10 / 16
閑話:神父様の祈り
しおりを挟む
王都からは少し離れた、田舎と都会の間ほどのバーミューダ伯爵領。ここは少々特殊な領地で、国が隠しておきたい事情がふんだんに隠されている。ずっと昔、この世界では魔王と勇者の戦いがあり、この土地こそがその中心だったという。魔王が封印され、魔獣や瘴気が減った頃、人がこの地に国を建てた。魔王が蘇った時のために、十分な結界術師を用意し、戦える知識や能力を持った人間が集まったという。
そんな話は、今や伝説となり、おとぎ話に変わって、伝記として教会で語り継がれるのみ。しかしながら、やはり特殊な地には特殊な人間が生まれるもので。聖女という存在はこの国特有のものになり、今や聖女が見つかれば神殿が保護をし、教育をなして必要な国へと送られる斡旋事業へと変わっていった。
現在の大聖女様は、神殿の奥で日々を費やし、今や表に出てこない。大聖女様が必要なほどの事変は起こっていないし、普段使いの聖女たちで十分日々の祈りは足りている、と言うことになっている。
私は今、バーミューダ伯爵領の教会で神父をしている。毎日、過去に犯した愚かな大罪の懺悔をし、その罪を償うために聖騎士を辞退し世俗を離れるため修道士になった。それでも、いまだに私の罪の意識が薄れる事がない。
元々私は聖女を守る聖騎士だった。自分の仕事に誇りを持ち、聖女様を守るために日々精進していたはずなのに、迂闊にも私は聖女様に恋をした。その時私は18、聖女様は16歳という若さだった。世間を知らない聖女様のお世話をしながらも、小さな喜びを分け合い、逢引を繰り返し、恋心を育んでしまった。そして聖女様も私に体を許してしまった。汚れた地点で、聖女としての地位は剥奪されると知っていて。
間違いを犯し、聖女様は子を孕んだ。途端に現実を見た私と聖女様はそれを隠すために、人として、親としてしてはならないことをした。生まれたばかりの子を捨てるという大罪を犯したのだ。乳が張り、血を流した彼女は胸の痛みと罪の意識に囚われて、懺悔を繰り返すうち、大司教にバレてしまった。神官たちが慌てて赤子を探したものの、すでに死んでしまったか拾われたかして見つからなかった。
人々を救う教会の最大の汚点として、穢された聖女を大司教は大罪の間に閉じ込め、二度と人目に触れないようにしてしまった。禊をし、神の赦しを得るまではそこを出てはならないと。そして私は、性器切断の上で完全断種の禊を受け、国外追放か、生涯を神に仕える身になるかの選択を迫られた。
宦官になり、修行をし数年が過ぎた。元々聖騎士だったのもあり、作法や知識に問題はなく、1年ほど前に神父としてバーミューダ伯爵領の教会に派遣された。
神託が降りたのだという。この地で己の罪を見ろと。
バーミューダ伯爵領には大きな貧民街がある。国の方針で、貧民はこの領に送られ管理されているのだという。だから領民には神の救いが必要であり、自身で身を守れる神父が必要なのだと。よくよく調べてみれば、かつての勇者の血筋の者や、英雄と呼ばれた人々の親族もこの領には多く住んでいる。魔法使いが多いのもこの領ならではで、絶妙なバランスで成り立っていた。バーミューダ伯爵は豪傑で、勇者の血を引くまじめな御仁だからこそ、治安もそう悪くはならないのかも知れないが。
5年ほど前に、ナンチャッテ男爵が貧民の少女を連れてやってきた。スラリとした長身の男で、領民に人気のある御仁だと聞く。そのほとんどは愛する男爵夫人との絡みの話だが。どうやら一途な人間のようで、微笑ましい。だが、その一途な男が連れてきた少女を見て、私は雷に打たれたような衝撃を受けた。見間違いなんかじゃない。
そこにいたのは、確かに私の愛した聖女との結晶だった。
「俺の子じゃないという証明が欲しい」
ナンチャッテ男爵がそう告げた。震える声を何とか落ち着かせながら、水晶にて鑑定をする。出てきた結果を、一部隠蔽して証明書を出した。この子は、ラズマリーナは、確かに私と聖女の子だった。10歳だ。この子は私の子。男爵の子ではない。一体なぜ、そんな誤解が。
ラズマリーナは、赤子の頃に誰かに拾われ一命は取り留めたのだろうが、物心がついた頃には貧民街にいて、厳しい幼少期を余儀なくされたらしい。大人たちからは、理由もなく殴られ蹴られといった暴行を受け、泥水を啜り、食べ物のない日も何日もあったという。ゴミを漁り、吐瀉物から食べ物のかけらを拾い、馬の糞すら口に入れたと言う。
ああ。何という罪深い、何と言う非道な真似を私は犯したのか。保身に走り、子の命をドブへ棄てた。どんなに謝っても謝りきれない。
