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シンファエルの憂い①
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私の名は、シンファエル。
ザール王国の唯一の王子である。
つい最近私の求愛活動が見つかって、絶賛謹慎中である。
たった一人の王子であるにも関わらず、まだ立太子されていない。
というのも私にはまだ妃と呼べる人が見つかっていないからだ、と母上が言っていた。
10歳の時にたてられた婚約者とは、全くもってうまく行っていないから仕方がないとも思うが、あんな女と結婚するくらいなら自分で自分に見合った妃を探そうと模索していた矢先のことだった。
見た目が綺麗な女性はいくらでもいる。瞳が美しいとか、礼儀作法が美しいとか、スタイルがいいとか。学園ではそんな美しい花達はよりどりみどりだが、見た目に騙されてはいけない。
アルヴィーナはその頂点にいるからだ。
見た目だけを取れば、彼女ほど美しい女性はこの学園にはいなかった。いや、それだけではない。学問も魔法も剣術も体術も刺繍や歌声さえ彼女に勝るものは見たことがない。
だから、彼女ではダメなのだ。
「一人の男として守る者も持たずに、国を任せることは出来ない」
宰相である伯父上が言った。
この国は豊かで美しい。山があり、谷があり、水は豊富で海もある。
隣国とは友好的なお付き合いをしているし、憂いになるものは何もない。
賢者の言葉を借りるなら、ここはさながら「桃源郷」なのだ。
二世代ほど前に剣聖が我が国から生まれ最強の騎士団を設立し、次いで賢者が現れて魔導士団を築き上げた。
おかげで周辺の森や山から凶暴な魔獣がいなくなり、我が国には平穏が訪れた。
四季があり、風情溢れるこの国が私は大好きだ。
国王である父上も王妃である母上も時に厳しく時に優しく、尊敬できる両親だ。
側妃もおらず、私はただ一人の王子で全ての者に傅かれ、なんの憂いもなく立派な王太子になるはずだった。
だがそれに待ったをかけたのが、伯父でもあり宰相でもあるエリクソン・ハルバード公爵である。
国王である父上の兄にあたる人だ。
弟に劣るような兄であったくせに、意見だけは人並み以上に言う困ったお方だが、重鎮への影響力と政治力は高いという。
伯父は母上と同じで、お小言が多く厳しい人だ。
宰相というのは国の要であるらしいから当然と言えば当然だが、父上も国王だと言うのに兄上である伯父に頭が上がらない。
その伯父曰く、王太子になるには学園を上位の成績で入学し、無事上位の成績で卒業しなければならないと言った。
なぜだ。
それでは私が16歳になるまで待たねばならないではないか。
「人の上に立つ者であれば、知識は大切だ。頭の悪い国のトップに誰がついて来ると思う。小狡い臣下に騙され、隣国に乗っ取られても文句は言えぬだろう」
友好国に囲まれているというのに、なぜ乗っ取られることなど心配しなければならないのか。自国の臣下を信用せずして誰を信用するというのだ。
当時の私は幼く、微弱ながらも伯父に抵抗をした。
「私の妃になる人物が母上のように賢ければ、良いではないですか。私は父のように大らかで国民から好かれる王になりたい」
我が父は国民に人気がある。要あるごとにバルコニーから顔を出して手を振れば、国民の歓声が王宮中に響き渡るのだ。人気がなければそうは行くまい。
国は潤っているし、問題は何もない。
つまり国王が正しくあるからだ。
それを聞いた伯父上と母上はスッと表情をなくし、父上を見た。父がびくりと体を揺らし、母上に視線を向けた。
「……それがよろしいかと思いますわ、陛下」
「う、うむ。そうか。では早速だが、高位貴族の令嬢たちを集めお披露目をしよう。シンファエルはその中で一番良いと思う令嬢を選びなさい」
「はい!ありがとうございます」
母上がパンパンと手を叩くと、さっと侍従が現れペンと紙を手に側に立つ。
「伯爵以上の高位貴族で、シンファエルと共に学園で能力を高め合えるようなお相手がよろしいかと思われますので、年齢層は同年か三つ上までにいたしましょう。よろしいでしょうか、陛下」
「う、うむ。それでいいだろう」
「かしこまりました」
