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第九章 王家の墓の死王

時の人

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 シュウゴとシモンが顔を強張らせ、静かに思考を巡らせていると陽気な乱入者が現れた。

「――ああ~柊くんやっぱりいた~」

 そう言って入口の暖簾のれんをくぐり、シュウゴの元まで駆け寄って来たのはニアだった。ウェーブがかった色素の薄い青髪に花の髪飾りを着け、肌触りの良さそうな絹で出来た、緑と白のワンピースを着ている。肩部が露出し下の丈が短めなこともあってか、今どきの町娘という雰囲気だ。
 シュウゴが驚いて立ち上がると、ニアが正面から抱きついてきた。

「おわっ!?」

 変な声を上げたのはシモンだった。
 シュウゴも驚いて、両手でニアの体を離し問いかける。

「教会の手伝いはどうしたのニア?」

「今日はあまりやることないから、帰ってもいいってマーヤ様から言われたの~」

「そうだったのか。でも、メイはどうした?」

「えっとねぇ、買い物してから帰るって言うから、私は散歩して帰るって言って別れたんだ~。そしたら、柊くんの匂いに気が付いて~」

 ニアは嬉しそうにシュウゴの腕に頬をすりすり。シュウゴのシャツの生地が薄いため、義手のゴツゴツした感触がダイレクトに伝わるはずだが、ニアはそれが良いと言う。
 二人は、背後で負のオーラが大きくなっていることに気付かなかった。

 ――ブッチィィィンッ!

「こらぁっ! イチャつくのなら、よそでやれぇぇぇっ!」

 シモンが鬼の形相で怒鳴り、二人は店から追いだされた。

 二人は慌てて鍛冶屋を出ると、商業区を北東へ向かって歩き出した。
 ニアは不思議そうに首を傾げながら、おっとりした目でシュウゴを見上げる。

「シーくん怖いん~?」

「そんなことはないけど、急に機嫌が悪くなったな。疲れてるんだろう」

 鈍感な二人。シモンが不憫で仕方ない。
 二人が手を繋いで歩いていると、周囲の視線を感じた。

「おい、あれが噂の……」

「設計士様よ!」

「おぉ、さすがは設計士様だ。あんな美少女を連れているなんて羨ましい……」

「あれは確か、竜種の女の子じゃないかしら?」

 道行く人々が足を止め、シュウゴへ目を向ける。嫌悪するような雰囲気でないのが幸いだ。
 しかしこんなにも注目されているのに、ニアときたらシュウゴの腕にべったりくっついている。
 シュウゴはなんだか気恥ずかしかった。羨望の眼差しを受け続けたシュウゴは、耐え切れなくなり歩くスピードを速める。

「設計士様、凛々しくて素敵……」

「けっ、俺もあの人の脳ミソが欲しいぜ」

 シュウゴは気まずさを紛らわせるために、ニアへ声をかける。

「なんかかなり目立ってないか?」

「みんなやっと柊くんの凄さが分かったんだよ~。やっぱり柊くんはカッコいいね~」

 ニアが嬉しそうに目を細める。

「――こらっ、ニアちゃん!」

 すると、彼らの前方に立ち塞がった人影があった。
 呼び止められたニアは、目をパチクリさせてシュウゴと共に立ち止まる。
 目の前で肩を震わせて立ちはだかっているのはメイだった。

「メイ? 買い物は終わったの~?」

「終わりましたよ。まったくあなたときたら……家に帰ると言ってたくせに、お兄様を連れ出して……」

 メイがむぅと頬を膨らませる。
 シュウゴは、微笑ましさに頬を緩ませるが、周囲の視線が痛いほど刺さるので、メイの元まで歩み寄った。

「まあまあ。メイ、落ち着いて」

 そう言ってメイの頭にポンポンと軽く手を乗せると、彼女の手から食材の入った袋を奪い、足早に家へと歩き出す。早く人の視線から逃れたかったのだ。

「あっ、お兄様、待ってください!」

「柊くん置いてかないで~」 

 二人も慌てて後ろに着いて来る。

(みんな、変な噂立てないでくれよ?)

 シュウゴは内心で祈りながら、帰路につく。
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