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一回戦第四試合

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 一回戦第四試合。

 ソランジュ・グラノイアvsウルリッヒ・シャウマン。

 ソランジュは棍棒メイスを武器に戦うパルツィヴァール流槍術中伝の女性。修道服に身を包み、いかにも清楚さを感じさせる風貌だ。

 一方、ウルリッヒはアルトゥース流剣術中伝。修道騎士団の所属ということだが、軽薄そうな笑みがその顔に浮かんでいる。

 試合開始前、審判による注意喚起の最中。ウルリッヒの方からソランジュに対して声をかける。

「ねえねえ、君。どこ出身?」

「え…?」

 突然の言葉にソランジュは戸惑いを見せる。

「この町の子じゃないでしょ?トーナメントに出るためにティネンに来たのかな?俺さ、ティネンの出身なんだよね」

 ソランジュの戸惑いなどお構いなしにウルリッヒは言葉を続ける。

「良かったらさ、試合が終わったら俺が町を案内するよ。美味しいケーキ屋があるんだよね。あ、それともお酒の方がいいかな?いや、修道女シスターにお酒を勧めるのはよくないか。って、それを言ったら俺も修道騎士なんだけどさ。あはは」

 ヘラヘラと笑いながらそんな事を言うウルリッヒ。要するに、彼は目の前の女性をナンパしているのだ。ソランジュは眉をしかめた。今から試合という時にする会話ではない。明らかに舐められている。ふいっとそっぽを向くソランジュ。

「あれ?怒らせちゃったかな?まあとにかくさ、試合が終わるまでに考えておいてよ。俺とデートしてくれるかどうかをさ」

 ウルリッヒは軽薄な表情を崩さない。

 審判が説明を終え、両者は試合開始位置に立つ。そして戦いの始まりを告げるゴングが鳴り響いた。



 試合開始と共に動いたのはウルリッヒだった。ソランジュへ向かって駆けつつ、初伝剣技『峰払い』を放つ。先ほどまでヘラヘラと笑いながら口説いていた人物とは思えない鋭い攻撃。いかにもいい加減そうな言動と、戦闘の際の迷いない攻撃のギャップ。それがウルリッヒの武器だった。

 しかし――そんな彼の顔にソランジュの棍棒メイスから放たれた突きがめり込んだ。リーチの長さを活かし後の先を取るパルツィヴァール流中伝槍技、『抜去ばっきょ』。

「がっ…はっ…!」

 ウルリッヒが鼻血を飛び散らせながらのけぞった。そんな彼に、ソランジュは更なる追い討ちをかける。腹部への突き、初伝槍技『胴突き』。棍棒メイスを上から叩き落とす初伝槍技『槍落とし』。さらには全身を回転させながら放つ中伝槍技『うねり薙ぎ』。

「ちょ、ちょっと、ストップ!ストッ…ぐはっ!わ、分かった、ギブアッ…ぐわはっ!」

 ソランジュの連続攻撃に、ウルリッヒはギブアップすら言わせてもらえない。

 そして数分後――試合場には、全身を棍棒メイスで打ち据えられて身動きひとつ出来なくなってしまったウルリッヒの姿があった。領域魔術の力ですぐに回復するだろうが、全身はアザだらけ。骨も二、三本は折れているだろう。

「勝者、ソランジュ・グラノイア!」

 ニコニスの声が会場に響き渡る。ソランジュの完勝だ。しかし、彼女の顔は浮かなかった。

(やり過ぎてしまいまいした…)

 ウルリッヒのあまりにも軽薄な態度が許せず、必要以上に攻撃を加えてしまった。修道女にあるまじき行動だ。

(流祖パルツィバール、院祖レガウよ…どうか、罪深き私をお許しください)

 自らの愚かさに胸を痛めるソランジュ。そんな彼女の耳に、声が届いた。

「で、さ…答えは…?」

 声の主はウルリッヒだ。彼は地面に倒れ伏しながら、顔だけソランジュに向けている。しかし、彼女には言葉の意味が分からない。

「だから、さ…デートの返事は…?」

「…」

 ソランジュは自分の考えを改める。この様子なら、もう二、三発殴っていても問題なかった――と。


 一回戦第四試合 ソランジュ・グラノイアvsウルリッヒ・シャウマン…勝者、ソランジュ・グラノイア
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