俺は善人にはなれない

気衒い

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第14章 獣人族領

第327話 披露宴2

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午前の部の"結婚式"でシンヤの伴侶と

なったのは何もティア達、幹部だけでは

なかった。そもそもわざわざ朝早くから

始まった結婚式が1回しか行われないの

であれば、午後の部の披露宴まで時間が

大幅に余ってしまうのだ………………とい
うよりもその前に朝早くから始めなければならなかった・・・・・・・・・・・・・・・・・理由が存在した。それはシンヤと結婚する者の人数が多すぎたからである。

「今日はなんて幸せな日なのかしら」

クーフォが周りを見渡してから、最後に

自分を見てしみじみと呟いた。静謐な雰

囲気で始まった披露宴も遂に半ばまで差

し掛かった。受付や幹事、周辺の警備な

どを"黒天の星"の組員達が務め、招待

客に何1つ不自由を感じさせないのを最

低限の条件として主催者側は臨んでい

た。会場はもちろんのこと、待合室やト

イレ、その他の部屋に至っても不快にな

らない程度の豪奢な飾り付けがなされ、

途中には吹き抜けの天井や白を基調とし

た美しい螺旋階段などが見受けられた。

そのどれもが細部までこだわった意匠が

施されており、それは特殊な鉱石で作ら

れた床や階段にもよく表れていた。遠路

はるばるやってくる招待客には座り心地

が抜群な最高品質のソファーが出迎え、

加えてクランハウス内に常に流れている

心が休まるような優しいBGMが彼らの

眠気を誘う。会場のあちこちには招待客

が助けを求められるようにと組員達がス

タッフとして常に常駐しており、丁寧な

接客でもって対応してくれるだろう。こ

うして万全を期した体制で迎えた披露宴

は途中の不審者騒動を除けば、概ね予定

通り進み、招待客の反応も上々だった。

「まさか、私がシンヤ様……………いえ、シンヤさん・・とこうなるなんて」

そう。何を隠そう、彼女もまたシンヤの

結婚相手の1人だった。実はクーフォ

達、幹部候補生の女性陣もシンヤを異性

として好いていたのだ。そして以前か

ら、シンヤに対してその気持ちをぶつけ

ていた彼女達はいつしかその想いか実を

結び、それぞれがシンヤと濃い時間を過

ごしていた。しかし、まさか自分達もテ

ィア達と同じくらい愛されているとは思

いもしなかったクーフォ達は今日という

このおめでたい日の主役として選ばれた

瞬間、あまりの驚きと嬉しさから膝から

崩れ落ちた。つまり、話をまとめるとシ

ンヤの結婚相手はティア達、幹部とクー

フォ達、幹部候補生となり……………

「……………それにしてもまさか、あなた

達まで名乗り出るとは思わなかったわ」

そうもなかった。何故なら、彼女達に加

えてその他にも3名いたからだ。

「いや~父ちゃんがうるさくてな」

「この期に及んで何言ってるの。もっと

素直になりなって」

「ではウィアさんは外れて頂いて結構で

す。私としてもその方が嬉しいので」

なんとウィア、リース、セーラもまたシ

ンヤの結婚相手だった。しかし、この中

で唯一、別組織の者であるウィアはどう

しても浮いてしまっている。では一体何

故、そんな状態に陥ると知っていなが

ら、彼女が結婚相手として名乗りを上げ

たのか、それは……………

「セーラ、ちょっと待てよ!う、嘘だか

ら!確かに父ちゃんから背中を押された

のは事実だけど、これはアタイの意思で

していることだから!」

「ではシンヤさんのことをどう思ってい

るんですか?」

「うっ…………そ、それは」

「照れていたって何も始まりません。そ

うやって、チンタラしているうちに大き

なチャンスを逃しますよ?いいんです

か?自分だけ置いてけぼりになっても」

「ううっ……………くそっ!ああっ、分か

ったよ!言うよ!アタイはシンヤのこと

が……………大好きだ!!!!好きで好き

でたまらないんだ!!!めっちゃ愛して

いる!!!」

軽くけしかけたつもりのセーラは思った

よりも激しく感情を爆発させたウィアに

驚いた。隣にいるリースに至ってはあま

りに急な事態に軽く引いていた。

「だってさ、アタイが捕まって"もうダ

メかもしれない"って思った時に颯爽と

現れて救ってくれたんだぞ?そんなの惚

れるに決まってるだろ…………あぁ、待

て。言いたいことは分かる。それにして

も急すぎるって言いたいんだろ?でも、

その前からアタイはシンヤに興味を持っ

ていたんだ。まぁ、それは冒険者として

のあいつの強さと組織のリーダーとして

の器の大きさにだがな」

突然、早口で話し始めたウィアに対して

周りが引くのもお構いなし。彼女の演説  

は一向に止まる気配を見せず、そのまま

続いた。

「昔から"お転婆姫"とか女の子らしく

ないと言われていたが、実は"勇者に救

われる姫"のおとぎ話が大好きだったん

だ。そのことを周りには知られたくない

から、隠れてコソコソと読んでたぐらい

だぞ」

誰も聞いてもいないことをペラペラと喋

り始めるウィア。いくら強固な要塞であ

ろうと一度崩れてしまえば、この通り。

ウィアは恍惚な表情を浮かべながら、語

り続ける。

「密かに憧れていたシチュエーション。

自分が"囚われの姫"となり、カッコい

い勇者様に救われる………………それがつ

いこの間、実現したんだ。それも以前か

ら興味を持っていた男によって」

「ウィアって、状況に流されやすい

の?……………ボソッ」

「どうなんでしょう。ただ1つ言えるこ

とがあるとすれば……………意気揚々と語

る顔がキモいですね」

「おい、そこ!聞こえてるぞ!ってか、

セーラに至っては小声ですらないじゃん

か!!」

「「っ!?しまった!!」」

「ったく………………とにかく、これで分

かったか?アタイがどれだけシンヤのこ

とを想っているのか?」

「あの…………」

「ん?何だ?」

恐る恐るといった具合でセーラはウィア

に話しかける。その様子から非常に言い

づらい内容であることは明らかだった。

「けしかけた私が言うのもなんなんです

が……………」

「何だ?言いたいことがあるのなら、ハ

ッキリと言え」

セーラはその後、10秒程の間を空けて

から、こう言った。

「私達、まだ披露宴の最中・・・・・・ですよ?」

「………………へ?」

セーラに言われたことが即座には理解で

きなかったのか、しばらく固まるウィ

ア。

「っ!?あああああっ!!!!アタイ、

なんてことを!!!」

しかし、当然いつまでもそうしている訳

ではなく、再起動した彼女が慌てて辺り

を見渡すとそこはセーラの言っていた通

り、披露宴の会場であり、全員の視線が

自分に集中しているのが分かると頭を抱

えて悶絶した。

「……………ウィア、恥ずかしがってると

ころ悪いが、俺はお前の気持ちが聞けて

嬉しいぞ。こんなめでたい席でまさか、

こんな気持ちの良いハプニングを起こし

てくれるとはな………………改めて、俺は

お前を好きになって良かったと思う。そ

して、ありがとう。俺と結婚してくれ

て」

しかし、シンヤにぶつけられた素直な気

持ちに対して、ウィアはという

と……………

「………………」

何も言うことができず、ただただ俯いて

真っ赤な顔を隠していることしかできな

かった。
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