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第四章 ライトニングハウンド
女武者
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「――助太刀します」
凛とした女性の声が耳に届いた。
シュウゴが辺りを見回すと、通りに並ぶ倉庫の屋根を高速で走る人影があった。
そしてそれは、一瞬ののちにシュウゴの目の前に飛来する。
「なっ!?」
突然現れ目の前に華麗に着地したのは、見眼麗しく凛々しい雰囲気を纏った女だった。
年齢は二十代半ばほどで、長い黒髪を後ろで一つに束ねており、凛々しい切れ長の目と透き通るような白い肌、そして整った鼻筋。
凛々しい雰囲気もあって、可愛いと言うよりは美しい。
赤い花柄の着物を中に着こみ、その上から武者の甲冑に似た肩当や腰当、籠手などを装着している。
手練れの女武者といった風貌だ。
そしてなにより目を引いたのは、頭の左上に自然に乗せている禍々しい般若のお面だった。
彼女はかなりの高さから落ちてきたというのに、何事もなかったかのように立ち上がり、迫りくる強盗たちへ向き直った。
対する強盗三人は、瞠目したものの勢いを落とさず、剣を振り上げてまっすぐに突進してくる。
「愚かな」
女は低い声で呟くと腹の前で両手を交差させ、腰に差していた小太刀二刀に手をかける。
そして力を溜めるかのようにゆっくり腰を落とし、
――ダンッ!
地を蹴り姿を消した。
「っ!」
シュウゴは思わず目を見開く。
あまりにも速すぎた。
神速の一閃。
彼女が地を蹴ったとほぼ同時に放たれた一撃を認識した次の瞬間、次の一太刀が走っていた。
また一閃、さらに一閃と……息を吐く間もなく、白の閃光が宙を走り回る。
気付くと強盗三人組は白目をむき、地面に倒れ伏していた。
恐らくなにが起こったのか理解も出来なかっただろう。
血は流れているが致命傷ではなく、手や足などを正確に切り刻まれている。
シュウゴは息一つ乱していない女の後ろ姿を見て、恐ろしくも美しいと感じた。
それは、微かな高揚感でもあった。
「怪我はないですか?」
シュウゴが唖然と佇んでいると、女は先ほどまでの抜き身の刀のような雰囲気を霧散させ、シュウゴへ振り向いていた。
その表情には慈愛があり、愛嬌があった。
彼女の印象がガラリと変わったことに、シュウゴは戸惑う。
「は、はい……助けて頂きありがとうございました」
とりあえず礼を言い、頭を下げる。
「いえいえ。あなたこそ、丸腰なのに臆さず敵に挑むなんて勇気があるんですね」
「大したことじゃ……」
シュウゴは頬を緩ませ、照れたように後頭部をかく。
実は内蔵している機能があるから手放しで褒められると、なんとなく後ろめたいが、美人に褒められて悪い気はしない。
そうこうしているうちに、メイと討伐隊が到着した。
「お兄様!」
メイが血相を変えてシュウゴの元へ駆け寄って来る。
その後ろに騎士三人が続き、現状を把握しようと周囲を見回していた。
「そこに倒れている三人組がパトロールしていた隊員二名を殺害し、倉庫の物品を奪い逃げ出したんです」
混乱する騎士たちに説明を始めたのは女の方だった。
「そうだったのか……ん? あんたはまさか、クラスBハンターの『ハナ』か?」
一番年上と思わしき騎士が驚いたというように声のトーンを変えて問うと、女は頷いた。
それを聞いたシュウゴは驚きに声が出なかった。
まさかこんなところで、凄腕のクラスBハンターに出会えるなど夢にも思わなかったのだ。
「そうだったのか。協力に感謝する。謝礼は追って――」
「――いえ、強盗犯たちを追いつめたはそこの彼です。私は横取りしたに過ぎないので、謝礼は彼にお願いします」
ハナはシュウゴへ目を向け、迷うことなく謝礼を断ると踵を返した。
シュウゴは歩き去ろうとする彼女に、慌てて声をかけようとするが、
「君、申し訳ないがこの事件の処理を手伝ってくれないか?」
