俺は善人にはなれない

第９章 フォレスト国

第１５７話 帰還

「知っての通り、あと１時間程でシンヤさんがご帰宅なされます。その時間になったら、全員、お出迎えできるようにしていて下さい」

「「「「「はい！！！！！」」」」」

「ではそれまで解散」

現在、フリーダムのクランハウス内はシンヤの出迎えの為、忙しなかった。たった１週間程とはいえ、依頼で空けるにしては最長。いくら個々人が好きなように依頼を受けたり、副業に取り組んでいる現状であっても１日に１回はクランメンバーの前に姿を現していたシンヤ。それがなくなって初めて心細さを感じたメンバーはほとんどである。その為、シンヤの帰宅に合わせて、フリーダムのクランハウスにはクランメンバーが全員集合していた。皆、その時を今か今かと待ち侘びている。もちろん、目的はシンヤだけではない。一番肝心な部分であるフォレスト国がどうなったのか、その結果も気になっているのは事実である。１ヶ月程とはいえ、一緒に過ごしていく内にリースの人となりを知り、今では仲間であり家族のような存在にまでなっているのだ。できれば彼女が納得いく形で解決していて欲しいと皆、願っている…………というより、解決しているはずだ。自分達のクランマスターは只者ではない。その彼が率先して動き、知恵と力を貸す。その時点でもう依頼は達成されたも同然なのだ。あとは笑顔で彼らを迎え入れ、色々と積もる話を聞く。これが今のクランメンバーの望みであった。

「みんな、気合が入っていますね…………」

あちこちへと奔走するクランメンバー達を見回しながら、そう呟くティア。彼女の仕事は全体の総指揮である。必要であれば、助けを求めるところに適宜指示を出して、修正していく。サラはその補佐でティアでも見逃してしまいそうな部分をフォローしていた。そこまでして一体、何をしていたのか……………それはシンヤ達の帰還パーティーの準備の最終確認である。事前に通信の魔道具により、リースとセバスがフォレスト国に留まらず、一緒になって国を出てきたこと、また帰り道にて新しく・・・クランに加わるメンバーも確保したとの報告を受けていた。これらの意味合いも含まれたパーティーである。言うなれば、救国・入団・帰還の３つが合わさったお祝いだ。料理や飾り付けにも気合いが入り、いつも以上に皆テンションが高かったのはその為である。

「早く帰って来ないかな……………」

そして、それはより付き合いの長い幹部以上の者ならば当然のことだった。現にティアを以ってしても思わず、心の声が漏れてしまうくらい、その瞬間が待ち遠しく尻尾や耳が忙しなく動いていることに本人は気が付かない程であった。





――――――――――――――――――――





「「「「「……………来た！！！！」」」」」

シンヤ達の帰宅はティアが指定した通りの時間だった。クランメンバー達は各々が目や耳、鼻といった五感を使ったり、気配を察知したりでシンヤ達の存在を感知した。そこからの行動は早かった。急ぎ所定の位置につき、身だしなみや姿勢を整える。そして、万全の状態で主の帰還を待ち、それを迎え入れる。気を抜くと顔がニヤけてしまいそうになるがそれをグッと堪え、その時を待った。体感にして約１０分。実際は１分も経っていないのだろうが、とても長く感じるのはこれがどれだけ待ち望んでいたことなのか、またこの焦ったい状況を早く脱却したいという強い想いがあるからなのだろう。しかし、それもすぐに晴れた。扉を開けて入ってきた自分達が尊敬してやまないマスターの姿を見ることで…………

「ただいま～」

「おかえりなさい。そして、大変お疲れ様でした」

「ご苦労様ですわ」

「お前達もな」

シンヤに対して最初に声をかけるのはティア、その次がサラというのは彼女達に与えられた最上級の特権であった。そして、それを咎める者は今、この場において誰もいない。シンヤは２人に軽く微笑むと次に久しぶりに見るメンバー達を見回しながら、一言こう言った。

「約束通り、救ってきたぞ国」