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第五章 怨嗟の奔流

アギト

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「――はぁっ!」

 勇ましい掛け声とともに一閃。
 同時に三匹の蛇の首が飛ぶ。
 ハナは器用にも、アギトへの雷の収束を継続しつつ襲い掛かって来る蛇を切り伏せていく。
 倒し損なっても、デュラに背中を預けているから隙は無い。
 デュラはランスと盾で攻防を繰り返し、メイがレーザーの単発射出で援護する。

「キリがありません。早くお兄様の援護に……」

 メイが表情を曇らせ呟き、奮闘しているシュウゴへ目を向ける。
 ハナは華麗に舞いながらも冷静だった。

「大丈夫、もう少しで――きた!」

 とうとう、アギトへの充電が完了する。
 ハナがその場で立ち止まり、横一文字にアギトを薙ぎ払った瞬間――

 ――スパァァァァァァァァァァンッ!

 迫っていた蛇たちが一斉に切断された。
 充電の完了したアギトは、凄まじいまでの熱量を刀身に宿し、まるでレーザーのように収束した白い刃を形成していた。
 それはアギトの本来の刃渡りを三メートルほどまで伸ばし、今なおビームソードのように揺らめいている。

 それこそ、アギトを設計したシュウゴの目的だった。
 ブリッツバスターは収束した雷を必殺の一撃として敵へ放つのに対し、アギトは武器自体の殺傷力を極限まで高めるようにしていた。
 無論、これを形にすべく奔走していたシモンが死にかけていたことは想像に難くない。
 おかげで蛇の第二波が来るまでの隙ができた。

「今よ、デュラくん! メイちゃんは援護よろしく!」

 ハナの呼びかけでデュラは盾を水平に持ちハナへ向ける。
 ハナが盾の上に跳び乗ると、デュラはナーガへ向けてハナを放り投げた。
 メイは一歩前に出ると、水面上へ向けて最大出力のレーザーを放つ。

「うぅぅぅっ!」

 アンデットの力を最大限に発揮し、照射しているレーザーを真横に薙ぎ払う。
 これでハナへ襲い掛かろうとした蛇の大半は倒した。

「後はお願いします、ハナさん」
 
 一方、シュウゴはナーガと接戦を繰り広げていたが決定打がなく、開放した雷も枯渇しかけていた。
 メイの放ったレーザー照射はナーガの腹部へ当たっていたものの、強靭な鱗に阻まれ火傷程度の傷しかつけられないでいた。
 距離が離れるほど威力が分散するため仕方がない。
 シュウゴは大蛇の噛みつきを紙一重で避け、その首を断つ。

「グヲォォォォォッ!」

 ナーガが苦しそうに唸った。これでやっと二体目。
 シュウゴはナーガが怯んだ隙にエーテルを飲み、雷を収束し始める。

「シュウゴくん!」

 ナーガの近くまで飛んできたハナが叫んだ。
 シュウゴが目を向けると、デュラに投げ飛ばされたハナは既に勢いを失っており、間もなく重力に負けようとしていた。
 シュウゴはオールレンジファングをハナへ放つ。

「掴まれハナ!」

 ハナがシュウゴの左手をしっかり掴むと、腕の噴射を止め巻き取り機構を作動させながら、ナーガへと振り投げた。
 ハナはシュウゴの左手を離すと、体勢を立て直しナーガへまっすぐに向かった。
 もちろん、それを見逃すナーガではない。

「グシャアァァァァァッ!」

 二体の大蛇と二本の大剣がハナへ襲い掛かる。
 しかし、シュウゴにとっては腕が密集した今こそ好機。
 残っていた全身の雷と、たった今収束した雷をブリッツバスターに込め、必殺の一撃を放つ。

 ――ズバアァァァァァンッ!

「グヲォォォォォッ!」

 ナーガの全ての腕を切断する。これでハナの行く手を阻むものはなにもない。

「いっけえぇぇぇぇぇっ!」

 シュウゴの声を背に受け、ハナは雷光迸るアギトを振り上げる。
 そして、成す術なく白い眼で睨みつけることしかできないナーガに肉薄し、

「はあぁぁぁぁぁっ!」

 左肩から大きく袈裟斬りにした。

「グワアァァァァァァァァァァンッ!」

 ナーガはひときわ大きい断末魔を上げると、ゆっくりと真後ろへ倒れ、最後に盛大な水飛沫を上げた。
 水面上に顔を出していた蛇たちも、目の光を失い力なく浮かび上がる。
 同時に、この付近から噴き出していた瘴気が徐々に収まっていった。

 シュウゴはすぐにバーニアを噴かし、沼の波にのまれそうになっていたハナをしっかりチャッチする。
 現代でいうところの『お姫様抱っこ』で。

「へっ?」

「お疲れ、ハナ。さすがの腕前だね」

「……う、うん……」

 シュウゴが声を掛けると、ハナはさっきまでの勇ましさはどこへやら、蚊の鳴くような声で答えた。
 仮面をつけているために表情は見えない。
 すぐにメイたちの待つ岸へ着地するとハナを降ろした。

「あ、ありがとう」

 ハナが仮面を外すと心なしか顔が赤くなっていたが、シュウゴは戦闘での疲労せいだと考えた。
 だから、駆け寄って来たメイが頬を膨らませていたのも、シュウゴがナーガに手こずり戦いを長引かせたためだと考えた。

「ハナさん、ズルいです……」

 その小さなヤキモチがシュウゴに届くことはなかった。
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