上 下
5 / 6

4

しおりを挟む
 ウェスは、人の世界では小柄な男である。

 人の世界では、というのは実はウェスは獣人だからだ。

 ウェスの出身はケンタウリ族。いわゆる半人半馬が通常だ。

 ケンタウリ族はナワバリ意識が強く、なまじっか頭がいいが故に他族を馬鹿にした態度を取るのが嫌われる要素にもなっているのだが、ウェスは広い世界が見たかった。

 引きこもりで、他族と交わらない変人ばかりと呼ばれているケンタウリ族だが、ウェスは愛想が良い。何もわざわざ嫌われるような真似をしなくても、と思いながらも世渡りは下手くそで、野垂れ死する一歩手前で今の師匠、賢者に拾われた。以来、賢者を目指しているわけだが、師匠が手放してくれないのだ。

 170cmそこそこの身長に青みの強い黒髪という草食動物のような、あまり冴えない容姿をしていると自負している。何せ師匠は魔族であるからして、190cmを超えるし空飛ぶし、兄弟子に至っては巨人族で3メートルを超えるし岩をも噛み砕く。だからこそ、採取などの地味な作業を嫌がり、ウェスに任せきりなのだ。

 とはいえ、魔法が使えるこの世界で、ウェスは背の高さや筋肉などさほど気にすることはなく、むしろ小さいがため細かい作業も得意だった。森の中も半人半馬になれば、全く問題はないし、魔力循環をして人間の姿になれば、街に出ても邪険にされることもない。

 実力はあるのに、万年賢者の弟子という不甲斐ない蔑称を持つウェスは、このレースで『独立』を願う予定である。立派な一人前の賢者になるには、賢者の石を作らなければならないが、使い勝手の良いウェスを師匠が手放したく無いがため、作ろうとするたびに邪魔をしてくるのだ。材料だって時間だって豊富にあるわけでもないのに、必死になって集めた材料を兄弟子に潰されたり、作ってる最中にお使いを頼まれたり、出来上がった石を隠されたり。いい加減「やめてやる!」とも思うのだが、ここで賢者から失格をもらうと、もう賢者になれるチャンスもない。別の賢者に弟子入りという資格すら奪われるのだから。

 というわけで、ウェスはこの生死をかけた耐久レースに全てをかけることにしたのだ。


 このタブレットサーチパネルも自分で錬金したものである。そのうちもっと細かい情報も打ち出せるものを作りたいが、今回はこれでことが済むはずだ。

 そんなわけで転移ゲートを潜り抜けいくつかの世界を渡り、ようやく桃華を見つけた。

 名前:大林桃華(♀)
 年齢:16歳(高校二年生)
 種族:人族
 性格:温和、短気、人情深い、チョロい、時々凶暴
 嗜好:可愛いもの、甘いもの、小さいもの、食べ物全般
 スキル:武道全般、ダンス、威圧、身体強化、覆面獣化(猫族)、丸呑み、バーサーカー

 人族と言う割に、よくわからないが凄いスキルの持ち主である。しかも師匠並みにでかい。温和で短気、時々凶暴と言うのも気になるが、チョロいらしく話は聞いてくれそうだ。

 いきなりキレられて「お巡りさん、この人、人攫いですよー!」とか叫ばれても困るし、殴りかかってこられるのも怖い。この体躯でバーサーカー状態になられると、ちょっとやばい。

「この世界、魔力持ちはいないよね?獣化のスキルって、一体…あ、覆面が猫面だからか?どちらかっていうと熊っぽいんだけど?」

 どうしようか、と考えるものの、他に『覆面女子高生』で『100kg超え』は簡単に見つからなかった。あまり時間をかけてもレースに出遅れてしまう。

 ひとまず、笑顔で近づいてみよう。言葉が通じなくても笑顔があれば大体通じる。

「お嬢さん、あなた体重何キロあります?」

 ひくり、と頬が引き攣った。




 +ー+ー+ー+


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル
ファンタジー
旧題:私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。 【 聖女?そんなもん知るか。報復?復讐?しますよ。当たり前でしょう?当然の権利です! 】 地震を知らせるアラームがなると同時に知らない世界の床に座り込んでいた。 同じ状況の少女と共に。 そして現れた『オレ様』な青年が、この国の第二王子!? 怯える少女と睨みつける私。 オレ様王子は少女を『聖女』として選び、私の存在を拒否して城から追い出した。 だったら『勝手にする』から放っておいて! 同時公開 ☆カクヨム さん ✻アルファポリスさんにて書籍化されました🎉 タイトルは【 私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください 】です。 そして番外編もはじめました。 相変わらず不定期です。 皆さんのおかげです。 本当にありがとうございます🙇💕 これからもよろしくお願いします。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

【完結】平凡な容姿の召喚聖女はそろそろ貴方達を捨てさせてもらいます

ユユ
ファンタジー
“美少女だね” “可愛いね” “天使みたい” 知ってる。そう言われ続けてきたから。 だけど… “なんだコレは。 こんなモノを私は妻にしなければならないのか” 召喚(誘拐)された世界では平凡だった。 私は言われた言葉を忘れたりはしない。 * さらっとファンタジー系程度 * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

処理中です...