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シンファエルの憂い④
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「殿下!殿下は風魔法が使えると伺いました」
次の日になって、朝からアルヴィーナが満面の笑顔で駆け寄ってきた。ああ、やっぱり可愛い。
「でしたら、薬草園の草取りをお願いしてもいいでしょうか?」
「は?」
「王宮魔導士の持つ薬草畑があるでしょう?先日の雨で雑草が異常繁殖してしまい、てんてこ舞いしているんですの。わたくしは沼地になってしまった畑の除水作業を手伝うので、殿下は雑草を風魔法で取り除いていただけませんか?」
「雑草?は?この私が?畑仕事?」
「魔導士の皆様も騎士団の皆様もお手伝いしているんですのよ。ここは一致団結して皆で取り組めば、あっという間に終わる作業ですわ!」
「ふ、ふざけたことを言うな!私は王子だぞ!」
「あら」
「そんな下々の仕事を、なぜ私がしなければならないんだ!気分が悪い!」
私は腹が立って、アルヴィーナ嬢を残してその場を大股で離れた。
私の魔力を馬鹿にしているのか。
王子に向かってなんてことを言うんだ。父上に言いつけてやる。
ちょっと可愛いからと優遇すれば、図々しいことこの上ない!
騙された気分だ!
あまりにも腹が立ったので、しばらく部屋をうろうろして気を沈め、落ち着いたところで父上に謁見の伺いを立てた。
すぐに許可が降りて、侍従を従えて王の執務室へと向かう途中でふと薬草園が視界に入った。
いや、それは薬草園ではなく、空に浮かんだ土がついたままの薬草株だった。
目を丸くして身を乗り出して廊下から外を見ると、そこには数人の魔導士たちが魔法を使って薬草株を宙に浮かし、アルヴィーナ嬢が沼になってぐちゃぐちゃになった畑の土から水球をいくつも取り出し、火魔法で蒸発させ、土を柔らかな状態に戻しているところだった。
「な、なんだ、あれは…!?」
「ここ数日の雨で被害が出た畑を、アルヴィーナ嬢がお手伝いを申し出てくださったようです。伯爵領で同じようなことをしたから慣れていると仰っておいででした」
侍従が、滑らかにそう告げる。慣れてるって、あんな大規模な魔法、嘘だろう?しかも水魔法って水を作り出すだけじゃ無いのか!?
「水魔法のコントロールが上手な方は、空気中から水分を取り出したり、体内に溜まった毒素を取り出したりも可能なんだそうですよ」
「た、体内から?」
「アルヴィーナ嬢はまだそこまでコントロールはできないけれど、兄はできるとおっしゃっていました。薬草から薬用分だけを取り出すことも可能なんだとか」
「兄?兄がいるのか」
「ええ。魔法は兄から学んだと」
驚愕の視線を向けていると、地均しも終わったのか薬草が地面に戻っていき、魔導士達が歓喜の声をあげた。そしてアルヴィーナ嬢は「では次の畑へ行きましょう!」と魔導士団を引き連れて、和気藹々と次の畑へ向かっていった。
なんなんだ、あれは。規格外だろ?規格外だよな?
私は父上に文句を言う気持ちも萎えてしまい、そのまま部屋に戻ってふて寝をした。
あんなの、敵うわけないじゃないか。
父上も母上も、私にあんなレベルの魔法を期待しているのか。
絶対無理だ。
王宮の侍女たちが、アルヴィーナ嬢の美しさを噂する。
騎士たちが、アルヴィーナ嬢は剣も扱えると騒いでいた。
魔導士団が、アルヴィーナ嬢にぜひ手伝ってもらいたいことがあると、父上に伺いを立てた。
私がやらないでほったらかしていた政務を、アルヴィーナ嬢が片付け始めた。
アルヴィーナ嬢が、アルヴィーナ嬢が、アルヴィーナ嬢が。
「父上。アルヴィーナ嬢はたかだか伯爵令嬢なのに、皆少し褒め過ぎではないですか?」
「うむ、だがな。アルヴィーナ嬢はお前がやりたがらない仕事をやってくれているのだ。気に入らなくば、お前がその仕事をやるのが筋だろう?」
「っ!で、ですが。私にもやるべきことがたくさんあって」
「王になりたければ、後回しにせず任された政務をやりなさい。わからなければ兄上……宰相に聞けば良い」
「でしたら!父上に伺ってもいいですか。王は伯父上ではなく父上でしょう!」
「わ、わしにはわしの政務があるから、忙しくてな。お前の分まで面倒は見切れん。必要ならば文官の補佐をつけよう。家庭教師はどうした?帝王学の教師がおっただろう」
そんなの、とうの昔にクビにしてしまった。
小難しいことばかり言うし、大昔の歴史や座学ばかりだ。
私が妃にやらせればいいと言った時、誰も反対しなかったじゃないか。
私はもっと優雅ににこやかに速やかに私の思う通りにしたいのに、なぜ誰も彼もアルヴィーナ嬢ばかり褒めるのか。
次第に、私がアルヴィーナ嬢を避けるようになり、学園が始まってしまった。
学園は、華やかな生徒で溢れていた。制服があるから皆同じような服装をしているが、美しい令嬢がたくさんいた。
なぜ、私のお茶会にはあんなに少ない人数だったのだろう。
美しい令嬢はたくさんいるのに。ああ、そうか。高位貴族令嬢だけだったからか。
私の結婚相手に、なぜ子爵家や男爵家ではいけないのだろう。同じ貴族なのに。
それでも、アルヴィーナ嬢はその中でもダントツの美しさだった。
久しぶりに見かけた彼女はサイドの髪を編み込んで後ろで束ね紅色のリボンを結んでいた。
キラキラした新緑の瞳は夏になっても新緑のまま、若々しく瑞々しい色合いだ。
次の日になって、朝からアルヴィーナが満面の笑顔で駆け寄ってきた。ああ、やっぱり可愛い。
「でしたら、薬草園の草取りをお願いしてもいいでしょうか?」
「は?」
「王宮魔導士の持つ薬草畑があるでしょう?先日の雨で雑草が異常繁殖してしまい、てんてこ舞いしているんですの。わたくしは沼地になってしまった畑の除水作業を手伝うので、殿下は雑草を風魔法で取り除いていただけませんか?」
「雑草?は?この私が?畑仕事?」
「魔導士の皆様も騎士団の皆様もお手伝いしているんですのよ。ここは一致団結して皆で取り組めば、あっという間に終わる作業ですわ!」
「ふ、ふざけたことを言うな!私は王子だぞ!」
「あら」
「そんな下々の仕事を、なぜ私がしなければならないんだ!気分が悪い!」
私は腹が立って、アルヴィーナ嬢を残してその場を大股で離れた。
私の魔力を馬鹿にしているのか。
王子に向かってなんてことを言うんだ。父上に言いつけてやる。
ちょっと可愛いからと優遇すれば、図々しいことこの上ない!
