俺は善人にはなれない

気衒い

文字の大きさ
上 下
187 / 416
第10章 セントラル魔法学院

第187話 準決勝

しおりを挟む
昨日、審判に勝利を告げられた俺達はその後、すぐに会場を出て、自由行動となった。その際、何か言いたげな審判や司会といった運営関係者は完全に無視して出てきた。説明する義務や義理は一切ない。もし、あの後、舞台の修繕に時間が掛かり、その次の試合がずれ込んだとしてもルール上、その責任が参加チームに及ぶことはないし、そもそも舞台が壊れるような魔法・スキルを使ってはならないという決まりもなかった。おそらく、生徒レベルではそこまでのことができないと勝手に踏んでいたのだろう。であれば、完全に向こうの落ち度だ。しかもそれは生徒自体を下に見ているということに他ならない。"もしも"の項目に"舞台の破壊"が含まれていないのだから。まぁ、本当に舞台を修繕する必要があったのかどうかは分からない。ここまでは全て俺の妄想だ。

「さぁ、昨日の第1試合は驚きでした!まさか、舞台があんなことになるなんて…………おかげで次の試合が少し遅れてしまいましたよ!」

どうやら、あったらしい。まさか、その通りだとは。司会の軽妙な進行は続いていく。

「本日は準決勝!昨日、勝ち上がった8チームの組み合わせは既に決まっております!まず、第1試合目は……………セントラル魔法学院のチーム"黒椿"VS東老学院のチーム"緑風"です!そして、注目すべきはやはり、チーム"黒椿"!また、あなた方が最初ですか!昨日のあれは衝撃的でしたからね!今回のダークホースと言っても過言ではありません!初っ端から圧倒的な力で相手チームを戦闘不能に追いやる……………いや~今、考えても恐ろしい。そして、今日も舞台が心配」

舞台上には既に両チームが揃っており、お互いを睨み合っている状態だ。その表情や佇まいから、相手チームには一切の油断がないことが読み取れる。今回は前回のメンバーとは違い、セーラ以外を全て入れ替えている。全員に経験を積ませたい為、なるべく被りは避けるようにしたいのだ。そして、何より今回は今までにやったことのない戦い方を俺が提案した為、それを実行することになっている。それが今から楽しみで仕方ない。

「さぁ、準備はいいですか?ではただいまより、チーム"黒椿"とチーム"緑風"の準決勝、第1試合を行います!お互い、悔いのないよう正々堂々と戦うように!……………それでは試合開始!」

俺達にとっての2試合目が今、始まった。






――――――――――――――――――





最初に異変に気が付いたのは魔法を打っていた後衛のうちの1人だった。

「あれ?おかしくない?試合開始から5分が経過しているのに一切反撃してこない」

「っていってもまだ5分だ。お前は昨日の印象が強く残り過ぎてんだよ。そのうち、反撃してくるさ」

「そうかなぁ…………」

しかし、その生徒の不安はどんどんと増していった。現にそこからさらに10分が経過したが一向に相手からの反撃はなく、チーム"黒椿"がやっていることといえば、ずっと結界によって攻撃を防いでいるだけである。それに見かねたチーム"緑風"のリーダーは途中から前衛にも近接攻撃を命じ、後衛と交代で攻撃させるように進路を変更した。おそらく、長期戦になると感じたからだろう。ちなみに観客達はというと大ブーイングの嵐だった。彼らは派手な試合や緊迫感のある展開を望んでいるのだ。それこそ、昨日の一件の当事者であるチーム"黒椿"には大きな期待を寄せていた。それだけに一見すると防戦一方なこの展開にはかなりの失望を覚えたことだろう。だが、それも開始15分までの話だった。

「お、おい。これ以上は………」

「はぁ、はぁ、はぁ」

「も、もう動けねぇ」

「い、一体何が狙いなんだ」

流石にずっとこの状態が続いていてはいずれ疲れ果ててしまう……………攻撃側が。15分でも良く持った方だ。おそらく冒険者でもない一般生徒達にそれ以上続けるだけの体力や魔力は残されていない。彼らは立つこともままならず、次々と床の上に倒れていった。とここまできて、ようやく事態の異常に気が付いた観客達は皆、ブーイングを止めて、驚き食い入るようにこの次の展開を目に焼き付けようとしていた。

「さて、これでようやく反撃できるね………………じゃあ、行くよ?」

「「「「「ひっ!?」」」」」

まともに動くこともできない相手に対して、クリスの発したその言葉は地獄の底に叩き落とすようなものだった。相手チームは皆、顔を恐怖に染めて誰からともなく、こう言い出した。

「「「「「ま、参りました!降参します!」」」」」

その日、これまでの竜闘祭史上初、一度も攻撃することなく勝利を収めるチームが出てきた。相手チームはこのことがトラウマとなり、しばらく家に篭る生徒達が続出したとか。しかし、運営にとってはさぞ良いことだろう。なんせ舞台を綺麗なまま、残すことができたのだから…………
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

処理中です...