上 下
46 / 251
第四章 ライトニングハウンド

女武者

しおりを挟む
「――助太刀します」

 凛とした女性の声が耳に届いた。
 シュウゴが辺りを見回すと、通りに並ぶ倉庫の屋根を高速で走る人影があった。
 そしてそれは、一瞬ののちにシュウゴの目の前に飛来する。

「なっ!?」

 突然現れ目の前に華麗に着地したのは、見眼麗しく凛々しい雰囲気を纏った女だった。
 年齢は二十代半ばほどで、長い黒髪を後ろで一つに束ねており、凛々しい切れ長の目と透き通るような白い肌、そして整った鼻筋。
 凛々しい雰囲気もあって、可愛いと言うよりは美しい。
 赤い花柄の着物を中に着こみ、その上から武者の甲冑に似た肩当や腰当、籠手などを装着している。
 手練れの女武者といった風貌だ。
 そしてなにより目を引いたのは、頭の左上に自然に乗せている禍々しい般若のお面だった。
 彼女はかなりの高さから落ちてきたというのに、何事もなかったかのように立ち上がり、迫りくる強盗たちへ向き直った。
 対する強盗三人は、瞠目したものの勢いを落とさず、剣を振り上げてまっすぐに突進してくる。

「愚かな」

 女は低い声で呟くと腹の前で両手を交差させ、腰に差していた小太刀二刀に手をかける。
 そして力を溜めるかのようにゆっくり腰を落とし、

 ――ダンッ!

 地を蹴り姿を消した。

「っ!」

 シュウゴは思わず目を見開く。
 あまりにも速すぎた。
 神速の一閃。
 彼女が地を蹴ったとほぼ同時に放たれた一撃を認識した次の瞬間、次の一太刀が走っていた。
 また一閃、さらに一閃と……息を吐く間もなく、白の閃光が宙を走り回る。
 気付くと強盗三人組は白目をむき、地面に倒れ伏していた。
 恐らくなにが起こったのか理解も出来なかっただろう。
 血は流れているが致命傷ではなく、手や足などを正確に切り刻まれている。
 シュウゴは息一つ乱していない女の後ろ姿を見て、恐ろしくも美しいと感じた。
 それは、微かな高揚感でもあった。

「怪我はないですか?」

 シュウゴが唖然と佇んでいると、女は先ほどまでの抜き身の刀のような雰囲気を霧散させ、シュウゴへ振り向いていた。
 その表情には慈愛があり、愛嬌があった。
 彼女の印象がガラリと変わったことに、シュウゴは戸惑う。

「は、はい……助けて頂きありがとうございました」

 とりあえず礼を言い、頭を下げる。

「いえいえ。あなたこそ、丸腰なのに臆さず敵に挑むなんて勇気があるんですね」

「大したことじゃ……」

 シュウゴは頬を緩ませ、照れたように後頭部をかく。
 実は内蔵している機能があるから手放しで褒められると、なんとなく後ろめたいが、美人に褒められて悪い気はしない。
 そうこうしているうちに、メイと討伐隊が到着した。

「お兄様!」

 メイが血相を変えてシュウゴの元へ駆け寄って来る。
 その後ろに騎士三人が続き、現状を把握しようと周囲を見回していた。

「そこに倒れている三人組がパトロールしていた隊員二名を殺害し、倉庫の物品を奪い逃げ出したんです」

 混乱する騎士たちに説明を始めたのは女の方だった。

「そうだったのか……ん? あんたはまさか、クラスBハンターの『ハナ』か?」

 一番年上と思わしき騎士が驚いたというように声のトーンを変えて問うと、女は頷いた。
 それを聞いたシュウゴは驚きに声が出なかった。
 まさかこんなところで、凄腕のクラスBハンターに出会えるなど夢にも思わなかったのだ。