だが、彼女は生き抜いた。逞しく、愛の無い環境で瞳には怒りを含み、諦めの表情を浮かべながらも、ここまで生きてくれた。今更、私が父親だなどと言い出せるほど厚顔無恥でもない。できることならば、こんなにも罪深い私などより、この男爵家で令嬢として育ててもらえないだろうか。
私は言葉巧みに男爵を先導し、そしてそれは神に祝福された。養女となり、貴族になった。責任感のある愛情深い男でよかった。いい家庭に救われたのだ。これからは、父と母と呼べる人々に愛され、真っ当に育ってもらいたい。そのためならどんな補佐でもしよう。願わくば聖女にはならず、自由に生き、愛する人を見つけ、幸せに生きて欲しい。
「神よ。感謝します。あの子を死ぬまで見守り、私はこの地に骨を埋めましょう」
ラズマリーナはそれから頻繁に顔を出した。嫌そうに教会の教えを聞き、聖女の生業についても耳を傾けたものの、興味はなさそうだった。教会の子供たちと遊び、シスターらとバザーの手伝いをする姿が眩しい。
「神様ってさ、見てるだけで何もしないよね」
太々しく笑い、冷めた目で女神像を見上げる。胸が痛くなった。私のせいだ。
「神は、手助けをするために座すわけではありませんよ」
「じゃあ、何で神様に感謝するの?」
「そうですね…」
私は出来る限りの言葉で、神の存在が心の拠り所になることと、奇跡について語った。聖女の力が神から受け渡され、それを人々に分け与えるのだと言うこと。ただ見ているのではなく、人々に判断を委ねているのだと言うことも。ラズマリーナは反論するわけでもなくふうん、と鼻を鳴らすだけだったが、どうも信心は少ないらしい。苦笑する。
貧民街で厳しい目に遭ってきたのだから無理もない。この子が神を信じられるようになる頃には、私の罪は償えるのだろうか。代わりにと言うわけではないが、聖騎士として学んだ神学を説き、内緒で剣も教えた。なかなか筋が良い。魔法を教えれば、次に訪れた時には使えるようになっていた。それならば、と付与の仕方も教えた。魔法を剣や道具に付与させるのはコントロールが必要で難しい。鑑定も隠蔽も、すぐに使えるようになっていた。素晴らしい子供だ。私の子として育てていたら、さぞや自慢の娘だったに違いない。いつか罪を償い終えて、私の愛する聖女に会えたなら、その時はあの人にも伝えよう。私たちの娘は、立派に生きているよ、と。
それから5年が経ち、ラズマリーナはますます美しく、愛らしく育った。いや、しかし眼光が鋭い気がする。何だろう……冷静沈着で冷めた視線は変わらず、生き生きしていると言うよりも……虎視眈々と獲物を狙うような野生的な感じがする。男爵家では令嬢として育てられているのではないのか。
「ラズマリーナ。あなたは今、幸せですか?不満に思うことはありませんか?」
「神父様。アタシ、じゃなかった、私はとっても幸せですわ。お父様もお母様も呆れるほど人が良く、私がしっかりしないといいカモ、いえ、その、獲物?じゃなくて、えっと、とにかく放っておいたら、食い物にされてしまうので、私がたくさん勉強してるんです。学院に行ったらもっと魔法も覚えて、勉強して、お母様の商会を裏から支えたい。だから、アタ、私、神父様には申し訳ないけど、聖女にはなりません」
「そうですか。やりたいことが見つかったのであれば、私もそれを応援しますよ。聖女としての力量は誰よりも多いので、バレないよう、きちんと隠蔽するように」
「はい。神父様に教えてもらった聖魔法の使い方と魔法剣の使い方、全部覚えましたから大丈夫です!」
「使い過ぎると、聖女として召し上げられてしまうので、気をつけて。それと、呪いは己にも返ってきますから、程々にしてくださいね」
「嫌だ、呪いだなんて。ふふっ。あれはお願いですから大丈夫ですよ!」
「その調子です。子供といえど、男性は獣と同じです。見目が良いだけで、流されてはいけません。甘い言葉には裏があると思いなさい。オレオレで強引な貴族の子息にも気をつけて。傲慢さの裏には甘えや弱さが隠れているものです。自慢しいな子息は自信の無さの現れですし、笑顔だけで人の話を聞かない輩など、クズも同然ですよ」
「はい。カルトロさんにも注意されました。お父様のように、開けっぴろげに恥も外分もなく、一人の女に愛を語る男なら大丈夫だと言われました。お母様のように手のひらで転がせるようになれと」
「………な、なるほど。しかし、愛を語るにはまだ早いのでは?もっと大人になってからでもいいのですよ?」
