俺は善人にはなれない

気衒い

文字の大きさ
上 下
341 / 416
第15章 親子喧嘩

第341話 はぐれ者の過去4

しおりを挟む
「俺をこの世界に召喚したのはとある王

国だった。そして、召喚した者曰く、"

この度、魔王が復活したのでお主を勇者

として召喚した。どうか魔王討伐に力を

貸してくれないか?"とのことだった。

もちろん、魔王討伐には俺1人で向かう

訳ではない。魔法使いの女と戦士風の

男、弓使いの女が俺についてくるとのこ

とだった。俺は早速、3人とコンタクト

を取り、王国が設けた1ヶ月間の戦闘訓

練の後にそこから旅立った」

ブロン達は自分達と出会う前のこの世界

でのキョウヤの様子を知れて、終始興奮

状態だった。それを知ってか知らずか

キョウヤは変わらぬトーンで続きを話し

出す。

「俺達の旅は難航した。魔王のいる地に

辿り着く前に色々とあったからだ。結

局、魔王のいる地に辿り着いたのは俺が

召喚されてから、約10年が経った頃だ

った。苦労の末、辿り着いた場所を見た

瞬間、俺は困惑した。そこは魔王どころ

か、何も存在しない地だったからだ。俺

は振り返り、この感情を仲間達と共有し

ようとした。すると………………そんな俺

を仲間達は一斉攻撃し出した」

「「「「「っ!?」」」」」

まさかの事実にブロン達は驚きを隠せな

かった。一方のシンヤ達はこの部分に関

しては至って冷静に聞いていた。

「端的に言うと俺は王国に騙されてい

た。そもそも魔王は復活なんてしていな

かったんだ。俺は王国が都合よく利用で

きる駒として異世界から召喚されたに過

ぎない………………俺はそんな時になって

初めて気が付いた。そして、薄れゆく意

識の中、俺は思った。何故、人を簡単に

信用してしまったのか、何故、疑うこと

をしなかったのか。"廃棄場"にいた頃

は全てを疑ってかかるのは当然だった。

育ての親も俺をそういう風に育てた。"

たとえ、血を分けた親であっても毎日や

り取りをする相手であってさえも疑

え……………でなければ、ここでは生きて

いけん"と。あそこはそういう場所だっ

た。しかし、俺は外に出てから変わっ

た。人と接する度に人の温かさを知っ

た。世の中はこんなにも素晴らしい人間

達で溢れていることを学んだ……………そ

の延長線上にはいつも十奈がいた」

自嘲の笑みを浮かべながら語るキョウ

ヤ。それをシンヤは黙ったまま、見続け

た。

「俺はあと少しで命が尽きかける中、急

いで"写し鏡"を使った。召喚された時

点で既にそのスキルを所持していてお

り、日頃から使い慣れていた為、どうに

かギリギリのところで発動に成功

し……………俺は一命を取り留めた。その

際の対象は何だったのか、今は思い出せ

ないが俺を襲った3人は俺が死亡したと

勘違いしたまま、血だらけの俺を放って

どこかへと消えてしまった。そして、そ

こから俺はあの"廃棄場"で暮らしてい

た頃の気持ちと感覚を取り戻し、この世

界でやっていく決意をした………………

と、そんな時だった。この世界には"冒

険者"という職業が存在し、勇者を引退

したら、やってみようと思っていたこと

を不意に思い出した。そこでギルドに行

き、冒険者となった俺はブロン達と出会

い、クラン"箱舟"を結成したんだ」

懐かしさに浸りながら語り続けるキョウ

ヤ。だが、それも終盤に差し掛かると真

顔になり、静かに言葉を紡いでいった。

「"箱舟"での活動は10年程続き、ク

ランを解散したのは25年前だった。あ

の日のことは今でもよく覚えている。泣

き叫ぶメンバー達に申し訳ないと思いつ

つも俺は彼らの元を離れ、1人放浪の旅

に出ることにした。そこからだ。俺が"

キョウヤ"ではなく"キョウ"という偽

名を名乗り出したのは」

「い、一体何故…………」

ブロンは思わず、小さく呟いた。する

と、その声が届いたのかキョウヤはブロ

ンの方を向きながら、話を続けた。

「ブロン達には俺のことを意識して欲し

くなかったからだ。俺の幻影を追い続け

ては解散した意味がない」

「そ、そんな……………」

「解散については本当に申し訳ないと思

っている。だが、これは俺達にとって絶

対に必要なことだったんだ………………ブ

ロン、お前もそうは思わないか?」

「………………」

「ちょっといいか?」

「ん?どうした、シンヤ?」

2人の会話に割って入る形になり、一度

断りを入れてから質問をするシンヤ。そ

の表情は合点がいかないといいたげに眉

根を寄せていた。

「今までの話が本当だとすると、お前が

こちらの世界に召喚されてから勇者を務

めた期間が10年、それからクランとし

ての活動が10年、そしてクラン解散後

から今日まで25年……………計45年、

お前はこちらの世界で過ごしたことにな

る」

「ああ、そうだな」

「ところが、お前の今の年齢は40歳・・・お前は30歳の時に召喚され

ているから、そこから10歳しか歳を取

っていないことになる。この矛盾は一体

何だ?」

シンヤは話していく内にまるで喉に小骨

が詰まっているかのような不快な表情に

なっていった。

「……………さっき、お前の"神眼"をも

ってしても名前以外、表示されなかった

スキルがあったな?」

「……………確か、"世界旅行"とかいっ

たか」

「ああ。その固有スキルはそれこそ神の

ような力を持っている者でないと閲覧す

ることさえ、できない。そのようにプロテクトがかけられている・・・・・・・・・・・・・・・・・・んだ」

「は?そんなスキルがこの世に存在する

のか?」

「いや、このスキルだけは特別だ。俺がそうしてくれと頼んだ・・・・・・・・・・からだ」

「要領を得ないな。お前はさっきから何

を言っている?」

「悪いが、その部分に関してはそうプロ

テクトをかけた張本人に聞いてくれ。俺

が教えられるのは"世界旅行"という固

有スキルの効果についてだけだ」

「……………お前がそう言うのなら、分か

った。で?その"世界旅行"とやらの効

果は?」

「ああ。"世界旅行"……………このスキ

ルは代償・・を支払うことで異世界の様子を観察することができる・・・・・・・・・・・・・・・・・
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

処理中です...