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「ば、馬車に酔っちゃったんですか…?」

 思えば、安鶴沙はこの世界に来てから…というより、生まれたこの方馬車にのった事などなかった。酔ったとしても無理のない事だろう。

「うう…すみません、鎮守府大将軍・北畠顕家の後裔たる私が…」

 などとルカにはまったく意味の分からない事を呟きながら苦悶の表情を浮かべている。

「レームさん、すみません。ちょっと馬車を止めてもらっていいですか…?」

 ルカはそう言うと、荷物の中から素早く何種類かの薬草を探し出し、すり鉢の中に入れた。それをすり潰し混ぜ合わせ、安鶴沙に飲ませる。

「どうですか…?これを飲めばすぐに良くなるはずですから、ゆっくりと飲んでくださいね」

「はい…」

 安鶴沙はルカの介助を受けながら、すり潰された薬草を飲み干していく。

「すみません、ルカ君…いっつも迷惑をかけて…」

「大丈夫ですよ、アヅサさん」

「そうそう、大丈夫だよぅ」

 そんな言葉と共にひょっこりと顔を出した来たのはレームだ。

「アヅサお姉さんが苦しそうな状況でこんな事を言うのはなんだけどぉ…なかなかいいものを見させてもらったからねぇ」

 レームはルカが手に持つ薬草入りのすり鉢に顔を近付けくんくんと鼻を鳴らした。

「その調合…的確だねぇ。即効性の吐き気止めにクルスセナ草の葉っぱ。酔ったせいで乱れた魔力を落ち着けるためにタンサイの木の根。さらに、このままだと飲み辛いからキコアの実で風味付けかぁ…」

「…一目見ただけでそこまで分かるんですか?」

 レームの正確な指摘にルカは驚いた。

「あははぁ、これでもGランク冒険者だからねぇ」

 そう言って笑って見せるレームはとても子供っぽくとても冒険者の最高峰とは思えない。

「何にしても、今ので自分の中のルカ君に対する評価はまたアップだよぉ」

「そう…ですか…。なら、わたしも酔った甲斐がありました…」

 薬を飲み終えた安鶴沙が呟くように言った。
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