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ラナキア洞窟攻略10

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 次の日。一行は朝食を食べ終えるとすぐさまキャンプを出発した。

 床の溝に沿って奥へ奥へと進んでいく。しばらくの間、大きな障害はなかった。時折ニードルバットが襲ってくるのみだ。

「いい感じだな」

 ジョゼフが言った。

迷宮ダンジョンってのは、発見されてすぐに攻略するのが一番楽だって聞くが、その通りかもしれねえ」

「そうですね」

 ルカもジョゼフの意見に同意する。

 一般的に、迷宮ダンジョンは発見された直後に攻略するのが最も何度が低いとされている。それは発見された直後の迷宮ダンジョンというのは『寝起き』だからだ、というのが冒険者たちの意見である。

 迷宮ダンジョン内は濃い魔力の影響で独自の生態系が生まれている。これは見方を変えれば、迷宮ダンジョン内はある程度安定した状態であるという事だ。そういった状態の迷宮ダンジョンを、冒険者たちは『寝起き』の迷宮ダンジョンだと呼ぶ。このような迷宮ダンジョンは、比較的攻略が容易だ。

 しかし、何度も冒険者が攻略に挑戦し、失敗して…を繰り返す事によって、迷宮ダンジョンでは生態系が狂い迷宮ダンジョン内の魔力もどんどん歪さを増していく。その結果、迷宮ダンジョン内で突然変異的に強力な魔物モンスターが生まれたり、迷宮ダンジョン内の空間がねじれにねじれて複雑化していく。そういった迷宮ダンジョンは攻略が難しい。

 皮肉な事に、冒険者が挑めば挑む程難易度を増していくのが迷宮ダンジョンという存在なのだ。

 地面の溝は想像以上に長く続いていた。代り映えのしない景色にジョセフが飽きてきた頃…前方に湖が見えた。前日見た地底湖をさらに一回り大きくしたような巨大な湖。そしてその中央には、洞窟の中にあるには極めて異質な物体があった。

「建物…?」

 アレクシアが呟く。

 湖の中央にあったのは、石造りの建築物だ。それもかなりの大きさがある。ちょっとした貴族の屋敷ほどはあるだろうか。建物のある泉の中央までは、石畳の橋がかけられている。

「なんつーか、いかにも…って感じの建物だな」

「はい。あそこから強い魔力を感じます」

 ジョゼフの言葉にルカは頷く。

「多分、あの建物がゴールです」

 ゴール。すなわち、迷宮ダンジョンの最深部。魔力の塊…迷宮ダンジョンコアが存在する場所。

「ゲルトさんの推察が正しいなら、元々あの場所は古代の神殿だったんでしょう。そこにコアがあって…ボスがいる可能性も高いです」

 ボス――迷宮ダンジョンの主。最後に待ち受ける最大の難関。迷宮ダンジョンコアと融合し、絶大な魔力を得た魔物モンスターの総称だ。とは言っても、ボスは迷宮ダンジョンを支配している訳ではない。むしろ、迷宮ダンジョンの魔力に支配されていると見るべきだろう。

 迷宮ダンジョンコアを奪うため最深部へと到達した冒険者を阻む存在だ。ボスは迷宮ダンジョン内で最強の存在であり、他の魔物モンスターとは一線を画す実力を持つ。

「気を引き締めていかねえとな」

 ジョゼフがそう言うと、三人も頷いた。周囲の安全を確認した後、ルカたちは神殿へと続く石造りの橋へと足を踏み入れた。

「…」

 緊張の面持ちで橋を渡っていく。湖自体が広いため、橋も長い。200mほどあるだろうか。おそらく数百年以上は昔に建造された橋であるにもかかわらず老朽化している様子は見えなかった。いにしえの技術のなせる技か、それとも迷宮ダンジョンの魔力の影響か。

 橋を渡り終え、神殿へと到達する。入り口に扉のようなものはなく、そのまま中へ入る事ができた。ルカは入り口近くの壁に紋章のようなものを発見し足を止める。

「これは…」

 ここに来る途中にあった溝に掘られていた紋章と同じもののようだ。しかし、溝に掘られていたものと違い浸食されておらずその形がはっきりと見て取れる。中央に羽の生えた獅子、さらにその口から出ている蛇が獅子を取り巻くように円を描いている紋章だ。

(禍々しい紋章…以前、本で見た事があるような…)

「ん…なんだ、この気持ち悪い紋章は…」

 ルカが記憶を探っていると、ジョゼフも紋章に気がつき近寄った。その時、

「おお…」

 と、呻くような声が二人の後ろから聞こえる。そちらへ視線を向ければ…ゲルトが顔を青ざめて――もっとも、彼は元々青ざめたような顔色なのだが、それをさらに青ざめさせて――口元を抑えていた。

「だ、大丈夫ですか?」

 ルカがゲルトの身を案じる。彼の体に何か異変があったのでは…と思ったからだ。しかしそうではなかったようで、ゲルトは二、三度深呼吸すると落ち着きを取り戻した。彼がルカたちの前でこのような取り乱し方をするのは初めての事だ。

「…すみません、驚きのあまり少し取り乱してしまいました」

 頭を左右に振り、ゲルトは壁の紋章に近付いた。そしてそれをゆっくりと指でなぞる。

「この紋章、間違いありません。ここは…邪神殿です」

「邪神殿…?」

 聞きなれない言葉にジョセフが眉をひそめる。

「二千年前、世界を滅ぼしかけた邪神…人類最大の厄災。邪神デミウルゴスを祭る神殿です」
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