「わかってます。でも、アタシ養女だから、これからお父様とお母様に後継が生まれるかも知れないでしょ?そうなった時に邪魔にならないように、ちゃんと準備をしておきたいんです」
「ラズマリーナ…」
「アタシの弟か妹が安心して男爵家を担って行けるよう、サポートできる夫を見つけないと!」
「そ、そうですか……。頼もしい限りですね。それでは、ラズマリーナ。王都の学院でも頑張って、自分を見失わないように、後悔のないように生きてくださいね。これは私からの餞別です」
手渡したのは、私の愛する聖女からいただいたタリスマンだ。今のラズマリーナは何気に無敵だから、必要ないかも知れないが、護身の魔法陣と精神攻撃無効の魔法陣が付与されている。魔境のような所に行くのだから、大袈裟ではないはず。
「特別なものですから肌身離さず、できれば誰にも見つからないよう、隠蔽の魔法もかけておくと良いでしょう。公平な神父が贔屓したと思われてもいけませんからね」
「わぁ…。綺麗。ありがとうございます。神父様。大事にします」
こうしてラズマリーナは私の手を離れた。短い期間だったとはいえ、楽しかった。
愛しの我が子よ。幸せになってください。
そんな話は、今や伝説となり、おとぎ話に変わって、伝記として教会で語り継がれるのみ。しかしながら、やはり特殊な地には特殊な人間が生まれるもので。聖女という存在はこの国特有のものになり、今や聖女が見つかれば神殿が保護をし、教育をなして必要な国へと送られる斡旋事業へと変わっていった。
現在の大聖女様は、神殿の奥で日々を費やし、今や表に出てこない。大聖女様が必要なほどの事変は起こっていないし、普段使いの聖女たちで十分日々の祈りは足りている、と言うことになっている。
私は今、バーミューダ伯爵領の教会で神父をしている。毎日、過去に犯した愚かな大罪の懺悔をし、その罪を償うために聖騎士を辞退し世俗を離れるため修道士になった。それでも、いまだに私の罪の意識が薄れる事がない。
元々私は聖女を守る聖騎士だった。自分の仕事に誇りを持ち、聖女様を守るために日々精進していたはずなのに、迂闊にも私は聖女様に恋をした。その時私は18、聖女様は16歳という若さだった。世間を知らない聖女様のお世話をしながらも、小さな喜びを分け合い、逢引を繰り返し、恋心を育んでしまった。そして聖女様も私に体を許してしまった。汚れた地点で、聖女としての地位は剥奪されると知っていて。
間違いを犯し、聖女様は子を孕んだ。途端に現実を見た私と聖女様はそれを隠すために、人として、親としてしてはならないことをした。生まれたばかりの子を捨てるという大罪を犯したのだ。乳が張り、血を流した彼女は胸の痛みと罪の意識に囚われて、懺悔を繰り返すうち、大司教にバレてしまった。神官たちが慌てて赤子を探したものの、すでに死んでしまったか拾われたかして見つからなかった。
人々を救う教会の最大の汚点として、穢された聖女を大司教は大罪の間に閉じ込め、二度と人目に触れないようにしてしまった。禊をし、神の赦しを得るまではそこを出てはならないと。そして私は、性器切断の上で完全断種の禊を受け、国外追放か、生涯を神に仕える身になるかの選択を迫られた。
宦官になり、修行をし数年が過ぎた。元々聖騎士だったのもあり、作法や知識に問題はなく、1年ほど前に神父としてバーミューダ伯爵領の教会に派遣された。
神託が降りたのだという。この地で己の罪を見ろと。
バーミューダ伯爵領には大きな貧民街がある。国の方針で、貧民はこの領に送られ管理されているのだという。だから領民には神の救いが必要であり、自身で身を守れる神父が必要なのだと。よくよく調べてみれば、かつての勇者の血筋の者や、英雄と呼ばれた人々の親族もこの領には多く住んでいる。魔法使いが多いのもこの領ならではで、絶妙なバランスで成り立っていた。バーミューダ伯爵は豪傑で、勇者の血を引くまじめな御仁だからこそ、治安もそう悪くはならないのかも知れないが。
5年ほど前に、ナンチャッテ男爵が貧民の少女を連れてやってきた。スラリとした長身の男で、領民に人気のある御仁だと聞く。そのほとんどは愛する男爵夫人との絡みの話だが。どうやら一途な人間のようで、微笑ましい。だが、その一途な男が連れてきた少女を見て、私は雷に打たれたような衝撃を受けた。見間違いなんかじゃない。
そこにいたのは、確かに私の愛した聖女との結晶だった。
「俺の子じゃないという証明が欲しい」
