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最終章 投資家の戦い
緊急総会
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時は少しさかのぼり、ギルドの緊急総会。
ギガスは鼻息を荒くし、総合番頭のローエンへ鋭い視線を向けた。
「会長の人事とはどういうことだ!?」
「そのままの意味です」
「答えになっていないぞ!」
「でははっきりと告げましょう。ギガス会長、あなたはギルド会長の座にふさわしくありません」
「なにぃ?」
気色ばんでにらみつけるギガスに、冷徹な瞳で応えるローエン。
会議室の雰囲気は一触即発となっていた。
誰もが冷や汗を浮かべる中、グランチェスが余裕の表情で口を挟んだ。
「まあ二人とも落ち着いて。まずはローエン殿、詳しい話を聞こうじゃないか」
「グ、グランチェス伯爵っ……」
ギガスはなにも言い返せず、顔をしかめながらも口を閉じた。
ギルドのオーナーというだけでなく、さすがに貴族としても格が上なため、黙るしかないのだ。
ローエンは頷くとゆっくり語り始めた。
「実は以前、ギガス殿の指示で活動休止にした高ランクのハンターパーティがあるのですが、調査の末に驚くべき真相が判明したのです」
「ほぅ?」
「調査、だと……」
それまで偉そうにふんぞり返っていたギガスの顔が引きつる。
グランチェスはそれを見逃さなかった。
「ギガス殿、なにか不都合でもあるのかな?」
「い、いえ、とんでもございません」
その様子を冷ややか目で見ながら、ローエンは続けた。
「ことの発端は、彼らに陥れられたという女ハンターの申し立てでした。彼女の話では、自分たちはそのパーティに騙され、騎士に捕まったのだと」
「その通りだ。ひどい話じゃないか!? 活動休止してしかるべきだと思うがね」
ギガスは早口でまくし立てる。
しかし彼を見るローエンの視線は冷ややかなものだった。
「それが事実であれば、ですよね?」
「……なにが言いたい?」
「スノウというハンターの申し立ては、虚偽だったのですよ」
「バカなっ、なにを証拠に!?」
「彼女のかつての仲間である、『マキシリオン』と『ライダ』というハンターに聞きました」
「っ! バカな……奴らは投獄されているはず……」
ギガスが信じられないというように呟き、グランチェスはクスクスと笑った。
「ずいぶん詳しいんだね、ギガス殿」
「い、いえ……私も事実関係をきっちり調べていたもので」
「つまりです。ギガス会長は、ギルドに最も有益なハンターたちを冤罪によって追いつめたのです」
その瞬間、会議室に波紋が広がる。
皆が信じられないとばかりに顔を見合わせざわめき出す。
この中には、ハンターたちと直接取引のある商人や店主もいるため、事の重大さはすぐに理解しただろう。
顔の青ざめたギガスは、慌てて口を開いた。
「そ、そうだったのか!? 知らなかったとはいえ、私はなんてことを……」
「知らなかった? ギガス会長、なにをおっしゃっているのですか?」
「し、知らなかったのだから、仕方ないだろう!?」
「虚偽の申し立てをしたハンター、スノウ・ドグマンはあなたの娘さんではないですか。知らなかっただなんて言い訳、通じるわけがないでしょう」
「っ!」
さすがにギガスも開いた口がふさがらない。
もうこれ以上の言い訳は無意味だ。
勝敗は決したと悟ったグランチェスは告げる。
「なるほど、ギガス殿はギルドの利益よりも、娘の憂さ晴らしを優先したということか」
「んなっ……そ、それは……」
「その通りでございます、グランチェス伯爵。ギガス会長の経営者としての資質に疑問を感じたがゆえに、この緊急総会で会長の解任について決議をとろうとした次第です」
「ちょっ、ちょっと待っ――」
「うん、よく分かったよ。それじゃあ、ここにいるオーナーですぐに決議をとろうか。ギガス会長の解任の有無と、その後の人事について――」
泡吹いて必死に止めようとするギガスの言葉は無視され、すぐにオーナーの決議がとられた。
もちろん満場一致でギガスの解任に賛成。
そしてその後任には、かつて退いたローエンが再び返り咲くこととなった。
すべてが終わり、がっくりとうな垂れてトボトボと会議室から出て行くギガス。
彼の後ろ姿を見ながら、グランチェスは愉快そうに呟いた。
「おもしろいものを見せてもらった。かつて会長の座を奪われたローエンを利用し、真相を調査させるとはね。監獄のハンターたちには、釈放金を用意するとでも言って、ローエンが抱き込んだか。なにはともあれ、さすがは未来の大投資家だよ、ヤマト・スプライド」