侍従は頭を下げ、颯爽と部屋を退出し、おふれを出した。
そうして私の妃ハントが始まった。
ザール王国の唯一の王子である。
つい最近私の求愛活動が見つかって、絶賛謹慎中である。
たった一人の王子であるにも関わらず、まだ立太子されていない。
というのも私にはまだ妃と呼べる人が見つかっていないからだ、と母上が言っていた。
10歳の時にたてられた婚約者とは、全くもってうまく行っていないから仕方がないとも思うが、あんな女と結婚するくらいなら自分で自分に見合った妃を探そうと模索していた矢先のことだった。
見た目が綺麗な女性はいくらでもいる。瞳が美しいとか、礼儀作法が美しいとか、スタイルがいいとか。学園ではそんな美しい花達はよりどりみどりだが、見た目に騙されてはいけない。
アルヴィーナはその頂点にいるからだ。
見た目だけを取れば、彼女ほど美しい女性はこの学園にはいなかった。いや、それだけではない。学問も魔法も剣術も体術も刺繍や歌声さえ彼女に勝るものは見たことがない。
だから、彼女ではダメなのだ。
「一人の男として守る者も持たずに、国を任せることは出来ない」
宰相である伯父上が言った。
この国は豊かで美しい。山があり、谷があり、水は豊富で海もある。
隣国とは友好的なお付き合いをしているし、憂いになるものは何もない。
賢者の言葉を借りるなら、ここはさながら「桃源郷」なのだ。
二世代ほど前に剣聖が我が国から生まれ最強の騎士団を設立し、次いで賢者が現れて魔導士団を築き上げた。
おかげで周辺の森や山から凶暴な魔獣がいなくなり、我が国には平穏が訪れた。
四季があり、風情溢れるこの国が私は大好きだ。
国王である父上も王妃である母上も時に厳しく時に優しく、尊敬できる両親だ。
側妃もおらず、私はただ一人の王子で全ての者に傅かれ、なんの憂いもなく立派な王太子になるはずだった。
だがそれに待ったをかけたのが、伯父でもあり宰相でもあるエリクソン・ハルバード公爵である。
国王である父上の兄にあたる人だ。
弟に劣るような兄であったくせに、意見だけは人並み以上に言う困ったお方だが、重鎮への影響力と政治力は高いという。
伯父は母上と同じで、お小言が多く厳しい人だ。
宰相というのは国の要であるらしいから当然と言えば当然だが、父上も国王だと言うのに兄上である伯父に頭が上がらない。
その伯父曰く、王太子になるには学園を上位の成績で入学し、無事上位の成績で卒業しなければならないと言った。
なぜだ。
それでは私が16歳になるまで待たねばならないではないか。
「人の上に立つ者であれば、知識は大切だ。頭の悪い国のトップに誰がついて来ると思う。小狡い臣下に騙され、隣国に乗っ取られても文句は言えぬだろう」
友好国に囲まれているというのに、なぜ乗っ取られることなど心配しなければならないのか。自国の臣下を信用せずして誰を信用するというのだ。
当時の私は幼く、微弱ながらも伯父に抵抗をした。
「私の妃になる人物が母上のように賢ければ、良いではないですか。私は父のように大らかで国民から好かれる王になりたい」
我が父は国民に人気がある。要あるごとにバルコニーから顔を出して手を振れば、国民の歓声が王宮中に響き渡るのだ。人気がなければそうは行くまい。
国は潤っているし、問題は何もない。
つまり国王が正しくあるからだ。
それを聞いた伯父上と母上はスッと表情をなくし、父上を見た。父がびくりと体を揺らし、母上に視線を向けた。
「……それがよろしいかと思いますわ、陛下」
「う、うむ。そうか。では早速だが、高位貴族の令嬢たちを集めお披露目をしよう。シンファエルはその中で一番良いと思う令嬢を選びなさい」
「はい!ありがとうございます」
母上がパンパンと手を叩くと、さっと侍従が現れペンと紙を手に側に立つ。
「伯爵以上の高位貴族で、シンファエルと共に学園で能力を高め合えるようなお相手がよろしいかと思われますので、年齢層は同年か三つ上までにいたしましょう。よろしいでしょうか、陛下」
「う、うむ。それでいいだろう」
「かしこまりました」
侍従は頭を下げ、颯爽と部屋を退出し、おふれを出した。
そうして私の妃ハントが始まった。
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