ナンチャッテ男爵がそう告げた。震える声を何とか落ち着かせながら、水晶にて鑑定をする。出てきた結果を、一部隠蔽して証明書を出した。この子は、ラズマリーナは、確かに私と聖女の子だった。10歳だ。この子は私の子。男爵の子ではない。一体なぜ、そんな誤解が。
ラズマリーナは、赤子の頃に誰かに拾われ一命は取り留めたのだろうが、物心がついた頃には貧民街にいて、厳しい幼少期を余儀なくされたらしい。大人たちからは、理由もなく殴られ蹴られといった暴行を受け、泥水を啜り、食べ物のない日も何日もあったという。ゴミを漁り、吐瀉物から食べ物のかけらを拾い、馬の糞すら口に入れたと言う。
ああ。何という罪深い、何と言う非道な真似を私は犯したのか。保身に走り、子の命をドブへ棄てた。どんなに謝っても謝りきれない。
だが、彼女は生き抜いた。逞しく、愛の無い環境で瞳には怒りを含み、諦めの表情を浮かべながらも、ここまで生きてくれた。今更、私が父親だなどと言い出せるほど厚顔無恥でもない。できることならば、こんなにも罪深い私などより、この男爵家で令嬢として育ててもらえないだろうか。
私は言葉巧みに男爵を先導し、そしてそれは神に祝福された。養女となり、貴族になった。責任感のある愛情深い男でよかった。いい家庭に救われたのだ。これからは、父と母と呼べる人々に愛され、真っ当に育ってもらいたい。そのためならどんな補佐でもしよう。願わくば聖女にはならず、自由に生き、愛する人を見つけ、幸せに生きて欲しい。
「神よ。感謝します。あの子を死ぬまで見守り、私はこの地に骨を埋めましょう」
ラズマリーナはそれから頻繁に顔を出した。嫌そうに教会の教えを聞き、聖女の生業についても耳を傾けたものの、興味はなさそうだった。教会の子供たちと遊び、シスターらとバザーの手伝いをする姿が眩しい。
「神様ってさ、見てるだけで何もしないよね」
太々しく笑い、冷めた目で女神像を見上げる。胸が痛くなった。私のせいだ。
「神は、手助けをするために座すわけではありませんよ」
「じゃあ、何で神様に感謝するの?」
「そうですね…」
私は出来る限りの言葉で、神の存在が心の拠り所になることと、奇跡について語った。聖女の力が神から受け渡され、それを人々に分け与えるのだと言うこと。ただ見ているのではなく、人々に判断を委ねているのだと言うことも。ラズマリーナは反論するわけでもなくふうん、と鼻を鳴らすだけだったが、どうも信心は少ないらしい。苦笑する。
貧民街で厳しい目に遭ってきたのだから無理もない。この子が神を信じられるようになる頃には、私の罪は償えるのだろうか。代わりにと言うわけではないが、聖騎士として学んだ神学を説き、内緒で剣も教えた。なかなか筋が良い。魔法を教えれば、次に訪れた時には使えるようになっていた。それならば、と付与の仕方も教えた。魔法を剣や道具に付与させるのはコントロールが必要で難しい。鑑定も隠蔽も、すぐに使えるようになっていた。素晴らしい子供だ。私の子として育てていたら、さぞや自慢の娘だったに違いない。いつか罪を償い終えて、私の愛する聖女に会えたなら、その時はあの人にも伝えよう。私たちの娘は、立派に生きているよ、と。
それから5年が経ち、ラズマリーナはますます美しく、愛らしく育った。いや、しかし眼光が鋭い気がする。何だろう……冷静沈着で冷めた視線は変わらず、生き生きしていると言うよりも……虎視眈々と獲物を狙うような野生的な感じがする。男爵家では令嬢として育てられているのではないのか。
「ラズマリーナ。あなたは今、幸せですか?不満に思うことはありませんか?」
「神父様。アタシ、じゃなかった、私はとっても幸せですわ。お父様もお母様も呆れるほど人が良く、私がしっかりしないといいカモ、いえ、その、獲物?じゃなくて、えっと、とにかく放っておいたら、食い物にされてしまうので、私がたくさん勉強してるんです。学院に行ったらもっと魔法も覚えて、勉強して、お母様の商会を裏から支えたい。だから、アタ、私、神父様には申し訳ないけど、聖女にはなりません」
「そうですか。やりたいことが見つかったのであれば、私もそれを応援しますよ。聖女としての力量は誰よりも多いので、バレないよう、きちんと隠蔽するように」
「はい。神父様に教えてもらった聖魔法の使い方と魔法剣の使い方、全部覚えましたから大丈夫です!」
「使い過ぎると、聖女として召し上げられてしまうので、気をつけて。それと、呪いは己にも返ってきますから、程々にしてくださいね」
「嫌だ、呪いだなんて。ふふっ。あれはお願いですから大丈夫ですよ!」
