上 下
82 / 251
第六章 竜種絶滅秘話

真の姿

しおりを挟む
 数えきれないほどの人の手が、凄まじい勢いでシュウゴたちへ迫る。
 シュウゴは思わず後ずさり、メイは屈みこんで頭を抱え、デュラは懸命にも主を守ろうとシュウゴの前に出る。
 だが、とうてい受け切れる数ではない。
 得体の知れないものに飲み込まれる。それをシュウゴが覚悟した、次の瞬間――

 ――ズバァァァッ! ズザザザザザァァァァァンッ!

 雨も降っていないのに突如雷鳴が鳴り響き、シュウゴの周囲に連続で白銀のいかずちが落ちた。
 あまりの眩しさに腕で目を覆っていたシュウゴは、雷鳴が止んでから腕をどけ目を開ける。

「っ!」

 目の前の光景に瞠目した。
 敵の腕が全てちぎれ、宙を舞っていたのだ。
 それらは、まるで霧のようにうっすらと消え失せていく。

「たす、かった?」

 メイが信じられないというように呆然と呟く。
 シュウゴも唖然としながらも、目の前の地面一帯が真っ黒に焦げているのを見て悟った。
 雷は、シュウゴたちに襲い掛かった手を焼き払ってくれたのだと。

 そしてその雷を放った者――いつの間にか現れていた圧倒的な存在感。その気配に目を向ける。
 岩盤の上にある突き出た崖、その上に四足で立ちシュウゴたちを見下ろしていたのは、麒麟だった。
 だが、以前とは雰囲気がまるで違う。
 角は蒼白に輝き纏っている雷も穢れなき純白。
 以前の荒々しさはなく、威風堂々と佇む様は神々しかった。

(これが、天雷の霊獣『麒麟』……)

 シュウゴはその真の姿に瞠目する。感動すら覚えた。
 だが、異形の者は相変わらずのマイペースで、麒麟に攻撃されたことなどお構いなしに第二波を放ってくる。
 再び雷鳴が響いたかと思うと、一瞬の後に麒麟がシュウゴたちの前に現れていた。
 デュラは麒麟の邪魔にならないよう、後ろへ下がりシュウゴの横につく。
 敵の周囲で空間が裂け、無数の青白い手がシュウゴへと勢いよく伸びてくるが、その手前に立ち塞がる麒麟の目前で全て弾かれた。
 まるで磁気のフィールドを張っているかのように、敵の手を寄せ付けずバチバチと弾く。
 らちが開かず、敵が一旦手を引っ込めると、麒麟はその角に稲妻を充填し前足を高く振り上げた。

「ヒヒィィィィィンッ!」

 そして気高くいななくと、お返しとばかりに白銀の雷球を放った。
 それはうねる雷の軌跡を描き、まっすぐに敵へ迫る。
 だが敵は、またも空間が歪んだようないびつな障壁を前方へ展開する。
 稲妻の斬撃やトライデントアイのレーザーを防いだものだ。
 シュウゴはこれも防ぎ切られると思った。

「――っ!?」

 しかしそれは違った。
 障壁の直前で突然雷球が直角に曲がり、上へと直進したのだ。
 そしてある程度上がると、光が弾け小さな雷の雨となって敵の頭上から降り注ぐ。
 突然の上空からの奇襲に、前しか守っていなかった敵は防ぎきれない。

「――す、凄い……」

 メイがしゃがんだままの状態でポカンと口を開いていた。
 雷が直撃し、ついに敵は膝をつくように上体を倒した。
 ローブがところどころ燃えている。

「………………………………」

 しばらく微動だにせず、シュウゴを見つめていた敵だったが、麒麟が再び角に雷を溜め始めるとゆっくり背後へ向き直り、歩き去っていった。

「……助かった、のか?」

 急に緊張が溶け、シュウゴが間の抜けた声で呟く。
 唖然とするシュウゴたちの目の前で再び雷光が走り、麒麟が崖の上に戻っていた。
 シュウゴはハッとして麒麟の姿を追いかける。
 色々と聞きたいことがある。
 たとえ言葉は発せなくてもなんらかの手がかりは得られるはずだ。

「ま、待って!」

 慌てて叫ぶが、麒麟はお辞儀するように律儀に頭を下げ、すぐに眩い雷光を放って消え去った。

「私たちを助けるために来てくれたんでしょうか?」

 メイが立ち上がりシュウゴの横にピッタリつく。
 シュウゴは首を振りながら言った。

「それは分からない」

 シュウゴたちが以前、彼を呪いから開放したから助けてくれたのか、それともあの異形の化け物と敵対していたから助けたのか。
 それは定かではないが、シュウゴはなんだか清々しい気分になっていた。

(礼ぐらい、言わせてくれよ)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

2度追放された転生元貴族 〜スキル《大喰らい》で美少女たちと幸せなスローライフを目指します〜

フユリカス
ファンタジー
「お前を追放する――」  貴族に転生したアルゼ・グラントは、実家のグラント家からも冒険者パーティーからも追放されてしまった。  それはアルゼの持つ《特殊スキル:大喰らい》というスキルが発動せず、無能という烙印を押されてしまったからだった。  しかし、実は《大喰らい》には『食べた魔物のスキルと経験値を獲得できる』という、とんでもない力を秘めていたのだった。  《大喰らい》からは《派生スキル:追い剥ぎ》も生まれ、スキルを奪う対象は魔物だけでなく人にまで広がり、アルゼは圧倒的な力をつけていく。  アルゼは奴隷商で出会った『メル』という少女と、スキルを駆使しながら最強へと成り上がっていくのだった。  スローライフという夢を目指して――。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない

AteRa
ファンタジー
エロゲの太ったかませ役に転生した。 かませ役――クラウスには処刑される未来が待っている。 俺は死にたくないので、痩せて死亡フラグを回避する。 *書籍化に際してタイトルを変更いたしました!

処理中です...