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その頃2

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 ジョゼフ・フィッツロイは荒野の中に煌々と輝く焚火の横に腰かけていた。時刻は夜。空を見上げれば、今にも落ちてきそうな星々が光を放っている。

 彼の周囲には、十人を超える男たち。彼らはジョゼフの同行者だ。いや、ジョゼフが彼らに同行させてもらっているという表現が正しいか。

 男たちは商隊キャラバンの構成員だ。ジョゼフは現在、彼らの護衛として雇われている。目指す方面が同じな上に報酬もいい。彼にとっては絶好の雇い主と言えた。

 だが、真に幸運だったのはジョゼフを雇った商隊キャラバンの方だっただろう。

「いやあ、助かったよ」

 そう言ってジョゼフの横に腰かけたのは、中年の男。彼はこの商隊キャラバンの隊長だ。

「まさかあんな所にポイズンファングタイガーが出るなんて…君がいなかったらどうなっていた事か」

 ポイズンファングタイガー。その名の通り、毒牙を持つ虎によく似た魔物モンスターだ。魔物モンスターランクはC。今日の昼、ポイズンファングタイガーが3頭、唐突に岩陰から飛び出し商隊キャラバンに襲いかかってきたのだ。

 この辺りはポズンファングタイガーの生息域ではない。おそらく、どこかから流れ着いてきたのだろう。突然のCランク魔物モンスターの出現に、商隊キャラバンはパニックに陥りかけた。だが、ジョゼフと共に護衛に当たっていた冒険者が商隊キャラバンを守るように前に飛び出し、

「落ち着け!散らばって逃げると追われるぞ!」

 と一喝、隊員たちを沈めた。それを見たジョゼフが動き、ポズンファングタイガーに槍を繰り出した。その結果、見事撃退する事ができたのだ。

「ジョゼフさんがいなければおそらく死者が出ていたでしょう。ささ、どうぞ…」

 商隊キャラバンの隊長はジョゼフに酒の入った木製ジョッキを手渡した。酒場で飲もうとすればこの一杯で1万Krクローナは下らないであろう上等の酒だ。

「ありがとよ。そんじゃ…」

 と、ジョッキを受け取り酒を飲もうとしたジョゼフは、焚火から少し離れた位置で座る男に気が付いた。昼間の戦闘で、商隊キャラバンを守るために飛び出した人物だ。

「せっかくの酒だ。ちょっとあの冒険者も呼んでくらぁ」

 そう言って立ち上がり、男の方へ近付いていく。

「よっ。昼間は助かったぜ。ありがとな」

 ジョゼフに声をかけられ、男は顔を上げた。

「助かった?…魔物モンスターを仕留めたのはお前だろ」

 男は怪訝そうな表情で答える。

「いや、あんたがあそこで飛び出してくれなきゃ、商隊キャラバンはパニックになってた。もしみんなが散り散りになって逃げて、そこを襲われてたら…多分、守り切れなかった。何人か犠牲者が出てたはずだ。みんな無事だったのはあんたのおかげだよ」

「そうか。そりゃよかった」

 男は苦笑する。

「俺はお前みたいに強くないからな。修伝槍使いの…ジョゼフって言ったか」

「ああ。最近Bランクに昇格したばかりだがAランク相当の実力を持ちSランク冒険者からも一目置かれる実質的にSランクの男、ジョゼフ・フィッツロイだ」

「その自己紹介は初めて会った時にも聞いたよ」

 そう言って男は笑顔を浮かべる。好意の込められた笑みだ。

「まあ、俺ごときDランク冒険者でも役に立てたようで良かった」

「役に立てたどころじゃねえって。あんたはこの商隊キャラバンの恩人だ。さ、焚火の方へ行こうぜ。隊長が酒を奢ってくれるってよ」

「酒か――」

 そう呟き、男は首を振った。

「護衛の最中は酒を飲まない事にしてんだ」

「へえ…立派だな」

「立派なもんかよ。それでヘマやっちまってな。次そんな失敗したら、カミさんに愛想つかされちまう」 

 男はそう言って、本格的に魔術を習うために今は別行動している妻の顔を脳裏に思い浮かべる。そして…ひとりの少年の顔も。

「あとまあ…次に会った時に、ちったあマシな男になってねえとあいつにも会わす顔がないからな」

「あいつ?」

「いや、何でもない」

 男は肩をすくめる。

「まあ何にしても、お前みたいな強い奴が仲間にいるのは心強い。目的地までよろしく頼むぜ、ジョゼフ」

「ああ、分かったぜ。ドナルドさんよ」

 そう言い合って、青年二人は星空を見上げた。
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