俺は善人にはなれない

気衒い

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第13章 魔族領

第269話 間者

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とあるクランハウス内にて、2人の男が

神妙な面持ちで記事を眺めながら、酒を

酌み交わしていた。男達はこれまでに数

杯は飲んでいるのか、既に顔が真っ赤に

なってしまっている。

「ちっ……………"笛吹き"の野郎、その

まま素直に引退していればいいものを」

「どうやら"黒締"が助け舟を出したら

しいぞ」

「またあいつかよ。ったく、忌々し

い…………」

「それに同盟もどうとかって…………」

「ああ、この記事に書いてあるぜ。"黒

天の星"を含めた有名クラン計8つが同

盟関係だとよ…………けっ」

「凄いな……………そういえば話は変わる

んだが、あの作戦はどうなったんだ?」

「今、進行中だ。そろそろ向かわせた使

者が戻ってくる頃だろ………………っと、

噂をすればほら」

男が小気味よく2回半ノックされた音に

気が付き、クランハウスの玄関の方へと

歩いていく。その後ろには話し相手だっ

た男も続いていた。2人共、赤ら顔で酒

臭い状態ではあったのだが帰ってきた者

が赤の他人ではなく、同じクランの仲間

であると確信していた為、外聞など気に

することなくそのまま勢いよく扉を開け

た。すると……………

「遅かったじゃない……………か」

「あ…………れ?」

目の前に立っていたのは待ち望んでいた

仲間ではなく、赤の他人……………それも

先程まで話題に上がっていた有名クラン

のメンバーであった。これにはだいぶ回

っていた男達の酔いも醒め、引き換えに

顔色が徐々に悪くなっていった。その

間、目の前に立つ人物は一切微動だにせ

ず、ひとしきり男達の反応を確かめると

ようやく口を開いた。

「お目当ての者でなくて、すまないアル

ね」

「お、お前は"花棘かきょく"バイラ!?」

「え………いやいや、あれ?何故だ?だ

って、2回半のノックが……………」

「ああ。仲間内での"ただいま"の合図

アルね?お前のとこの奴が親切に・・・教えてくれたアルよ」

「そ、そんな…………」

「これを機にもうちょっと分かりづらい

合言葉にでもしてみるといいアルよ」

「ま、まさか使者が……………」

「使者?あれが?あれは……………完全に

間者だったアルよ」

「なっ!?そ、そんな筈は!?俺はただ

話をしにいけと言っただけで決して余計

なことをしてはならないと」

「それは教育がなってないアル

ね……………と言いたいところだけど多  

分、お前達に良いところを見せようと先

走ったんじゃないアルか?」

「あいつ……………」

「それはそうと随分と舐めた真似をして

くれたみたいアルね。コソコソとウチら

の周辺を嗅ぎ回り、あわよくば奇襲をか

ける計画まで立てていたようアル

よ………………捕らえた間者が親切にもベ

ラベラと喋ってくれたアル」

「くっ……………すまない。言い訳にはな

るが俺達はそのようなことを命令してい

ない」

「そんなことは知らないアル。とりあえ

ず、間者は生かしておいたアルが本来で

あれば、宣戦布告とみなしてお前ら全員

を始末するところアル」

「ひっ!?」

「そ、それは…………!?」

「けど、ウチらもそこまで鬼ではないア

ルよ。今回、ウチがここに来た目的も別  

のものアル」

「そ、そうなのか?クランマスター直々

でないのが多少引っかかるが、確かに組

長クラスでもSSランクだもんな。それ

こそ、1つのクランを率いていてもおか

しくはないからこそ、こうしてやって来

た訳か」

「ウチは外交官を務めているアルよ」

「それはまた……………頼りになる外交官

だな。仲間に欲しいくらいだ。で?一

体、何が望みだ?少しくらいなら、融通

してやっても………………っ!?」

「こ、これは!?」

その瞬間、男達へ向けて殺気が放たれ

た。それは思わず、逃げ出したくなる

程、濃密なものであったがバイラの目が

逃走を許してはくれそうになかった。

「何か勘違いしていないアルか?お前ら

が偉そうに物言えた立場じゃないアル

よ。こっちが今回の件を不問にしてやる

代わりにそっちがウチの話を全て受け入

れる。これは当然のことアル」

「い、いやっ!?でも!?」

「物分かりが悪いアルね。これは提案で

も対話でもない……………命令だ」

「「ひっ!?」」

「では早速、話し合いへといくアルよ。

応接室はどこアルか?」

「こ、こちらです」

完全に萎縮したクランマスターと副クラ

ンマスターが背筋を丸めながら歩き、そ

の後には淡々とした態度のバイラが続い

ていた。








――――――――――――――――――







「またか……………これで何人目だ?」

最近、クランハウスに忍び込もうとした

り、悪意を持って訪ねてくる輩が続出し

ていた。そこで一々、その輩をとっ捕ま

えては差し出し人のところへとバイラが

出向き、色々とお話・・をしても

らっているのだが、いかんせんキリがな

かった。かくいう今回も真っ赤な装束に

身を包んだ怪しい人物がクランハウスを

コソコソと覗いていた為、こうしてとっ

捕まえて玄関に放置しているという訳

だ。

「あれ?カグヤじゃないですか」

「そんなところでどうしたんじゃ?」

とりあえず、バイラが帰ってくるのを待

っているとティアとイヴが近付いてき

た。アタシは肩をすくめると軽くため息

を吐きつつ、こう言った。

「ほら、最近増えてるだろ?間者。多

分、こいつもそれだ」

「あらら」

「お主も大変じゃのぅ」

「一応、警備関係のちょうだからな。

全く、勘弁して欲しいぜ」

アタシは再びため息を吐くとうつ伏せに

倒れている間者へと向かって、言葉を投

げかけた。

「で?お前の目的は何なんだ?」

刀の柄を握り、いつでも抜けるぞという

意思表示をしながら、間者の顔を見つめ

た。この方法でこれまでに全ての間者の

口を割らせてきた。当然、今回もそのつ

もりだった……………ところが、今目の前

に倒れている間者は今までの者とは明ら

かに様子が異なっていた。

「ふんっ!お前なんぞには死んでも口は

割らん!!」

顔を上げ、物凄い形相でアタシを睨み付

けてきたその間者はある種の覚悟を持っ

ているように感じられた。アタシは多少

驚きつつもどうしにかして、やりとりを

進めようと再び口を開きかけた。すると

近くから大きな声が割って入った。

「ネーム!?お主、こんなところで一体

何をしておるのだ!?」

そこには驚きに目を見開いたイヴが呆然

と立ち尽くしていたのだった。
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