俺は善人にはなれない

気衒い

文字の大きさ
上 下
28 / 416
第2章 クラン結成

第28話 とある冒険者達の噂2

しおりを挟む
俺の名はドルツ。しがない情報屋だ。いきなりだが、現在、ここフリーダムに未曾有の危機が迫っている。え?一体、何が起きてるんだって?答えはズバリ、魔物の大行進……いわゆるスタンピードだ。魔物の大群がこの街を目指してるという知らせを初めて聞いた時は正直、人生を諦めたね。俺もここまでか………と。別にこれまでの人生に後悔はないし、特にやり残したこともない。強いて言うなら、最近この街で活動し始めた面白い奴らのこれからを見れないのが残念だなと思ったぐらいだ。その時は本当にそう思った。今は少し落ち着いて、この日記を書いている。こんな時になってまでもやはり俺は情報を残そうとするんだなと自分自身に呆れる反面、これが性分だと納得する部分もある。一応、俺の精神状態はそんな感じだ。また、街の者達も変にバタバタせず、じっとその時を待っている。何故、フリーダムを捨てて、他の街や都市へと逃げなかったのか疑問に思う者もいるだろうが、それは単に愛着があり、死ぬ時はこの街でと考えたからだけではない。そもそもスタンピードを知った時、既に逃げている時間などなかったからである。あと、冒険者達が負けると確信し、死を覚悟していた理由は魔物の数にある。通常、滅多に起こらないスタンピード。それが起きただけでも最悪の状況、今回はそれに加えて魔物の数が異常だったのだ。過去の事例からいくと多くても500体がいいところなのだが、聞くところによると今回はそれの約20倍以上の数。一方、フリーダム中の冒険者達をかき集めたとしても500人がせいぜいだろう。圧倒的に数と質が釣り合っていない。いくら、A・Bランクのクランがいたとて、これはどう転んでも敗戦濃厚である。しかし、冒険者達には頭が上がらない。動機がなんであれ、自分達が負けると分かっていて、魔物の大群に己が身一つで突っ込んでいくのだ。個々の人間性は置いておいて、その行為自体は尊敬に値する。俺がそう思いながら、最期のコーヒーを飲んでいると門の外から、冒険者達の雄叫びが聞こえた。どうやら、いよいよ開戦らしい。さらば、フリーダム………さらば、喫茶店モローテル……のコーヒー。



それから、10分後には冒険者達の声も聞こえなくなり、一体どういう状況になっているのかが全く分からなくなってしまった。だが、そんなことより、気になることがあった。それは冒険者達から逃れた魔物がここフリーダムに攻め込んできていないということだ。1万もの大群であれば、必ずあぶれた魔物がやってくるはず。それが今の今までないのは不自然。何故なのか………考えたところで答えなど出ないし、意味がない。残り少ない時間をそんなことに割いていてはもったいない。俺は頭を切り替えると周りと同じように最期の最後まで自分のしたいことをすることにした。



おかしい。これはさすがにおかしい。いくら待っても魔物が攻め込んでこない。いや、それはそれでいいことなんだが、逆に不気味だ。街の者達もその異変に気付き、意を決して門の側まで行っている…………こうしちゃいられない。俺も行こう。なんてたって、情報屋。誰よりも早く情報を手に入れなくてどうする。これでそこら辺のよく分からない奴に先を越されでもしたら、名折れだ。それだけは絶対に嫌だ。死んでも嫌だ。そんなことを思いつつ、門の側まで駆け寄る……………とタイミング良く、外から入ってくる者達を見つけた…………って、ちょっと待て。あいつらは…………

「黒の………衣」

誰かがそう呟いた通り、全身を黒い装備(薄すぎて普段着にしか見えない)で固め、様々な種族を引き連れた男を先頭とした集団………新人?冒険者のシンヤパーティーだった。皆、その異様な出で立ちと雰囲気から、一斉に道を開ける。