騙された気分だ!
あまりにも腹が立ったので、しばらく部屋をうろうろして気を沈め、落ち着いたところで父上に謁見の伺いを立てた。
すぐに許可が降りて、侍従を従えて王の執務室へと向かう途中でふと薬草園が視界に入った。
いや、それは薬草園ではなく、空に浮かんだ土がついたままの薬草株だった。
目を丸くして身を乗り出して廊下から外を見ると、そこには数人の魔導士たちが魔法を使って薬草株を宙に浮かし、アルヴィーナ嬢が沼になってぐちゃぐちゃになった畑の土から水球をいくつも取り出し、火魔法で蒸発させ、土を柔らかな状態に戻しているところだった。
「な、なんだ、あれは…!?」
「ここ数日の雨で被害が出た畑を、アルヴィーナ嬢がお手伝いを申し出てくださったようです。伯爵領で同じようなことをしたから慣れていると仰っておいででした」
侍従が、滑らかにそう告げる。慣れてるって、あんな大規模な魔法、嘘だろう?しかも水魔法って水を作り出すだけじゃ無いのか!?
「水魔法のコントロールが上手な方は、空気中から水分を取り出したり、体内に溜まった毒素を取り出したりも可能なんだそうですよ」
「た、体内から?」
「アルヴィーナ嬢はまだそこまでコントロールはできないけれど、兄はできるとおっしゃっていました。薬草から薬用分だけを取り出すことも可能なんだとか」
「兄?兄がいるのか」
「ええ。魔法は兄から学んだと」
驚愕の視線を向けていると、地均しも終わったのか薬草が地面に戻っていき、魔導士達が歓喜の声をあげた。そしてアルヴィーナ嬢は「では次の畑へ行きましょう!」と魔導士団を引き連れて、和気藹々と次の畑へ向かっていった。
なんなんだ、あれは。規格外だろ?規格外だよな?
私は父上に文句を言う気持ちも萎えてしまい、そのまま部屋に戻ってふて寝をした。
あんなの、敵うわけないじゃないか。
父上も母上も、私にあんなレベルの魔法を期待しているのか。
絶対無理だ。
王宮の侍女たちが、アルヴィーナ嬢の美しさを噂する。
騎士たちが、アルヴィーナ嬢は剣も扱えると騒いでいた。
魔導士団が、アルヴィーナ嬢にぜひ手伝ってもらいたいことがあると、父上に伺いを立てた。
私がやらないでほったらかしていた政務を、アルヴィーナ嬢が片付け始めた。
アルヴィーナ嬢が、アルヴィーナ嬢が、アルヴィーナ嬢が。
「父上。アルヴィーナ嬢はたかだか伯爵令嬢なのに、皆少し褒め過ぎではないですか?」
「うむ、だがな。アルヴィーナ嬢はお前がやりたがらない仕事をやってくれているのだ。気に入らなくば、お前がその仕事をやるのが筋だろう?」
「っ!で、ですが。私にもやるべきことがたくさんあって」
「王になりたければ、後回しにせず任された政務をやりなさい。わからなければ兄上……宰相に聞けば良い」
「でしたら!父上に伺ってもいいですか。王は伯父上ではなく父上でしょう!」
「わ、わしにはわしの政務があるから、忙しくてな。お前の分まで面倒は見切れん。必要ならば文官の補佐をつけよう。家庭教師はどうした?帝王学の教師がおっただろう」
そんなの、とうの昔にクビにしてしまった。
小難しいことばかり言うし、大昔の歴史や座学ばかりだ。
私が妃にやらせればいいと言った時、誰も反対しなかったじゃないか。
私はもっと優雅ににこやかに速やかに私の思う通りにしたいのに、なぜ誰も彼もアルヴィーナ嬢ばかり褒めるのか。
次第に、私がアルヴィーナ嬢を避けるようになり、学園が始まってしまった。
学園は、華やかな生徒で溢れていた。制服があるから皆同じような服装をしているが、美しい令嬢がたくさんいた。
なぜ、私のお茶会にはあんなに少ない人数だったのだろう。
美しい令嬢はたくさんいるのに。ああ、そうか。高位貴族令嬢だけだったからか。
私の結婚相手に、なぜ子爵家や男爵家ではいけないのだろう。同じ貴族なのに。
それでも、アルヴィーナ嬢はその中でもダントツの美しさだった。
久しぶりに見かけた彼女はサイドの髪を編み込んで後ろで束ね紅色のリボンを結んでいた。
キラキラした新緑の瞳は夏になっても新緑のまま、若々しく瑞々しい色合いだ。
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