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リジーの真実

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 興奮しすぎで血圧が上がって倒れてしまった長老を、エルマが自室に運んでいき、早速万能薬用樹の葉をすりおろし、煎じて長老に飲ませると、ハンターはエルマから拳骨を一つもらい、公爵夫妻に頭を下げた。

「すみません、タイミング間違えました」
「いや、構わない。こちらこそ急に押しかけて迷惑をかけた」

 公爵夫妻は、偉そうな貴族とは違い、品よく頭を下げひとまずハンターの今日あった話を促した。

 薬が効いて元気を取り戻した長老が、それでも興奮気味に話を根掘り葉掘り聞きただし、公爵夫妻にはその『ばあちゃん』がエリザベスだということを伝えた。本当はハンターは、ひょっとすると自分たちの娘が老婆の姿に変わってしまったことにショックを受けるのではないかと思ったのだが、どうやら夫妻はエリザベスが魔女の姿になってしまったことを知っていたようだった。

「王族が、娘を冤罪にかけ、追放したのです」

 話を聞けば、エリザベスは七年以上も王太子であるハルバートの婚約者だったが、とあることから帝王に目をつけられ、ハルバートが呪われてしまった。その呪いを解こうとエリザベスが魔女と対話をしたのだが、その呪いを解くために彼女の長かった髪と容姿を魔女に捧げたのだと夫妻は語った。

 その話を聞いて、ハンターの頭はグワングワンと打ち付けられた。
 婚約者が王太子。しかも七年もの間。全く勝ち目はない。こっちは村の狩人で、あっちは本物の王子だ。

「でも待て、だったらなぜ罪人としてここまで来たんだ?」

 疑問をぶつけると、そこからがひどい話だった。子供のお姫様ごっこの話よりひどい。王妃による嫉妬と、横恋慕の側近の悪巧みに、横暴な王帝の脅迫。それを17歳の少女がたった一人で背負い込んだのだ。そしてそのおかげで呪われた王子は呪いが解かれ、まんまと母親に騙されて、婚約者だった少女を断罪した。

 くどいようだが、17歳の女の子だ。

 その少女に、国中が野生の猿のように糞尿を投げ、石を投げ、体を腐らせウジが湧き、食事もろく取らせずに引き摺り回した挙句、剣で斬りつけた。下手をすればそれで死んでいたかもしれないし、半身不随になって、目だって失明していた可能性もあった。

「クソッタレだ」

 思わず悪態をついてギリ、と拳を握ったハンターだったが、意外なことに夫妻も頷いた。

「クソッタレですわ」
「ああ、本当に、どうしようもない甘ったれたクソガキだった」
「王妃もクソババアでしたわ」
「王もふざけたたわし頭だった」
「何より王帝は猟奇的なゲス男でした」
「あれが死んで何よりだ」

 夫妻の口から流れるように出てくる悪口に、ハンターは目をパチクリとさせた。

「人の娘をあんな目に合わせておきながら、何が「謝りたい」ですか」
「ふざけたことを言うから、爵位を返還して国を捨てて来たのだ」
「娘が山で暮らしているのなら、私も参ります」
「私も勿論一緒に行こう」

 俺も、と言い出さなかっただけ、ハンターは自重できたと思う。だが、その王太子だけは許せない。

「それで、その王子様は、今どこで何を?」
「国王夫妻は、暴動によって行方不明になりました。でも王宮にはいざという時のための緊急退路がありますから、どこかへ逃げ延びたかもしれません。王太子だったハルバートは、国を崩壊させた責任をとって追放されました」
「追放?それだけ?」
「他の国だったら斬首刑や毒杯ということもあると聞きましたが、この国で最も厳しい罪状がセントポリオン山への追放なのです。ですが、国が崩壊してしまい、兵士も貴族もなくなり、王都は混乱と殺戮の真っ只中にあるのです」
「は?」
「帝国の王が呪いで死亡したという情報が入りました。近隣国は帝国を乗っ取ろうと必死です。我が国は今、どこからも取り残されて、檻の中にいるような状態なのです。西からは魔獣や死霊に襲われ、海の守りは崩れ落ち誰も侵入することも国から出ることもできません。東北にはこのセントポリオンが聳え立ち、侵入を許すまじと立ち塞がっているでしょう。その中で、山神の怒りを買ったヴェルマニアの国民は何十、いや何百人と奇病に倒れているのです。祟りだと、人々は恐慌に陥り、王都を襲いました。私たち夫婦も、腹を括り、国と共に沈む思いでおりましたところ、魔女様が現れたのです。セントポリオンに住む娘に会いに行けと」


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