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 ベイカー兄妹は美形なのだ。兄の容姿に見慣れてしまったシャルルは、余程のことがなければ容姿に惹かれることはない。兄ほど格好の良い人間がなかなかいなかったのも、不運だったかもしれない。ここにきて、シャルルの好みが目の前に現れた。

 避けるべきか。

 シャルルは席を立った。シャルルの視線に合わせて青年の視線も上がる。コツンと一歩前に出ると、視線をさっと足元に走らせ、また顔を見つめてくる青年。喉仏が上下するのが見えた。小柄なシャルルが近づくにつれ、彼の視線は下がり、シャルルの視線は上がる。

 背が高い。ますます好みである。

 シャルルは意を決して、歩み寄り、さっとしゃがむと青年が落とした食器を拾い上げた。

「落としましたよ」

 そういってにっこり微笑みかけると、カフェテリアにいた全員が顔を赤らめた。それほどまでにシャルルの微笑みは稀だったのだ。

「あ、ああ。すみません…ありがとう。美しい人」

 シャルルは一瞬固まった。

「あの、お名前をお聞かせくださいませんか、美しい人。俺…私はシリウス・マッカーシー。伯爵家の次男ですが、騎士を目指しています。あなたに話しかけていると思っただけで心が躍ります。今まで知らなかった剣技を一度に覚えたような、魔剣を見つけた時と同じような驚きと興奮で包まれています。あなたこそ私の運命の人、どうかお名前を教えてください」

 シャルルは真っ赤になって後ずさった。いつもとはちがうパターンである。剣技や魔剣と同じにされた。興奮の例えはちょっとずれてる気もするが、自白と言えるのだろうか。青年は真っ赤になって口元を押さえたり離したりして混乱している様子。止めたいけど止められない、といったところか。拾い上げた食器はポイ捨てされ、床に転がった。

「シャ、シャルル、です。シャルル・ベイカーと申します」
「シャルル!ああ、シャルル!どうか俺と結婚してください!運命の人!俺の魔剣!」

 カフェテリアは悲鳴に包まれた。婚約飛ばして結婚きた。

「シャルル!なんて美しい響き!シャルル!あなたの髪はどんな匂い立つローズにも勝り、あなたの青い瞳はどんな宝石よりも輝かしい!シャルル!夢にまで見た魔剣より美しい立ち姿!お願いです、シャルル!どうか私の手を取って!」
「ヒィ」

 ズイズイくる押しの強さに、ちょっと顔を引き攣らせ後ずさったシャルルだったが、ぐっと両手を握られて、チュパチュパと手の甲にキスをされ、キラキラとした瞳でシャルルの返事を待つシリウスに、シャルルは真っ赤になって固まってしまった。

 これは告白?自白なの?

「私は騎士の心根に誓ってあなたを守ると宣言します。どうか私と共に人生を歩んではくださいませんか!」

 学園内に剣の持ち込みは禁止なので、騎士の剣に誓うことはできないが、心根とやらに誓いを捧げたシリウスにシャルルは思わずこくりと頷いた。

「わ、私でよければ、よろしくお願いします」

 その瞬間、パキンと小さな音がして、光が飛び散った。カフェテリアは、悲鳴なのか歓喜なのか分からない阿鼻叫喚に溢れかえり、皆がもみくちゃになって騒ぎ出した。

「やった!ありがとう!シャル……っ?」

 はた、とシリウス青年はその腕に今にも絞め殺しそうなほど抱き締めたシャルルの頭を見て、動きを止めた。

「……え?」
「……え?」

 お互いに見つめ合い、シリウスはガバッと距離を置いた。

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