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ステルス
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スカイは小型のワイバーン(♀)で、殿下の騎獣だ。
もともとワイバーンはドラゴンに比べてかなり小さいけれど、スカイはまだ成獣になったばかりなのだろう。つぶらな瞳でシンファエルを見つめ、命令を待っている。主人と契約獣というよりは憧れのプリンスと恋する乙女みたいな図なんだが、さすが人間の鼻でもわかるほどの強烈な匂いを放つ王子のフェロモンだ。人間より魔物との方が相性が合うのだと思う。あ、例の侯爵令嬢を除いては、だけど。彼女は今謹慎中らしいけど、近いうち修道院に入ると噂が流れている。まあ、やらかした令嬢だもんね。今は妊娠してるかどうか検査をしているらしいけど。
力強く地面を蹴るアキレスを追いかけるように、スカイは空高く舞い上がり、右へ左へ楽しそうに飛び回っている。スカイにとっても王城の上空ばかりでは退屈だったのだろう。元々自由に大空を飛び回るのがワイバーンだから、檻の中の生活は息苦しいとは思う。
「エヴァンと一緒にアキレスに乗るのも久しぶりね」
風を切りながらアルヴィーナが後ろから俺の腰に手を回してきた。昔はよくこうやって領地まで駆けたものだったな、そういえば。あの当時はアルヴィーナを前に乗せていたけれど、いつの間に後ろになったんだろう。
二人きりになると、アルヴィーナは少し砕けた言葉遣いをする。どこにいても気を張っていなきゃいけないから、俺といる時だけは許すことにした。俺自身も貴族言葉で話したくないし。
「そうだな。つい最近の事みたいな気もするけど、殿下のお守りをし始めてから、ずいぶん領地にも来てなかったから。久々に地下に入るか?」
「こうるさい猿がいなければ良かったんだけど、今日はやめよう。あの臭いに釣られてスライムたちが寄ってきても嫌だし」
「……それもそうだな。じゃあ、出来るだけモンスターのいないとこにしようか」
そういえばそうだった。スライムは鼻がないくせに臭いには敏感だ。汚物とか腐った食いモンとか好んで食べるし。おかげで助かってはいるんだけど、汚物と間違って王子を溶かされても困るしな。……困るかな?
「それでも、以前よりはずいぶんマシになったわ。前は息止めて一気に話さなくちゃいけなくて、思わず結界張っちゃってたし。王宮でも半径1キロくらい近くに来ると匂いでわかってたから、近寄らないようにしてたし」
そのせいで、王子は王宮に一緒に住んでることにも気が付かなかったんだよな。避けられてたから。
「あ、でもおかげで《ステルス》が出来るようになったわ」
「えっ?それはすごいな」
ステルスって隠蔽と隠密を掛け合わせたようなものだろ?気配遮断と魔力探知遮断もついてるの?すごくないか?それ。
「消臭魔道具とか開発してもらえばよかったわね。魔導士団に頼もうかしら」
「いや、魔道具で全部解決しちゃうと元が正せないからダメだな」
「もう、適当にして『できませんでした』ってポイしちゃえば良いのに」
「いやいや。一応宰相から任命された仕事だからね。国には貢献しないと」
国外追放とかされちゃうし?色々王族と魔法契約結んでるし?破ると罪人になっちゃうし?
「むう。真面目なんだから。でも……そんなエヴァンが、す、好きよ」
アルヴィーナはそういうと、ぎゅっと俺を抱きしめた。うんうん、可愛い義妹だ。完璧だとどれほど周りが思っていてもまだまだ16歳の子供で、ちょっとブラコンになっちまったけど。
「俺も好きだよ、アルヴィーナ」
ぎゅうとしがみつく手を、その上からポンポンと叩いて俺も言い返した。アルヴィーナが、がっかりした顔でため息をついているのは全く気がついていなかったが。
もともとワイバーンはドラゴンに比べてかなり小さいけれど、スカイはまだ成獣になったばかりなのだろう。つぶらな瞳でシンファエルを見つめ、命令を待っている。主人と契約獣というよりは憧れのプリンスと恋する乙女みたいな図なんだが、さすが人間の鼻でもわかるほどの強烈な匂いを放つ王子のフェロモンだ。人間より魔物との方が相性が合うのだと思う。あ、例の侯爵令嬢を除いては、だけど。彼女は今謹慎中らしいけど、近いうち修道院に入ると噂が流れている。まあ、やらかした令嬢だもんね。今は妊娠してるかどうか検査をしているらしいけど。
力強く地面を蹴るアキレスを追いかけるように、スカイは空高く舞い上がり、右へ左へ楽しそうに飛び回っている。スカイにとっても王城の上空ばかりでは退屈だったのだろう。元々自由に大空を飛び回るのがワイバーンだから、檻の中の生活は息苦しいとは思う。
「エヴァンと一緒にアキレスに乗るのも久しぶりね」
風を切りながらアルヴィーナが後ろから俺の腰に手を回してきた。昔はよくこうやって領地まで駆けたものだったな、そういえば。あの当時はアルヴィーナを前に乗せていたけれど、いつの間に後ろになったんだろう。
二人きりになると、アルヴィーナは少し砕けた言葉遣いをする。どこにいても気を張っていなきゃいけないから、俺といる時だけは許すことにした。俺自身も貴族言葉で話したくないし。
「そうだな。つい最近の事みたいな気もするけど、殿下のお守りをし始めてから、ずいぶん領地にも来てなかったから。久々に地下に入るか?」
「こうるさい猿がいなければ良かったんだけど、今日はやめよう。あの臭いに釣られてスライムたちが寄ってきても嫌だし」
「……それもそうだな。じゃあ、出来るだけモンスターのいないとこにしようか」
そういえばそうだった。スライムは鼻がないくせに臭いには敏感だ。汚物とか腐った食いモンとか好んで食べるし。おかげで助かってはいるんだけど、汚物と間違って王子を溶かされても困るしな。……困るかな?
「それでも、以前よりはずいぶんマシになったわ。前は息止めて一気に話さなくちゃいけなくて、思わず結界張っちゃってたし。王宮でも半径1キロくらい近くに来ると匂いでわかってたから、近寄らないようにしてたし」
そのせいで、王子は王宮に一緒に住んでることにも気が付かなかったんだよな。避けられてたから。
「あ、でもおかげで《ステルス》が出来るようになったわ」
「えっ?それはすごいな」
ステルスって隠蔽と隠密を掛け合わせたようなものだろ?気配遮断と魔力探知遮断もついてるの?すごくないか?それ。
「消臭魔道具とか開発してもらえばよかったわね。魔導士団に頼もうかしら」
「いや、魔道具で全部解決しちゃうと元が正せないからダメだな」
「もう、適当にして『できませんでした』ってポイしちゃえば良いのに」
「いやいや。一応宰相から任命された仕事だからね。国には貢献しないと」
国外追放とかされちゃうし?色々王族と魔法契約結んでるし?破ると罪人になっちゃうし?
「むう。真面目なんだから。でも……そんなエヴァンが、す、好きよ」
アルヴィーナはそういうと、ぎゅっと俺を抱きしめた。うんうん、可愛い義妹だ。完璧だとどれほど周りが思っていてもまだまだ16歳の子供で、ちょっとブラコンになっちまったけど。
「俺も好きだよ、アルヴィーナ」
ぎゅうとしがみつく手を、その上からポンポンと叩いて俺も言い返した。アルヴィーナが、がっかりした顔でため息をついているのは全く気がついていなかったが。
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