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国王からの手紙
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「サリー、国王陛下からお手紙が来ましたよ~」
アルヴィーナの部屋の窓をキュッキュと磨いていたサリーは、ローリィの間の抜けた声に思わず雑巾を落としてしまった。
「なんですって?」
「え、ですから国王陛下からお手紙が」
脚立から滑るように降りて来たサリーは、焦った様子でローリィが手にする手紙を奪い取った。なんでそんなに慌ててるんですかぁ?と目を丸くするローリィに、教育が足りな過ぎたわと思いながらも封書を見ると確かに国王の封蝋が押してある。宛先はアルヴィーナだ。
手紙をローリィに託した執事は、伯爵付きの執事で基本アルヴィーナやエヴァンに関することに無関心である。そうであれ、と伯爵に言われているのだ。自分たちは、実の息子がやらかした事件からもう10年以上経つというのに、未だに王宮に出廷禁止を喰らっているし、ボンクラの収めるザール国よりも敵国の商人や武器商人を相手にしたほうがお金になるから、と全てエヴァンに丸投げしているのだ。そのため彼らが屋敷にいない時は、幼い頃からエヴァンとアルヴィーナに仕えている最年長のサリーが主権を握っていた。
「エヴァン様とアルヴィーナ様は?今朝王宮に向かったはずだけど、まだお帰りではないわよね?」
「ああ、えっとこの手紙を持って来た人がまだ外で待ってるんですけど聞いてみますか?」
「それを早く言いなさいよ!もう!」
サリーはローリィの脇を抜けて駆け出していく。
「ローリィ!あなたは、メリーにエヴァン様かアルヴィーナ様に連絡を取るようにいってちょうだい!」
「はーい」
走りながらも服装を整え髪を正し、入り口に行くまでに息も整えたサリーはメイド長らしくスッと姿勢を正した。
「大変お待たせいたしました。王宮からわざわざお越しいただきありがとうございます。申し訳ございませんが、エヴァン様とアルヴィーナ様は今朝王宮に向かって以来、こちらには戻って来ておりません。ただ今、部下の者に連絡を取るよう申し付けたところですが、お急ぎのご用件でしたでしょうか」
まんじりともせず行ったり来たりしていた従者はあからさまに青ざめ膝をついた。
「も、もうだめだ。おしまいだ」
頭を抱え震え上がった従者にサリーはただならぬものを感じ、近づいた。
「アルヴィーナ様がどうかされたのですか?」
「ああ、ああ。どうかされたも何も…。いや、アルヴィーナ様のせいではないのです。陛下が、いや元はと言えば王子殿下が…っ!」
「小猿が何をやらかしたのです?簡潔におっしゃってください。必要とあれば私どもが始末しますゆえ」
何やら恐ろしいことを言うサリーだったが、侍従は藁にもすがる思いでサリーを見上げた。
◇◇◇
大まかな事情を聞いたサリーは、大慌てでメリーとローリィに事情を話し、至急エヴァンとアルヴィーナと合流するよう伝えた。
「大至急ですよ。いいですね?私はこれから王宮に行き瘴気の森の進行を留めますが、どこまで力になるかわかりません。魔導士団も頑張っているようですが、長くは持ちません。エヴァン様はおそらく領地のどこかにいるはずです。まさかあの方が私たちに何も言わず、領地を放って国外逃亡するとは思えませんからね」
このメイド3人は、エヴァンが育て上げた精鋭だ。アルヴィーナを護衛するために暗躍したことも数知れない。サリーは特に魔力が多く、攻撃魔法に優れているし、浄化も得意だ。エヴァンやアルヴィーナほどではないにしろ、魔導士としても食べていけるくらいの力はついた。メリーは有効範囲はあるものの転移や念話、防衛に優れているし、ローリィは戦闘狂だが治癒魔法が得意で、三者三様得意分野が違う。
今回の場合、メリーに領地に飛んでもらい、念話でエヴァンに連絡を取ってもらう。残念ながらメリーの念話範囲はそれほど大きくなく、せいぜい屋敷の庭の端から屋敷内にいる人に届く程度だ。だからこそ、領地に飛んで地道に話しかけながら見つけるしかないが、足で探すよりは断然早い。逆にエヴァンやアルヴィーナから連絡が入れば早いのだが。
ただしメリーは、体術は得意とするが、魔法攻撃ができない。そこでちょっと不安ではあるが、ローリィを補佐に添えた。多少の怪我ならば癒せるし、実はローリィはちょっとマニアックで、隠密行動が好きだ。敵と見做した相手をじわじわ甚振るのが好きなところがあった。
血を好む暗殺者向きなので、ローリィを戦いの場所に連れていくのは憚られる。せっかく治癒魔法を持っていても、闇魔法の使い手とかになりそうで怖い。下手すればヤンデレ、いや、ただの殺人鬼となりかねないからだ。
部下を育てる使命感に燃えるサリーにとって、二人は大事な妹分。瘴気まみれになるのは自分だけでいいだろうとサリーは覚悟を決めた。エヴァンとアルヴィーナが来るまで持ち堪えればいいのだ。
「頼みましたよ?それから、陛下からの文書も渡してくださいね」
「わかりました!姉様もお気をつけて!」
「メリーは私が守るから安心してください~」
サリーはうん、と頷き踵を返し厩舎に向かい、エヴァンの愛馬アキレスに頼み込んだ。通常の馬の何倍もの速さで走るアキレスなら1時間足らずで王宮につくはずだ。エヴァンとアルヴィーナに関係があると賢くも察したアキレスはサリーが自身の背に乗ることを許容した。ありがとう!と首を撫でたサリーは従者には先に行きますと断り、アキレスは王宮に向かって飛ぶように駆けた。
「姉様が頑張ってるうちに、エヴァン様とアルヴィーナお嬢様をなんとしても探さないとね!」
メリーはローリィの腕を掴むと、領地に転移した。
アルヴィーナの部屋の窓をキュッキュと磨いていたサリーは、ローリィの間の抜けた声に思わず雑巾を落としてしまった。
「なんですって?」
「え、ですから国王陛下からお手紙が」
脚立から滑るように降りて来たサリーは、焦った様子でローリィが手にする手紙を奪い取った。なんでそんなに慌ててるんですかぁ?と目を丸くするローリィに、教育が足りな過ぎたわと思いながらも封書を見ると確かに国王の封蝋が押してある。宛先はアルヴィーナだ。
手紙をローリィに託した執事は、伯爵付きの執事で基本アルヴィーナやエヴァンに関することに無関心である。そうであれ、と伯爵に言われているのだ。自分たちは、実の息子がやらかした事件からもう10年以上経つというのに、未だに王宮に出廷禁止を喰らっているし、ボンクラの収めるザール国よりも敵国の商人や武器商人を相手にしたほうがお金になるから、と全てエヴァンに丸投げしているのだ。そのため彼らが屋敷にいない時は、幼い頃からエヴァンとアルヴィーナに仕えている最年長のサリーが主権を握っていた。
「エヴァン様とアルヴィーナ様は?今朝王宮に向かったはずだけど、まだお帰りではないわよね?」
「ああ、えっとこの手紙を持って来た人がまだ外で待ってるんですけど聞いてみますか?」
「それを早く言いなさいよ!もう!」
サリーはローリィの脇を抜けて駆け出していく。
「ローリィ!あなたは、メリーにエヴァン様かアルヴィーナ様に連絡を取るようにいってちょうだい!」
「はーい」
走りながらも服装を整え髪を正し、入り口に行くまでに息も整えたサリーはメイド長らしくスッと姿勢を正した。
「大変お待たせいたしました。王宮からわざわざお越しいただきありがとうございます。申し訳ございませんが、エヴァン様とアルヴィーナ様は今朝王宮に向かって以来、こちらには戻って来ておりません。ただ今、部下の者に連絡を取るよう申し付けたところですが、お急ぎのご用件でしたでしょうか」
まんじりともせず行ったり来たりしていた従者はあからさまに青ざめ膝をついた。
「も、もうだめだ。おしまいだ」
頭を抱え震え上がった従者にサリーはただならぬものを感じ、近づいた。
「アルヴィーナ様がどうかされたのですか?」
「ああ、ああ。どうかされたも何も…。いや、アルヴィーナ様のせいではないのです。陛下が、いや元はと言えば王子殿下が…っ!」
「小猿が何をやらかしたのです?簡潔におっしゃってください。必要とあれば私どもが始末しますゆえ」
何やら恐ろしいことを言うサリーだったが、侍従は藁にもすがる思いでサリーを見上げた。
◇◇◇
大まかな事情を聞いたサリーは、大慌てでメリーとローリィに事情を話し、至急エヴァンとアルヴィーナと合流するよう伝えた。
「大至急ですよ。いいですね?私はこれから王宮に行き瘴気の森の進行を留めますが、どこまで力になるかわかりません。魔導士団も頑張っているようですが、長くは持ちません。エヴァン様はおそらく領地のどこかにいるはずです。まさかあの方が私たちに何も言わず、領地を放って国外逃亡するとは思えませんからね」
このメイド3人は、エヴァンが育て上げた精鋭だ。アルヴィーナを護衛するために暗躍したことも数知れない。サリーは特に魔力が多く、攻撃魔法に優れているし、浄化も得意だ。エヴァンやアルヴィーナほどではないにしろ、魔導士としても食べていけるくらいの力はついた。メリーは有効範囲はあるものの転移や念話、防衛に優れているし、ローリィは戦闘狂だが治癒魔法が得意で、三者三様得意分野が違う。
今回の場合、メリーに領地に飛んでもらい、念話でエヴァンに連絡を取ってもらう。残念ながらメリーの念話範囲はそれほど大きくなく、せいぜい屋敷の庭の端から屋敷内にいる人に届く程度だ。だからこそ、領地に飛んで地道に話しかけながら見つけるしかないが、足で探すよりは断然早い。逆にエヴァンやアルヴィーナから連絡が入れば早いのだが。
ただしメリーは、体術は得意とするが、魔法攻撃ができない。そこでちょっと不安ではあるが、ローリィを補佐に添えた。多少の怪我ならば癒せるし、実はローリィはちょっとマニアックで、隠密行動が好きだ。敵と見做した相手をじわじわ甚振るのが好きなところがあった。
血を好む暗殺者向きなので、ローリィを戦いの場所に連れていくのは憚られる。せっかく治癒魔法を持っていても、闇魔法の使い手とかになりそうで怖い。下手すればヤンデレ、いや、ただの殺人鬼となりかねないからだ。
部下を育てる使命感に燃えるサリーにとって、二人は大事な妹分。瘴気まみれになるのは自分だけでいいだろうとサリーは覚悟を決めた。エヴァンとアルヴィーナが来るまで持ち堪えればいいのだ。
「頼みましたよ?それから、陛下からの文書も渡してくださいね」
「わかりました!姉様もお気をつけて!」
「メリーは私が守るから安心してください~」
サリーはうん、と頷き踵を返し厩舎に向かい、エヴァンの愛馬アキレスに頼み込んだ。通常の馬の何倍もの速さで走るアキレスなら1時間足らずで王宮につくはずだ。エヴァンとアルヴィーナに関係があると賢くも察したアキレスはサリーが自身の背に乗ることを許容した。ありがとう!と首を撫でたサリーは従者には先に行きますと断り、アキレスは王宮に向かって飛ぶように駆けた。
「姉様が頑張ってるうちに、エヴァン様とアルヴィーナお嬢様をなんとしても探さないとね!」
メリーはローリィの腕を掴むと、領地に転移した。
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