そう頼まれ、シュウゴはやむを得ずハナの背中を見送ったのだった。
凛とした女性の声が耳に届いた。
シュウゴが辺りを見回すと、通りに並ぶ倉庫の屋根を高速で走る人影があった。
そしてそれは、一瞬ののちにシュウゴの目の前に飛来する。
「なっ!?」
突然現れ目の前に華麗に着地したのは、見眼麗しく凛々しい雰囲気を纏った女だった。
年齢は二十代半ばほどで、長い黒髪を後ろで一つに束ねており、凛々しい切れ長の目と透き通るような白い肌、そして整った鼻筋。
凛々しい雰囲気もあって、可愛いと言うよりは美しい。
赤い花柄の着物を中に着こみ、その上から武者の甲冑に似た肩当や腰当、籠手などを装着している。
手練れの女武者といった風貌だ。
そしてなにより目を引いたのは、頭の左上に自然に乗せている禍々しい般若のお面だった。
彼女はかなりの高さから落ちてきたというのに、何事もなかったかのように立ち上がり、迫りくる強盗たちへ向き直った。
対する強盗三人は、瞠目したものの勢いを落とさず、剣を振り上げてまっすぐに突進してくる。
「愚かな」
女は低い声で呟くと腹の前で両手を交差させ、腰に差していた小太刀二刀に手をかける。
そして力を溜めるかのようにゆっくり腰を落とし、
――ダンッ!
地を蹴り姿を消した。
「っ!」
シュウゴは思わず目を見開く。
あまりにも速すぎた。
神速の一閃。
彼女が地を蹴ったとほぼ同時に放たれた一撃を認識した次の瞬間、次の一太刀が走っていた。
また一閃、さらに一閃と……息を吐く間もなく、白の閃光が宙を走り回る。
気付くと強盗三人組は白目をむき、地面に倒れ伏していた。
恐らくなにが起こったのか理解も出来なかっただろう。
血は流れているが致命傷ではなく、手や足などを正確に切り刻まれている。
シュウゴは息一つ乱していない女の後ろ姿を見て、恐ろしくも美しいと感じた。
それは、微かな高揚感でもあった。
「怪我はないですか?」
シュウゴが唖然と佇んでいると、女は先ほどまでの抜き身の刀のような雰囲気を霧散させ、シュウゴへ振り向いていた。
その表情には慈愛があり、愛嬌があった。
彼女の印象がガラリと変わったことに、シュウゴは戸惑う。
「は、はい……助けて頂きありがとうございました」
とりあえず礼を言い、頭を下げる。
「いえいえ。あなたこそ、丸腰なのに臆さず敵に挑むなんて勇気があるんですね」
「大したことじゃ……」
シュウゴは頬を緩ませ、照れたように後頭部をかく。
実は内蔵している機能があるから手放しで褒められると、なんとなく後ろめたいが、美人に褒められて悪い気はしない。
そうこうしているうちに、メイと討伐隊が到着した。
「お兄様!」
メイが血相を変えてシュウゴの元へ駆け寄って来る。
その後ろに騎士三人が続き、現状を把握しようと周囲を見回していた。
「そこに倒れている三人組がパトロールしていた隊員二名を殺害し、倉庫の物品を奪い逃げ出したんです」
混乱する騎士たちに説明を始めたのは女の方だった。
「そうだったのか……ん? あんたはまさか、クラスBハンターの『ハナ』か?」
一番年上と思わしき騎士が驚いたというように声のトーンを変えて問うと、女は頷いた。
それを聞いたシュウゴは驚きに声が出なかった。
まさかこんなところで、凄腕のクラスBハンターに出会えるなど夢にも思わなかったのだ。
「そうだったのか。協力に感謝する。謝礼は追って――」
「――いえ、強盗犯たちを追いつめたはそこの彼です。私は横取りしたに過ぎないので、謝礼は彼にお願いします」
ハナはシュウゴへ目を向け、迷うことなく謝礼を断ると踵を返した。
シュウゴは歩き去ろうとする彼女に、慌てて声をかけようとするが、
「君、申し訳ないがこの事件の処理を手伝ってくれないか?」
そう頼まれ、シュウゴはやむを得ずハナの背中を見送ったのだった。
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