俺は善人にはなれない

気衒い

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第11章 軍団戦争

第226話 軍団戦争5

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「化け物め…………」

「つまらないことを言っていないでさっ

さとかかってきて下さい」

"碧い鷹爪"のNO.2は焦っていた。目

の前に立つ人物が異常だったからだ。彼

は敵の幹部を倒すべく走り回っている内

に仲間の悲鳴を聞いて、ここまで駆けつ

けた。一体誰がこんなことをしているの

か、自身の目的よりもまずは元凶を叩く

のを優先したのだ。するとそこにいたの

は奇しくも敵の幹部、それも自分と同じ

立場の者だった。彼は驚いた。こんなに

早く見つけられるとは。まるで仕組まれ

でもしているかのよう。だが、驚いたの

はそこだけではなかった。おそらく彼が

到着するまでの間に先走って行動してし

まったのだろう。足元には仲間達が苦し

そうに倒れていたのだ。おかしい。普段

から自分達は冷静になって敵の戦力を見

極めてから行動しろとキツく言ってき

た。こんな考え無しに突っ込んでいくと

は到底思えない。

「なんでお前ら、こんなことしたんだ

よ」

「お仲間が心配ですか?言っておきます

が私を恨むのはお門違いです。彼らはた

だ立っているだけの私を見かけて、襲撃

してきたんですから。"こいつを始末す

れば、俺達は出世できるし、ブレス様も

元に戻る"とかほざいて」

「っ!?」

彼はその言葉で気が付いた。一体何故、

仲間達が策も弄せず無謀な戦いを挑んだ

のか。全ては自分達のリーダー、ブレス

の為だった。確かに出世欲というのは利

己的なものかもしれない。しかし、それ

だけが目的なのではなく、まず前提とし

てブレスに対する敬愛の念があってのも

のだ。自分達が強くなれば、リーダーを

支えることができる。立場が変われば、

もっと良いサポートができる。そう思っ

た彼らを誰が責められようか。

「俺はとんだ大馬鹿者だな」

仲間達の真意をすぐに汲み取ることがで

きなかった彼はため息をついた。と同時

に自分はなんて情けないんだと項垂れ

た。仲間達が言っていたという後半部分

の台詞……………"ブレス様も元に戻る

"。ここから、仲間達がブレスに対して

疑心を抱いているということが分かっ

た。いつも通りの余裕ある態度ではなか

ったことが原因だろう。ところが、それ

は致し方ないことだった。戦場に着いた

瞬間から、驚きの連続で計画は狂いっぱ

なし。当然いつものようなパフォーマン

スができる筈もない。自分達もそれは理

解していたが故にブレスのあの雰囲気も

納得ができた。だが、それはあくまでも

自分達、古参メンバーだけの話だった。

ブレスのことを古くから知らずに入った

メンバーは彼の堂々とした態度や圧倒的

な実力に惚れ込んでいた。逆に言えば、

その部分しか見たことがないのだ。だか

ら、戸惑った。自分達の敬愛するあのブ

レスがどこか焦っている、もしくはいつ

も通りではないと。そこに一切の悪気は

ない。むしろ、"あんなのは本当のブレ

ス様ではない。敵によからぬことをされ

て、おかしくなっている。だから、自分

達が元通りにしたい"という純粋な気持

ちからの行動だろう。だからこそ余計、

自分自身に腹が立った。彼らに要らぬ心

配をさせてしまったことを深く後悔し

た。何故、説明してやらなかったのか。

全てが完璧な人間などいない。あのブレ

スでさえ、弱音を吐くのだと………………

本当、今日はどうかしている。ペースが

狂いっぱなしだ。それもこれ

も………………

「お前らのせいだ、"銀狼"!」

「なんか深く考え込んでいたようです

が、彼らは別に死んでませんよ?」

「そういうことを言ってんじゃねぇ!」

「はぁ。じゃあ、どういうことです

か?」

「言ってもお前らには分からねぇよ」

「ですね。分かりたくもないですし」

「…………一応、自己紹介をしておこ

う。"碧い鷹爪"の|副軍団長《サブレ

ギオンマスター》、バベルだ」

「無駄にかっこいい名前ですね。あ、私

はティアです」

「ほっとけ!あとお前の名前ぐらい知っ

てるわ!」

バベルは叫びながら、武器を構えた。そ

して、改めて敵を見据えて思った。全く

隙がない。一見、ただ何もせず立ってい

るだけに思えて、その実どこから攻撃さ

れても確実に反撃してくるだろう。流

石、あの"黒締"の右腕なだけはある。

彼は意識を切り替えると最初から全力を

出せるよう、身体に言い聞かせた。

「後先は考えねぇ。ぶっ倒れてでもいい

から、お前を…………お前だけを仕留め

る!」

「いい心掛けです。私はあなたを倒して

も次に進ませてもらいますが」







――――――――――――――――――







「あら?もうお終いですの?」

「ぐっ…………これが"金耳"の実力

か」

"碧い鷹爪"の三番手、ロウの周りには

何十本もの矢が突き刺さっていた。これ

らは全て1人のエルフの仕業なのだが、

問題は対象となった者達にあった。

「急所は外してありますわよ?」

そんな言葉が掛けられたのはロウがこの

場に駆けつけてから、5分程経った時だ

った。昔から虫の知らせのようなものを

敏感に感じ取り、それに従って今日まで

生き延びてきた彼は今回も嫌な予感がす

る方に向かって走っていた。そして、辿

り着いたのが今、いる場所だ。着いて

早々、唖然とした。何故なら、多くの仲

間達が矢で射抜かれたまま倒れ伏してい

たからだ。その後、すぐに我に返ったロ

ウは仲間達の安否確認の為、1人1人の

様子を見て回った。そんな時に声を掛け

てきたのが件のエルフだったのである。

「はぁ、はぁ、はぁ……………少々、侮っ

ていたようだな」

「あら。彼我の戦力差を計れないようで

は冒険者として二流ですわよ」

仲間達が一命を取り留めていることに安

心したロウは襲撃の張本人であるエルフ

が平然としているのに対して、怒りが湧

き上がり、そのままの勢いでエルフに突

っ込んでいった。結果は当然、失敗。敵

は弓を使うから、接近戦に持ち込めば勝

てると身体強化を施したのだが、それを

上回るスピードで弓を構えて矢を放たれ

たのだ。しかも4本も。両腕と両足に1

本ずつ射られ、あまりの痛みに攻撃する

余裕もなくなり、みっともなく地面に転

がり落ちたロウはゆっくりと時間をかけ

て矢を引き抜いた。エルフはその間、何

故か攻撃をしてこなかった為、少しだけ

回復する余裕までできていた。

「俺は"碧い鷹爪"の参謀、ロウだ。今

からお前を全力で潰す!」

「なかなかに図太い神経をしていますわ

ね。あ、私はサラですわ」

ロウは長年の愛用武器であるトンファー

を構え、いつでも動けるよう準備した。

一方のサラはというと……………

「お前、それは………」

「私、遠距離武器しか使えない訳じゃあ

りませんのよ」

いつの間にか腰に差していた剣を抜きな

がら、笑っていた。
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