俺は善人にはなれない

気衒い

文字の大きさ
上 下
163 / 416
第10章 セントラル魔法学院

第163話 冒険者

しおりを挟む
「ん?お前、それ……………」

「お、分かるか?」

「ああ。特徴的なマークが入っているからな。いいな~いつの間に手に入れたんだよ」

「ついこの間だ。長蛇の列に並んでやっと手に入れた代物だ。まだ試し斬りはしていないが少し持ってみた感じ、だいぶ手に馴染んでな」

「そりゃそうだろうな。なんせ、あの"銅匠"が店主を務める店だ。粗悪品を作り、売り捌くはずがない」

「ああ。しかも値段はピンキリで俺達でも手が届く代物もある。最近じゃあ、一般人まで護身用としていくつか買っていくらしい」

「みたいだな。やっぱり使われてる素材が良いほど高いのか?」

「ああ。流石にミスリルには手が届かなかったぜ。だから、これにしたんだ」

「これは……………鉄か?」

「ああ。だが、そんじょそこいらの武器よりは遥かに使い勝手がいいそうだ。これから、"鍛冶場ノエ"の装備を使う奴が増えてくるぞ。お前も早く手に入れろよ」

「ああ。にしても凄いな、"黒天の星"は。それぞれ幹部達が店を持っているなんて」

「やっていることが冒険者の域を越えているよな。そんだけ特技があるのって羨ましいよ」

「しかも最近は"黒の系譜"としての動きも活発だしな。どうやら傘下のクランも刺激を受けて、ますますやる気になっているらしいしな」

「AランクやSランクの魔物をバンバン狩っているんだっけか」

「ああ。この間、とある国を縄張りにしたことでさらにモチベーションが上がったらしいな。親の顔に泥を塗る訳にはいかないと思っているんだろうよ」

「縄張り?そんな話、どこで聞いたんだ?」

「各地を旅してる行商人からだ。この間、フォレスト国ってところにたまたま立ち寄ったら、"黒締"の銅像と"黒天の星"のクランマークが載った旗が立っていたらしい」

「マジかよ…………」

「ああ。だから、もしその国に手出しをしようものなら、そいつはタダじゃ済まないだろうな」

「ゴクリっ…………」

「とにかく、奴らは日に日に大きくなっていってる。俺達がこうしてくっちゃべっている今でさえ、きっとどこかで……………」

「あ…………」

「ん?」

「噂をすれば」

「お、本当だな……………ん?"黒締"と"銀狼"は分かるがあとの8人は一体、誰だ?」

「もしかして、新メンバーとか」

「あ~かもな。にしてもやっぱり、とんでもないな」

「ああ。新メンバーですら、隙が全く見当たらない。その中でも特にあの爺さんと金髪の奴がやばいな。勝てる気が一切しない」

「この感覚は"十長"を初めて見た時と同じだな。あれで幹部ですらないのかと思った
な」

「いいな~……………俺も入れてくれないかな」

「それは諦めろ」




――――――――――――――――――――




「全く…………せっかく、この僕がこんな田舎までわざわざ来てやったというのに何だ、この列は」

「本当だぜ。待たせるんじゃねぇよ」

「だりぃな」

「いっそ、やっちまうか」

「賛成だな」

「やろうやろう」

フリーダムの冒険者ギルド内。そこでは他所から来た態度の悪い冒険者パーティーにより、周りの者達が非常に不愉快な思いをしていた。ちょうど時間的にギルドが混み合う時にタイミング悪くやって来てしまった為、長い列に並ばなければならず、彼らは不満が募っていた。

「ん?ちょっとそこの君達!」

とそこへ新たにギルドの扉を潜って入ってきた者達に注目したリーダーの男はすかさず声をかけた。待たされている鬱憤晴らしと好みの異性がいたからだ。しかし……………

「結構、並んでるな……………登録は今度にするか?」

明らかに聞こえているにも関わらず、綺麗に無視された男達。周りではクスクスと笑いが起き、完全に醜態を晒してしまう形となった男は恥ずかしさから若干、声がうわずりながら再度、呼びかけた。

「お、おい!無視するなよ!」

ところが…………

「ここは一旦出直す方が得策かと。今すぐにしなければならないということでもないので」

またも無視されてしまう。そこで再び、笑いが起きる。これ以上は面子に関わる。そう感じた男は目的の人物達へと大きな足音を立てて、近付いていった。

「おい!これ以上、僕を馬鹿にするような態度を取るならば、こちらにも考えがあるぞ!」

「よし、じゃあ帰るか。悪いな、お前ら。登録は今度だ」

「…………もう我慢の限界だ。覚悟しろよ!僕を一体、誰だと思っているんだ!」

男は腰から剣を引き抜き、それを最初に無視した青年へと振り下ろそうとした……………が

「な、何だと!?」

傍から飛び出してきた少女の得物によって、受け止められてしまった。

「アンタが一体、誰かって?そんなの知らないわよ」

綺麗な赤い長髪を揺らし、武器であるレイピアを上手く扱っていた。男に力がない訳ではないが本来、テクニック重視で繊細な動きが求められるはずの武器によって、完全に止められ、どれだけ力を込めてもピクリともしなかった。そして、何より……………

「お、おかしい。こんなはずじゃあ!あの男から強引に君を奪おうとしたのに!」

「嫌よ、気持ち悪い」

「ぼ、僕はAランク冒険者だぞ!それが何で君みたいな華奢な娘に……………」

「……………シンヤ様、こいつらの対処は私に任せてくれませんか?」

「ああ。これはお前が買った喧嘩だ。カーラの好きにしろ」

「ありがとうございます」

そう言うとカーラは一旦、レイピアで男を後ろへと弾き、距離を取った。

「ぐっ…………絶対に許さないぞ!お前達、もうこの際なんだっていい!あの娘を手に入れるぞ!周りの者は殺ってもいい!」

「「「「「おお~っ!!!!!」」」」」

男達は一直線にカーラへと向かい、各々の武器で以って制圧しようとした。しかし………………

「"隼斬り"」

「ぐはっ!」

「ぐべらっ」

「な、なにが」

「があっ」

「痛えっ」

男達がカーラの元まで辿り着く前に決着は着いた。目にも止まらぬ速さでカーラがレイピアを振るい、急所を的確に斬りつけたのだ。武器を抜き殺る気できていた相手を野放しにするほど彼女も甘くはない。まさか、殺られるとは思ってもいなかったのか、男達は驚きの表情でカーラを見ていた。だが、後悔してももう遅い。男達の身体からは血が止めどなく流れ、もう長くは持ちそうになかった。

「ふぅ~緊張はしたけど修行の成果が出てる!やった~!」

にこやかに笑う彼女はつい先程、慈悲のない鉄槌を下したのと同一人物だとは到底、思えなかった。そして、何よりも周りで見ていた冒険者達にとってはそのあまりの変わりようにただただ身体の震えが止まらなかった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

処理中です...