「…………」

奴らは俺達の不思議な視線を気にすることなく、おそらくあの方向は冒険者ギルドであろう場所へと向かっていった。

「一体、今のは何だったんだ………」

それはこっちが聞きたい…………と思っていると直後にギルドマスターが外から息せき切って、帰ってきて、開口一番こう言った。

「皆の者、よく聞け!たった今、脅威は去った!もう安心じゃ!」

「え?」

「………ってことはつまり?」

「この街は魔物共の魔の手から逃れた!………つまり、助かったのじゃ!」

その瞬間、割れんばかりの歓声・拍手が轟いた。嬉しいに決まっている。絶対に助からないと今の今まで思っていた訳なのだから。周りを見ると抱き合ったり、泣きながら祈りを捧げたり、下手くそな踊りをしている者までいた。そして、ひとしきり騒いで落ち着いた頃、誰かがギルドマスターに聞いた。

「で、でもどうやって、そんだけの数の魔物を………?」

「………あやつは嫌がるじゃろうがな。こればかりは仕方あるまい………許せ、シンヤ」

誰もが気になる至極当然の疑問。何故か、一瞬答えづらそうにしたギルドマスターはしかし、まるでどこか諦めた表情をした後、こう答えた。

「それはの…………」

今日、この日の出来事はおそらく、フリーダムの歴史に残り続け、生涯に渡って語り継がれていくことは間違いないであろう。そして、そんな場所・時に居合せたことは情報屋としてだけではなく、個人としても人生の中で最も嬉しいことだった。



――――――――――――――――――――


あれから、1週間。未だに話題の中心はシンヤ達である。そりゃそうだ。街を救った英雄なのだから。だが、一部の冒険者達はあまりいい気がしないらしい。どうやら、自分達の手柄をごっそり取られたと思いこんでいるみたいだ。死ぬかもしれないという恐怖心がもう魔物の脅威に怯えなくていいという安心に変わり、それがいきすぎて嫉妬心へと変化してしまった。これは瞳が曇りすぎて、真実が全く見えていないダメなパターンだな。ま、いずれ、そういう奴らは痛い目に遭うだろう…………って、そんなことはどうでもいい。今、旬なのはシンヤ達だ。実はあいつら、この度、クランを結成しやがった。フリーダム中から注目の的になっているこのタイミングでだ。しかもスタンピードが起きた日に結成したらしい。クランマスターはもちろん、シンヤ。で、副クランマスターがティアとかいう獣人の少女。で、あとのメンバーが幹部になるそうだ。これに対して、特に冒険者達から、驚きの声が上がった。シンヤ達は冒険者ギルドに来る回数がそこまで多くなく、一度ふらっと立ち寄ったら、あとは最低1週間は訪れないことがほとんどだそうだ。しかも依頼を受けているのを見た者がいないという。にも関わらず、戻ってきた時には大量の魔物を売却するものだから、違和感を持たれ、1週間もの間、一体どこで何をしているのか冒険者達の間で色々と憶測が飛び交っているらしいが、どれも違うと思う。俺の勘だが……。で、そんなんだから、シンヤのランクがFのままだと思いこんでいる冒険者が多数いたらしい。クラン結成の条件として、クランマスターはBランク以上という規定がある為、少なくともBランクではあるということがその時に皆に知れ渡ったのだが、実はそんなものではなかった。なんと冒険者登録したその日の内にAランクになっていたのだ。俺もその日、ランクアップしていることは知っていたが、まさかAにまでなっているとは思っていなかった。せいぜい、DかCくらいだろうと。驚くことはまだある。スタンピードを終わらせた張本人として、シンヤがS、ティアと幹部3人がA、残りがBというランクになったらしい。恐ろしい。一日にして、Aランククランの誕生である。ちなみにクラン名は"黒天の星"でメンバーそれぞれに二つ名まで付いているみたいだ。どうやら、戦いの様子を伝令が見ていて、その時の特徴を伝えたら、勝手に周りが呼びだしたようだ。それによると

シンヤ→黒締 ティア→銀狼
サラ→金耳 カグヤ→朱鬼
ノエ→銅匠 アスカ→玄舞
イヴ→白姫 ラミュラ→蒼鱗

らしい。当の本人達はスタンピードの翌日から、ギルドに顔を出していないので二つ名が付いていること自体を知らないわけだが、そんなことより、もっと厄介なことがある。それは

「黒天の星に入りたいな」

「いや、お前じゃ無理だろ。入るなら、俺が」

「いいや、俺だね」

「私よ!」

あいつらのクランへの入団希望者が後を絶たないことだ。俺の勘が告げている……………これ、絶対に嫌がるだろ!どうすんの!?
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

処理中です...