「そうだったのか。協力に感謝する。謝礼は追って――」

「――いえ、強盗犯たちを追いつめたはそこの彼です。私は横取りしたに過ぎないので、謝礼は彼にお願いします」

 ハナはシュウゴへ目を向け、迷うことなく謝礼を断ると踵を返した。
 シュウゴは歩き去ろうとする彼女に、慌てて声をかけようとするが、

「君、申し訳ないがこの事件の処理を手伝ってくれないか?」

 そう頼まれ、シュウゴはやむを得ずハナの背中を見送ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

辺境伯令息の婚約者に任命されました

風見ゆうみ
恋愛
家が貧乏だからという理由で、男爵令嬢である私、クレア・レッドバーンズは婚約者であるムートー子爵の家に、子供の頃から居候させてもらっていた。私の婚約者であるガレッド様は、ある晩、一人の女性を連れ帰り、私との婚約を破棄し、自分は彼女と結婚するなどとふざけた事を言い出した。遊び呆けている彼の仕事を全てかわりにやっていたのは私なのにだ。 婚約破棄され、家を追い出されてしまった私の前に現れたのは、ジュード辺境伯家の次男のイーサンだった。 ガレッド様が連れ帰ってきた女性は彼の元婚約者だという事がわかり、私を気の毒に思ってくれた彼は、私を彼の家に招き入れてくれることになって……。 ※筆者が考えた異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。クズがいますので、ご注意下さい。

空間魔法って実は凄いんです

真理亜
ファンタジー
伯爵令嬢のカリナは10歳の誕生日に実の父親から勘当される。後継者には浮気相手の継母の娘ダリヤが指名された。そして家に置いて欲しければ使用人として働けと言われ、屋根裏部屋に押し込まれた。普通のご令嬢ならここで絶望に打ちひしがれるところだが、カリナは違った。「その言葉を待ってました!」実の母マリナから託された伯爵家の財産。その金庫の鍵はカリナの身に不幸が訪れた時。まさに今がその瞬間。虐待される前にスタコラサッサと逃げ出します。あとは野となれ山となれ。空間魔法を駆使して冒険者として生きていくので何も問題ありません。婚約者のイアンのことだけが気掛かりだけど、私の事は死んだ者と思って忘れて下さい。しばらくは恋愛してる暇なんかないと思ってたら、成り行きで隣国の王子様を助けちゃったら、なぜか懐かれました。しかも元婚約者のイアンがまだ私の事を探してるって? いやこれどーなっちゃうの!?

Night Sky

九十九光
SF
20XX年、世界人口の96%が超能力ユニゾンを持っている世界。この物語は、一人の少年が、笑顔、幸せを追求する物語。すべてのボカロPに感謝。モバスペBOOKとの二重投稿。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

気まぐれ先生の学園生活

海下
BL
これは主人公 成瀬 澪が愛おしまれ可愛がられる。 そんな、物語である。 澪の帝紀生時代もいつか書きたいと思ってます、なんて。 完結目指して頑張ります。 更新頻度ジェットコースターです。

偽りの家族を辞めます!私は本当に愛する人と生きて行く!

ユウ
恋愛
伯爵令嬢のオリヴィアは平凡な令嬢だった。 社交界の華及ばれる姉と、国内でも随一の魔力を持つ妹を持つ。 対するオリヴィアは魔力は低く、容姿も平々凡々だった。 それでも家族を心から愛する優しい少女だったが、家族は常に姉を最優先にして、蔑ろにされ続けていた。 けれど、長女であり、第一王子殿下の婚約者である姉が特別視されるのは当然だと思っていた。 …ある大事件が起きるまで。 姉がある日突然婚約者に婚約破棄を告げられてしまったことにより、姉のマリアナを守るようになり、婚約者までもマリアナを優先するようになる。 両親や婚約者は傷心の姉の為ならば当然だと言う様に、蔑ろにするも耐え続けるが最中。 姉の婚約者を奪った噂の悪女と出会ってしまう。 しかしその少女は噂のような悪女ではなく… *** タイトルを変更しました。 指摘を下さった皆さん、ありがとうございます。

処理中です...