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恋する乙女は

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 とはいえ、わたくしは人の婚約者様に手を出すなんて大それた事はできませんから、ちょっと生足を見せるだけで優位に立たせてもらったり、ちょっと先生に接吻をしてテストの答えを教えてもらったり、ちょっと胸を触らせて成績を上げてもらったり。

 本当にずるをして、魅了魔法の練度を上げていきました。

 本当に魅了がかかっているのかはわかりませんでしたが、ちょっと肌を見せるだけでホイホイと私の言うがままになる男子生徒や先生を見ると、やはり魅了がかかっていたのだと思います。

 そして魅了の練習をしていたところで、シンファエル王子殿下と二人きりになる機会があり、わたくしはその美しいそのお姿にすっかり虜になってしまったのです。お父様とよく似たでっぷりとしたお腹周りとか、緑色のねっとりした髪とか、乱れた制服の胸元から覗く男らしい胸毛とか、皆が遠巻きにする王子様に、私はフラフラと近寄っていきました。強烈な匂いが鼻をつき、涙がこぼれそうになるのを瞬きを繰り返すことで回避して、ちょっとだけ水魔法を使って嗅覚を鈍らせましたが、慣れてくるとあの匂いが堪らなく体を疼かせることに気がついたのです。

 調べてみると、野生動物のフェロモンの匂いなのではないかと結論を導き出しました。男性的な力強い匂いというのでしょうか。きっと他の令嬢はまだまだ男性というものを知らないのだと思います。わたくしは闇魔法を使いますから、ダークな香りに惹かれるのかもしれません。

 そしてある日の図書室で、あろうことか王子様がわたくしを見初めて「美しいチョコレート色の髪の毛色と、甘い蜂蜜のような瞳だね」なんて仰るから、つい興奮して魅了魔法を放出してしまったのです。魔力孔は大全開してあっという間に王子様を包んでしまいました。流石のわたくしも桃色吐息になった王子様を見て大失敗をしたと焦ったのですが、図書室の隅に連れ込まれあれやこれや、誰にも触らせたことのない箇所まで曝け出してしまいました。意外に大胆で体位にも詳しいところがまた素敵で、翻弄されてしまいました。

 ですが肝心なところで、先生やその他の生徒に見つかって大騒ぎになりました。運の悪いことに婚約者であるアルヴィーナ様までその場面を目撃してしまって、わたくしの逃げ場は無くなりました。

 お父様は涙を流して懺悔を繰り返していましたが、お母様はニヤリと笑って好機を逃すなとわたくしを励ましました。

 噂のほとぼりが覚めた頃、内密に王宮へ連れてこられ隙を見て王子を手込めにしろと言われたのです。

「ハイベック伯爵令嬢は婚約破棄をしたがっているのだから丁度いいのよ。奪っておしまい!」

 お母様はまるで稀代の悪女のようですが、これもハイベック伯爵の元ご子息に募る自身の恨みを晴らそうとわたくしを使うつもりなのでしょう。お父様は婿養子の立場で妻に文句すら言えないと嘆いていましたが、わたくしも実はチャンスがあるのなら奪い取ってしまいたいと思っていました。

 だって、あんなに素敵な方ですのに、アルヴィーナ様ったら全くつれない態度なんですもの。王子様が可哀想ですわ。わたくしならきっと、愛し愛される関係になれるのに。

 そして王宮に忍び込みチャンスを窺うこと、三日。ようやく王子様が一人修練場で佇んでいるのを見つけました。ええ、わたくし庭園に潜んで雑草やら薬草やらを食べ、夜露を飲んで王宮に潜んでおりましたのよ。これも学校のサバイバル実習の賜物です。そそくさと服を脱ぎ、フード付きのローブを魔導師団の更衣室から拝借して裸の体の上から纏い、ジャジャーンと登場しましたわ。

 王子様は感激して私を見つめ、駆け寄ったかと思うとあっという間に食べられてしまいました。

 あの方は、そんな動物的行為ですらも素晴らしかったですわ。途中でアクロバット的な体位を望まれたのはちょっと苦痛でしたが、それも快楽の波には逆らえず、言われるがまま、されるがまま。これでもかと言うほど貪られて、骨までしゃぶられるかと思うほどでした。少し痩せたかもしれません。このまま朽ち果ててしまっても構わないとすら思い、気を失うまで王子様に愛され、目を覚ますとわたくしはベッドに横たわっていたのです。

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