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第六章 竜種絶滅秘話

もう一人の生き残り

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「まぁそう悩むことはない。この大陸を歩き続ければ、おのずと真実は見えてくるはずだ。必要であれば力を貸そう」

「ほ、本当ですかっ!?」

「久方ぶりに楽しませてもらったからな。その礼だ」

 ドラゴンソウルは朗らかに笑う。

「ただ、力を貸そうにも残念ながら戦力にはなれんが」

「それは仕方のないことです。この山にはもう、あなたとアークグリプスしか……」

「うん? ああ、生き残った竜種はもう一人おるぞ」

 そのときシュウゴの頭に今の言葉が引っ掛かった。
 ドラゴンソウルは「もう一人」と言ったのだ。「もう一体」ではなくて。
 すぐにその理由を知ることになる。

「――父上~いずこ~?」

 突然、ドラゴンソウルの後方から少女の眠たげな声が聞こえてきた。
 その声の主は、ひょっこりと玉座の後ろから顔を出す。

「おおっ、ニアか。丁度客人が来ているのだ。紹介しよう」

 ドラゴンソウルの声は、今までの威厳を吹き飛ばすかのように優しく弾んだ声だった。まるで子煩悩な親のように。

「おっ?」

 ニアと呼ばれた女の子は玉座の横に立った。
 メイと同じか少し年上ぐらいの若干野性味のある美少女だ。
 薄い褐色の肌で色素の薄い青髪、おっとりした目元とまだ幼さが残る愛嬌ある顔立ちだ。
 身に纏っているのはボロボロになったデビルテングの装束。
 彼女は瞳を輝かせて八重歯を覗かせ、シュウゴに見入っていた。

「シュウゴ、ハナ、紹介しよう。この娘の名は『ドラニア』、竜人だが私の娘だ」

「えっ!?」

 シュウゴが驚きの声を上げた。

「驚くのも無理はない。本来は蛇竜だったが、凶霧の影響でこの姿になったのだ。理性を完全に失う前に凶霧を払えたおかげで助かった。ニア、そちらの客人はシュウゴとハナだ。ニアっ?」

 ニアは父の話を聞かず走り出していた。美少女がとてとてとシュウゴに駆け寄って来る。

「おぉぉぉ……男の人~? カッコよい~」

 彼女は興味深々といった様子で遠慮なくシュウゴに触ってくる。
 声がとても柔らかく、間延びしていてなんだか和んだ。

「なにぃぃぃっ!?」

 ドラゴンソウルが衝撃を受けたように吠えた。

「私のことはニアって呼んで~? よろしくね柊くん~」

 ニアは至近距離でシュウゴを見上げ、柔らかく微笑む。

「あ、あぁ……よろしく、ニア」

「うふふっ」

 シュウゴは彼女の愛らしい仕草にグラッときたが、なんとか顔に出さないよう踏み止まる。
 普段メイと一緒に生活しているおかげで美少女耐性がついていたようだ。
 ドラゴンソウルは無言だったが、強く睨みつけられているような雰囲気はヒシヒシと伝わって来た。
 ニアは次に、ハナの目の前に立つ。
 警戒しているハナの顔を色んな角度から見回しながら、ニコッと笑みを浮かべた。

「女の人~? 可愛いねぇ~」

「え? あ、ありがとう」

 ハナは顔を少し赤らめながら、どもるように礼を言う。嬉しかったのか髪の毛先をいじっている。

「仲良くしてね~」

 ニアが手を差し出すと、ハナはためらいがちに握った。
 なんとも和む光景だ。
 ニアはその後、アークグリプスの元に走って行き、彼の首元の毛皮に顔をうずめていた。

「もふもふ~」

「クゥゥゥン」

 アークグリプスも嬉しそうに目を細めている。
 ドラゴンソウルは一度大きく咳払いすると、感情を抑えるようにゆっくりニアのことを語った。

「ニアは竜人になってからずっとここにおる。だから我とアークグリプスしか話し相手がおらず、人との交流がないのだ。是非ともニアと仲良くしてやってくれ」

 それは父親としての頼みだった。
 シュウゴとハナは悩むことなく頷いた。

「もちろんです」

「異論はありません」

「恩に着る。そなたらのことは友と呼ばせてくれ」

 そのとき、シュウゴに衝撃が走った。
 龍王に友と呼ばれ、言いようのない喜びを覚えたのだ。
 嬉しさのあまり、今すぐシモンにでも自慢したい気分だ。
 固まっていたシュウゴの代わりにハナが応えた。

「こちらこそ、光栄です」

 シュウゴも慌てて首を縦に振る。

「ありがとうございます!」

 それからシュウゴは、山脈への出入りについて交渉した。
 資源が豊富なこの山に人間たちが出入りし、素材を採取することを許してくれないかと。
 ドラゴンソウルは悩んだ後、この山頂へ続く山道の下までは許してくれた。もし山頂へ行こうとした者がいれば、アークグリプスが攻撃するという条件で。
 シュウゴとその仲間だけは山頂に登ることを許すとも約束してくれた。

「――そんなところでどうだ? 足りぬか?」

「いえ、十分です。ありがとうございます」

 それだけの領域を行動できれば、資源の回収は十分だ。
 これでカムラは豊かになるに違いない。
 これであらかたの交渉は済んだ。
 シュウゴはそろそろカムラへ戻ろうかと思い、ハナへ振り向いた。

「……シュウゴくん」

 ハナは神妙な表情で気を張っていた。
 そのとき、シュウゴもようやく違和感に気付く。近くに不気味な気配と冷気を感じたのだ。
 さっきまではなかったもので、突然のことにハナも困惑している。

「――友よ」

 ドラゴンソウルが低い声でアークグリプスに語り掛けると、彼は翼を広げ飛んだ。
 山道にそって降下していく。

「あれ~? どしたの~?」

 今にも眠りそうだったニアは、目をこすりながら問う。
 しかしドラゴンソウルは優しく言った。

「なんでもないぞ」

「そぉなん~?」

 ニアは眠いのだろう。再び地面に蹲る。
 ドラゴンソウルはニアに極力聞こえないようシュウゴに問う。

「シュウゴ、気配を感じたか?」

「はい」

「ただ者ではないが、もしここまで来ようと言うのであれば容赦はできない。そなたらの仲間ではあるまいな?」

「おそらく違います。ですが、俺たちも確認に行ってきます」

「頼む」

 シュウゴとハナは顔を見合わせて頷くと、山道を下っていった。


 二人の姿が見えなくなった後、ドラゴンソウルはニアに語り掛けた。

「ニア、そなたは大人しく昼寝でもしておれ……ニア?」

 しかしニアの反応は返ってこない。寝てるのかと思い、先ほどまでニアが横になっていた場所を見ると姿がなかった。

「まさかっ!?」

 ドラゴンソウルは嫌な予感がしていた。好奇心旺盛なニアが行くところなど一つしかない。

「ニア……そなたは必ず守ってやる。この命に代えてもな」

 ドラゴンソウルは一人悲しげに呟いた。
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