ギガスは鼻息を荒くし、総合番頭のローエンへ鋭い視線を向けた。
「会長の人事とはどういうことだ!?」
「そのままの意味です」
「答えになっていないぞ!」
「でははっきりと告げましょう。ギガス会長、あなたはギルド会長の座にふさわしくありません」
「なにぃ?」
気色ばんでにらみつけるギガスに、冷徹な瞳で応えるローエン。
会議室の雰囲気は一触即発となっていた。
誰もが冷や汗を浮かべる中、グランチェスが余裕の表情で口を挟んだ。
「まあ二人とも落ち着いて。まずはローエン殿、詳しい話を聞こうじゃないか」
「グ、グランチェス伯爵っ……」
ギガスはなにも言い返せず、顔をしかめながらも口を閉じた。
ギルドのオーナーというだけでなく、さすがに貴族としても格が上なため、黙るしかないのだ。
ローエンは頷くとゆっくり語り始めた。
「実は以前、ギガス殿の指示で活動休止にした高ランクのハンターパーティがあるのですが、調査の末に驚くべき真相が判明したのです」
「ほぅ?」
「調査、だと……」
それまで偉そうにふんぞり返っていたギガスの顔が引きつる。
グランチェスはそれを見逃さなかった。
「ギガス殿、なにか不都合でもあるのかな?」
「い、いえ、とんでもございません」
その様子を冷ややか目で見ながら、ローエンは続けた。
「ことの発端は、彼らに陥れられたという女ハンターの申し立てでした。彼女の話では、自分たちはそのパーティに騙され、騎士に捕まったのだと」
「その通りだ。ひどい話じゃないか!? 活動休止してしかるべきだと思うがね」
ギガスは早口でまくし立てる。
しかし彼を見るローエンの視線は冷ややかなものだった。
「それが事実であれば、ですよね?」
「……なにが言いたい?」
「スノウというハンターの申し立ては、虚偽だったのですよ」
「バカなっ、なにを証拠に!?」
「彼女のかつての仲間である、『マキシリオン』と『ライダ』というハンターに聞きました」
「っ! バカな……奴らは投獄されているはず……」
ギガスが信じられないというように呟き、グランチェスはクスクスと笑った。
「ずいぶん詳しいんだね、ギガス殿」
「い、いえ……私も事実関係をきっちり調べていたもので」
「つまりです。ギガス会長は、ギルドに最も有益なハンターたちを冤罪によって追いつめたのです」
その瞬間、会議室に波紋が広がる。
皆が信じられないとばかりに顔を見合わせざわめき出す。
この中には、ハンターたちと直接取引のある商人や店主もいるため、事の重大さはすぐに理解しただろう。
顔の青ざめたギガスは、慌てて口を開いた。
「そ、そうだったのか!? 知らなかったとはいえ、私はなんてことを……」
「知らなかった? ギガス会長、なにをおっしゃっているのですか?」
「し、知らなかったのだから、仕方ないだろう!?」
「虚偽の申し立てをしたハンター、スノウ・ドグマンはあなたの娘さんではないですか。知らなかっただなんて言い訳、通じるわけがないでしょう」
「っ!」
さすがにギガスも開いた口がふさがらない。
もうこれ以上の言い訳は無意味だ。
勝敗は決したと悟ったグランチェスは告げる。
「なるほど、ギガス殿はギルドの利益よりも、娘の憂さ晴らしを優先したということか」
「んなっ……そ、それは……」
「その通りでございます、グランチェス伯爵。ギガス会長の経営者としての資質に疑問を感じたがゆえに、この緊急総会で会長の解任について決議をとろうとした次第です」
「ちょっ、ちょっと待っ――」
「うん、よく分かったよ。それじゃあ、ここにいるオーナーですぐに決議をとろうか。ギガス会長の解任の有無と、その後の人事について――」
泡吹いて必死に止めようとするギガスの言葉は無視され、すぐにオーナーの決議がとられた。
もちろん満場一致でギガスの解任に賛成。
そしてその後任には、かつて退いたローエンが再び返り咲くこととなった。
すべてが終わり、がっくりとうな垂れてトボトボと会議室から出て行くギガス。
彼の後ろ姿を見ながら、グランチェスは愉快そうに呟いた。
「おもしろいものを見せてもらった。かつて会長の座を奪われたローエンを利用し、真相を調査させるとはね。監獄のハンターたちには、釈放金を用意するとでも言って、ローエンが抱き込んだか。なにはともあれ、さすがは未来の大投資家だよ、ヤマト・スプライド」
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