
シュウゴはパッと顔を上げると、腰のポーチから一枚の設計図を取り出す。
ハナとの再会や聖女のことに気を取られてすっかり忘れていたのだ。
シュウゴはようやく本題に入った。
「この装備を作って欲しいんだ」
シモンはまたどんな無茶ぶりをされるのかと、眉をしかめながら設計図を受け取る。
それを真剣な表情で食い入るように見ていると、彼の目が徐々に見開かれていった。
「おいおい、これって――」
それから数日後、シュウゴたちは前回の戦いで消耗した装備の修理と消費したアイテムの補充を済ませ、久々のクエストに出ることにした。最近は「設計士様」とちやほやされて忘れがちだが、本業はハンターだ。あまりサボっているとクラスを落とされかねない。とはいえ、クラスBなど目立つからあまり好きではないのだが。
シュウゴは紹介所の掲示板で適当なクエストを選ぶと、発注書を受付のユナに渡す。
ユナは左右のハーフツインを揺らしながら愛嬌のある笑みを浮かべた。
「あっ、シュウゴさん! お疲れさまです」
末っ子のユナは、姉二人とは違って活発な性格で、シュウゴと話すときは特に楽しそうに表情をコロコロ変える。初対面のときは事務的な対応だったが、最近は気を許してくれているのだろう。
女の子に話しやすい相手だと思われていることに、シュウゴは内心で歓喜していた。
シュウゴも頬を緩めながら挨拶を返す。
「ユナさん、こんにちは。クエストの説明を頼めるかな?」
「はいっ。えっと……フィールドは沼地で、クエストの目的は十種類以上の薬草の採取です。依頼主様は教会の医師をされている方で、『新種の疫病』の特効薬を探すことが目的のようです」
「疫病?」
シュウゴは思わず聞き返した。新種の疫病が発見されたなんて知らない情報だ。不穏な単語を聞き逃すわけにはいかない。
ユナは「そうなんです……」と真剣な表情になって説明を始める。
「つい数日前、今までにない新種の疫病が発見されたみたいなんです。患者はまだ数人ですので、感染力は不明ですがどうも既存の処方薬では効きが悪いみたいなんですよ」
「それで手あたり次第に薬草を集めてるってことか」
「はい。実際、沼地以外にも洞窟や竜の山脈なんかでも採集依頼を出されていて、今は他のハンターの方が挑まれているところなんですよ」
「新種の疫病かぁ……良い薬草が見つかるといいけど」
シュウゴが眉間にしわを寄せ、表情を曇らせる。デジャブを感じるのだ。転生前の現代でも、新種のウイルスが原因で世界中が大変なことになった記憶が微かに残っている。
その詳細を思い出そうと、物思いにふけっていると、メイとニアが心配そうに左右から顔を覗き込んできた。
「お兄様? どうかされましたか?」
「柊くん~? 悩みごとだったら、私に相談してよ~」
シュウゴはハッと我に返ると、「大丈夫だ」と言ってクエストの受注手続きを済ませた。
「シュウゴさん、お三方もお気を付けて行ってらっしゃいませ」
ユナの見送りを受けてシュウゴ、メイ、ニア、デュラの四人パーティーは沼地へ向かうのだった。
0
お気に入りに追加
259
あなたにおすすめの小説
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ハクスラ異世界に転生したから、ひたすらレベル上げしながらマジックアイテムを掘りまくって、飽きたら拾ったマジックアイテムで色々と遊んでみる物語
ヒィッツカラルド
ファンタジー
ハクスラ異世界✕ソロ冒険✕ハーレム禁止✕変態パラダイス✕脱線大暴走ストーリー=166万文字完結÷微妙に癖になる。
変態が、変態のために、変態が送る、変態的な少年のハチャメチャ変態冒険記。
ハクスラとはハックアンドスラッシュの略語である。敵と戦い、どんどんレベルアップを果たし、更に強い敵と戦いながら、より良いマジックアイテムを発掘するゲームのことを指す。
タイトルのままの世界で奮闘しながらも冒険を楽しむ少年のストーリーです。(タイトルに一部偽りアリ)
2度追放された転生元貴族 〜スキル《大喰らい》で美少女たちと幸せなスローライフを目指します〜
フユリカス
ファンタジー
「お前を追放する――」
貴族に転生したアルゼ・グラントは、実家のグラント家からも冒険者パーティーからも追放されてしまった。
それはアルゼの持つ《特殊スキル:大喰らい》というスキルが発動せず、無能という烙印を押されてしまったからだった。
しかし、実は《大喰らい》には『食べた魔物のスキルと経験値を獲得できる』という、とんでもない力を秘めていたのだった。
《大喰らい》からは《派生スキル:追い剥ぎ》も生まれ、スキルを奪う対象は魔物だけでなく人にまで広がり、アルゼは圧倒的な力をつけていく。
アルゼは奴隷商で出会った『メル』という少女と、スキルを駆使しながら最強へと成り上がっていくのだった。
スローライフという夢を目指して――。
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ)
安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると
めちゃめちゃ強かった!
気軽に読めるので、暇つぶしに是非!
涙あり、笑いあり
シリアスなおとぼけ冒険譚!
異世界ラブ冒険ファンタジー!
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる