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過去の過ち

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 尋問室をでたエリクソンは、疲れ果てた顔で執務室に戻っていった。

 自分の恋愛結婚を押し通したエリクソンは、燃えるような激情を体験している。だが、たとえ16歳の少女の一途な恋心だったとしても、それでは仕方ないねと看過するわけにはいかなかった。

 そもそも、弟に国王の地位を押し付けたのは自分の我儘だったのだ。



 エリクソンは当時公爵家の嫡男で、可愛らしい現在の妻ターニアと大恋愛をしていた。ターニアは子爵家の次女で、身分が釣り合っていなかったのを色々な策略をねりに練って、ようやく手に入れたのだ。

 それなのに、先代の王が隣国に戦争をけしかけた。

 ザール国は山脈に挟まれ農作物が育ちにくい。しかも瘴気の森と呼ばれる場所がいくつかあり、常に魔獣に悩まされていたため、資源と平和を求め、国土を広げようとした。そこまで聞けば民を想う良い王だと想うかも知れないが、戦略は杜撰なもので猪突猛進の戦いを挑んだのだ。

 しかし、隣国には帝国の息がかかっていた。それを知らず、ただ闇雲に押しかけた我が国はわずか数日で帝国の軍事力の前に陥落した。王族は全員絞首刑になり、帝国の属国へとなったものの、帝国にこの国は旨味を感じられず、国内で施政者を立てよと告げられた。

 そこで我が公爵家が注目された。私がまだ10代だったせいもある。帝国の姫君と年齢が適合したせいもあり、父は私を押したのだ。私にはターニアという愛しい婚約者がいるというのに。

 何年もかけて手に入れた愛すべき恋人を手放すのは、どうしても考えられなかった。なぜ今更、私が国のために犠牲にならなければならないのかと、恨言を吐いた。妻であるターニアは逃げようと言ってくれたが、私は奸計し弟を王座に押し上げた。

 素直で人を騙すことも疑うこともしなかった弟バルタを煽てあげ、帝国の姫君カレンティエと引き合わせたのだ。私は持病を持っているという設定を立て、しかも子が出来ないかもしれないと医者もグルになり、帝国は弟を国王に引き上げたのだった。

 うるさいことを言う父上には病気になってもらい、田舎に押し込め、共に帝国の属国となった隣国に伝手を使いこっそりターニアを送り込んだ。そこで貴族籍をもらい、隣国で隠すように生活をさせた。私は妻を隠すために宰相になり、子供が作れない設定を押し通した。隣国の女性と結婚はしたが、妻とは別居していると公に話した。

 その時は、私が宰相になりお前を助けるからとバルタに言ったものの、まさか自分の弟がここまで間抜けだとは思いもしなかったのだ。公爵家の次男だと言うのに帝王学も知らなければ、魔力もなく、剣も使えず経営学すら学んでいなかった。一体これまで何を学んでいたのか。

 しかし幸い帝国の姫カレンティエは気が強く、それなりの頭脳も持ち合わせていたため、国王は飾りでも問題ないと考え、実質の女王としてこの国に君臨した。その方が帝国にとっても都合が良かったのかもしれない。特に否やも上がらなかった。

 その影響力のおかげか友好国に囲まれ平和を満喫しているザール国だが、その実は帝国の傀儡だ。だからこそボンクラな王でもなんとか凌いできた。王妃の采配もあり、戦後この国は瞬く間に発展していったが、敵国の侵入を阻むほど防衛に徹してもいなかったのも確かだったのだ。

 そんな時に起きたのが、高位貴族の婚約破棄事件だった。

 高位貴族子息が次々と篭絡され、国家機密が敵国へ渡っていった事件は、未だ記憶に浅い。その中心になったのがマリアンという僅か16歳の少女。今のアルヴィーナ嬢やセレナ嬢と同じ歳でありながら、次々と貴族子息を食い物にしていき、我が国の情報を手に入れた。

 その被害の筆頭になったのが侯爵令嬢ライラとハイベック伯爵家のサリヴァンだった。

 サリヴァンは男の私から見ても色気のある男だった。令嬢のみならず、夫人や平民にも人気があったのだ。

 だが、サリヴァンは顔は良かったけれども頭は少し軽かったと見える。侯爵家と伯爵家の合同事業の支度金に手をつけマリアンに宝石を買い与え、その事業についても詳しく話し、契約書まで与えてしまった。幸か不幸か集団婚約破棄事件が大騒ぎになり、国外脱出寸前のマリアンも捕まったのがせめてもの救いだった。

 その後については、誰もが知っているだろう。

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