「その調子です。子供といえど、男性は獣と同じです。見目が良いだけで、流されてはいけません。甘い言葉には裏があると思いなさい。オレオレで強引な貴族の子息にも気をつけて。傲慢さの裏には甘えや弱さが隠れているものです。自慢しいな子息は自信の無さの現れですし、笑顔だけで人の話を聞かない輩など、クズも同然ですよ」
「はい。カルトロさんにも注意されました。お父様のように、開けっぴろげに恥も外分もなく、一人の女に愛を語る男なら大丈夫だと言われました。お母様のように手のひらで転がせるようになれと」
「………な、なるほど。しかし、愛を語るにはまだ早いのでは?もっと大人になってからでもいいのですよ?」
「わかってます。でも、アタシ養女だから、これからお父様とお母様に後継が生まれるかも知れないでしょ?そうなった時に邪魔にならないように、ちゃんと準備をしておきたいんです」
「ラズマリーナ…」
「アタシの弟か妹が安心して男爵家を担って行けるよう、サポートできる夫を見つけないと!」
「そ、そうですか……。頼もしい限りですね。それでは、ラズマリーナ。王都の学院でも頑張って、自分を見失わないように、後悔のないように生きてくださいね。これは私からの餞別です」
手渡したのは、私の愛する聖女からいただいたタリスマンだ。今のラズマリーナは何気に無敵だから、必要ないかも知れないが、護身の魔法陣と精神攻撃無効の魔法陣が付与されている。魔境のような所に行くのだから、大袈裟ではないはず。
「特別なものですから肌身離さず、できれば誰にも見つからないよう、隠蔽の魔法もかけておくと良いでしょう。公平な神父が贔屓したと思われてもいけませんからね」
「わぁ…。綺麗。ありがとうございます。神父様。大事にします」
こうしてラズマリーナは私の手を離れた。短い期間だったとはいえ、楽しかった。
愛しの我が子よ。幸せになってください。
10
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』
山口 犬
ファンタジー
――その国の王となるには、次期王候補者と精霊使いは、四つの属性の大精霊と大竜神の祝福を受けなければならない。
『ニュースです。昨夜、銀座のビルのテナントの一室で起きた爆発事故で、連絡が取れなくなっていた従業員とみられる男女四人の遺体が発見されました。』
女子大生のハルナはMMORPGにどっぷり浸かった生活を送っていたが、PCパーツ貧乏となり親族のお手伝いで夜のアルバイトへ。不慮の事故により異世界へ転生し、精霊と出会う。
ハルナは失踪した精霊使いの少女と似ていたため、この世界の事情に取り込まれていくことになる。
※大変申し訳ありません。現在家庭の事情で、創作活動が滞っております。現在、書き溜めもすべて放出している状態です。すみませんが、これからの更新は不定期になります。
【以下のサイトでも掲載中です】
小説家になろう様
https://ncode.syosetu.com/n6489fn/
エブリスタ様
https://estar.jp/novels/25497426
カクヨム様
https://kakuyomu.jp/works/1177354054893181287
ノベルバ様
https://novelba.com/indies/works/913633
ノベルアップ+様
https://novelup.plus/story/867233065
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
糞ゲーと言われた乙女ゲームの悪役令嬢(末席)に生まれ変わったようですが、私は断罪されずに済みました。
メカ喜楽直人
ファンタジー
物心ついた時にはヴァリは前世の記憶を持っていることに気が付いていた。国の名前や自身の家名がちょっとダジャレっぽいなとは思っていたものの特に記憶にあるでなし、中央貴族とは縁もなく、のんきに田舎暮らしを満喫していた。
だが、領地を襲った大嵐により背負った借金のカタとして、准男爵家の嫡男と婚約することになる。
──その時、ようやく気が付いたのだ。自分が神絵師の無駄遣いとして有名なキング・オブ・糞ゲー(乙女ゲーム部門)の世界に生まれ変わっていたことを。
しかも私、ヒロインがもの凄い物好きだったら悪役令嬢になっちゃうんですけど?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる