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新しい日々
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ルカたちは、デボラ、ドナルドと別れた。
「坊やも来るかい?」
デボラはそう言ってルカを誘ったが、遠慮しておいた。夫婦水入らずの時間を邪魔する訳にはいかない。
「じゃあね、坊や、アレクシアちゃん。元気でね」
「じゃあな、ルカ。…ああそうそう、ボグリザードとマッドゴーレムが出現した事、魔力異常発生の可能性があるっつー事は、俺の方から冒険者ギルドに報告しとく。お前は、まあ…数日はゆっくり休めや」
二人は最後にそんな事を言って、繁華街へと消えていった。先ほどの言葉通り、二人で酒でも飲みながら互いに愛でも囁くのだろう。
そして残されたのは…ルカとアレクシアの二人だけとなった。アレクシアは相変わらず凛とした表情で佇んでいる。
「アレクシアさん、この後どうするつもりなんですか?」
ルカはなんとなくアレクシアが気がかりになり、そんな事を尋ねる。
「どうする、とは?」
「その…泊まる宿屋とか、決まってるんですか?それとも、知り合いがいるとか…」
「いや、特に何も決めてはいない」
「お金は…持ってないんですよね?」
「ああ。だが、ジムケ殿に返して貰ったこのナイフを金に換えれば何とかなるだろう」
ナイフを取り出して見せるアレクシア。
(やっぱりそうか…)
ルカの心配は的中した。
「あの…今からそのナイフを武器屋に持ち込んだとして、即日買い取ってもらえる可能性は低いと思いますよ」
「む…そうなのかい?」
「はい。ジムケさんの話では、100万Kr以上の価値があるという話でした。そんな高価なものを持ち込まれても、この辺りの武器屋じゃ即日換金という訳にはいきません」
「そういう、ものなのか…?」
「もし即日現金で、となれば買い叩かれてしまうはずです。例えば十分の一、二十分の一の値段でしか買い取ってもらえなかったり…」
「なるほど…しかし、それしか方法がないのであればそれもやむを得ないだろうね」
あっさりそんな事を言うアレクシア。100万Krで売れるナイフが10万Kr、5万Krにしかならないとあれば大損害だ。しかし、それを気にする様子はない。彼女の金銭感覚はどこかズレている。
いや、金銭感覚だけではない。さまざまな面でルカの常識とはズレがあった。彼女を放っておいたらまずいのではないか…そんな思いがルカの中で沸き上がる。
「あの、もし良かったら僕と同じ宿に泊まりませんか?お金は僕が出しますよ」
「それは…大変嬉しい申し出だが、君の迷惑になるのでは?」
「ジムケさんから護衛代金をいただいたので大丈夫ですよ。それに冒険者は助け合うものですから」
ルカは決めた。しばらくの間、アレクシアと行動しようと。
アレクシアはどうかやら、Fランク冒険者の中でも駆け出し中の駆け出し…新人であるらしい。少なくとも冒険者としてある程度軌道に乗るまでは共に行動して色々とサポートした方がいいだろう。
(とはいえ、アレクシアさんは僕なんかよりずっと強いし…すぐ上のランクに登っちゃいそうだけど)
二人は、安宿街へと向かった。
◇
途中で人に道を尋ねつつ、安宿街へと到着した。あまり広くはない通りに安宿と安食堂、あとは雑貨屋などが軒を連ねている。通りを歩くのは、小売りの行商人や旅人たち。どの町の安宿街にも共通した風景だ。
少し違う点をあげるとするならば、冒険者らしき者があまりいない事だ。
ルカは通りを歩きながら宿を品定めする。
(今回は、あんまり安すぎる宿はやめておいた方がいいな…)
ルカがベルーズで泊まっていた宿の宿泊費は、一泊1000Kr。とはいえ、これは安宿の中でも最低に近い値段設定だ。部屋は狭くベットは固い上に壊れかけ、部屋の内装もお世辞にも綺麗とは言えなかった。ルカとしてはそれで十分といえたが、そういった宿にアレクシアを泊めるのは少し憚られた。
(せめて、安宿の中でも少し綺麗な所を探そう)
そう考えながら通りを歩き…一軒の宿を見つけた。
レンガ造りの二階建て。建てられてから随分経つのか、やや古ぼけた印象を受ける。しかし、外壁に大きな傷などは見当たらない。よく手入れされている様子だ。入り口前には鉢植えが置かれ、色とりどりの花を咲かせている。建物自体は古いが、清潔感のある宿だ。
「ここに入ってみましょう」
そう言って、ルカはアレクシアと共に宿に足を踏み入れる。
「いらっしゃい」
フロントには眼鏡をかけた初老の男性が座っていた。この宿屋の主人のようだ。
「一泊3000Kr。10日以上の連泊なら割引で一泊2500Krだよぉ」
宿の主人はややとぼけたような声で言った。いや、とぼけているのではなくこれが地声なのだろう。
「2500Krですか…」
ルカはその値段に尻込みしてしまう。宿屋として決して高い価格設定ではない。高級宿となれば、この10倍、20倍などはザラだからだ。とはいえ、今まで泊まっていた宿と比べ一気に2.5倍の宿泊費というのはいささかためらってしまう。いや、正確にはアレクシアの部屋代もルカが払うため、二人で一泊50000Kr…今までの5倍だ。
ジムケからもらった硬貨袋には、10万Krほど入っていた。元々持っていた2万Krと合わせ、現在の資金は12万Kr。
(宿泊費が5000Kr。食費が一日1000Krだとしたら、一日に6000Kr…二十日間暮らせる計算か…)
ルカはしばらくの間この街に滞在し、冒険者として依頼をこなして資金を稼ぎながらランク稼ぐつもりだ。すぐに資金が尽きるという事はないはずだが…それでも、少し悩んでしまう価格だった。
「ああ、そうそう…ぅ」
と、そんなルカを見かねたのか主人が言葉を付け加える。
「ダブルベッドの部屋なら、一泊3500Krだよぉ。連泊で3000Krになるねぇ。そこに二人で泊まれば宿泊費は浮くんじゃないかい?」
「え、同じ部屋に二人で、ですか…?」
それならば、一泊につき2000Krほど宿泊費が浮く計算になる。この差は大きい。しかし、それは憚られた。仮にも男と女だ。野営の際に同じテントで寝るのは仕方がないにしても、何日も同じ部屋で…というのは、さすがにアレクシアも嫌だろう。
そう思ったルカだったが、
「なるほど、同じ部屋に二人…そういうのもあるのか」
と、アレクシアは納得した様子だった。
「その方が沢山話が出来るし、色々と便利そうだ」
「坊やも来るかい?」
デボラはそう言ってルカを誘ったが、遠慮しておいた。夫婦水入らずの時間を邪魔する訳にはいかない。
「じゃあね、坊や、アレクシアちゃん。元気でね」
「じゃあな、ルカ。…ああそうそう、ボグリザードとマッドゴーレムが出現した事、魔力異常発生の可能性があるっつー事は、俺の方から冒険者ギルドに報告しとく。お前は、まあ…数日はゆっくり休めや」
二人は最後にそんな事を言って、繁華街へと消えていった。先ほどの言葉通り、二人で酒でも飲みながら互いに愛でも囁くのだろう。
そして残されたのは…ルカとアレクシアの二人だけとなった。アレクシアは相変わらず凛とした表情で佇んでいる。
「アレクシアさん、この後どうするつもりなんですか?」
ルカはなんとなくアレクシアが気がかりになり、そんな事を尋ねる。
「どうする、とは?」
「その…泊まる宿屋とか、決まってるんですか?それとも、知り合いがいるとか…」
「いや、特に何も決めてはいない」
「お金は…持ってないんですよね?」
「ああ。だが、ジムケ殿に返して貰ったこのナイフを金に換えれば何とかなるだろう」
ナイフを取り出して見せるアレクシア。
(やっぱりそうか…)
ルカの心配は的中した。
「あの…今からそのナイフを武器屋に持ち込んだとして、即日買い取ってもらえる可能性は低いと思いますよ」
「む…そうなのかい?」
「はい。ジムケさんの話では、100万Kr以上の価値があるという話でした。そんな高価なものを持ち込まれても、この辺りの武器屋じゃ即日換金という訳にはいきません」
「そういう、ものなのか…?」
「もし即日現金で、となれば買い叩かれてしまうはずです。例えば十分の一、二十分の一の値段でしか買い取ってもらえなかったり…」
「なるほど…しかし、それしか方法がないのであればそれもやむを得ないだろうね」
あっさりそんな事を言うアレクシア。100万Krで売れるナイフが10万Kr、5万Krにしかならないとあれば大損害だ。しかし、それを気にする様子はない。彼女の金銭感覚はどこかズレている。
いや、金銭感覚だけではない。さまざまな面でルカの常識とはズレがあった。彼女を放っておいたらまずいのではないか…そんな思いがルカの中で沸き上がる。
「あの、もし良かったら僕と同じ宿に泊まりませんか?お金は僕が出しますよ」
「それは…大変嬉しい申し出だが、君の迷惑になるのでは?」
「ジムケさんから護衛代金をいただいたので大丈夫ですよ。それに冒険者は助け合うものですから」
ルカは決めた。しばらくの間、アレクシアと行動しようと。
アレクシアはどうかやら、Fランク冒険者の中でも駆け出し中の駆け出し…新人であるらしい。少なくとも冒険者としてある程度軌道に乗るまでは共に行動して色々とサポートした方がいいだろう。
(とはいえ、アレクシアさんは僕なんかよりずっと強いし…すぐ上のランクに登っちゃいそうだけど)
二人は、安宿街へと向かった。
◇
途中で人に道を尋ねつつ、安宿街へと到着した。あまり広くはない通りに安宿と安食堂、あとは雑貨屋などが軒を連ねている。通りを歩くのは、小売りの行商人や旅人たち。どの町の安宿街にも共通した風景だ。
少し違う点をあげるとするならば、冒険者らしき者があまりいない事だ。
ルカは通りを歩きながら宿を品定めする。
(今回は、あんまり安すぎる宿はやめておいた方がいいな…)
ルカがベルーズで泊まっていた宿の宿泊費は、一泊1000Kr。とはいえ、これは安宿の中でも最低に近い値段設定だ。部屋は狭くベットは固い上に壊れかけ、部屋の内装もお世辞にも綺麗とは言えなかった。ルカとしてはそれで十分といえたが、そういった宿にアレクシアを泊めるのは少し憚られた。
(せめて、安宿の中でも少し綺麗な所を探そう)
そう考えながら通りを歩き…一軒の宿を見つけた。
レンガ造りの二階建て。建てられてから随分経つのか、やや古ぼけた印象を受ける。しかし、外壁に大きな傷などは見当たらない。よく手入れされている様子だ。入り口前には鉢植えが置かれ、色とりどりの花を咲かせている。建物自体は古いが、清潔感のある宿だ。
「ここに入ってみましょう」
そう言って、ルカはアレクシアと共に宿に足を踏み入れる。
「いらっしゃい」
フロントには眼鏡をかけた初老の男性が座っていた。この宿屋の主人のようだ。
「一泊3000Kr。10日以上の連泊なら割引で一泊2500Krだよぉ」
宿の主人はややとぼけたような声で言った。いや、とぼけているのではなくこれが地声なのだろう。
「2500Krですか…」
ルカはその値段に尻込みしてしまう。宿屋として決して高い価格設定ではない。高級宿となれば、この10倍、20倍などはザラだからだ。とはいえ、今まで泊まっていた宿と比べ一気に2.5倍の宿泊費というのはいささかためらってしまう。いや、正確にはアレクシアの部屋代もルカが払うため、二人で一泊50000Kr…今までの5倍だ。
ジムケからもらった硬貨袋には、10万Krほど入っていた。元々持っていた2万Krと合わせ、現在の資金は12万Kr。
(宿泊費が5000Kr。食費が一日1000Krだとしたら、一日に6000Kr…二十日間暮らせる計算か…)
ルカはしばらくの間この街に滞在し、冒険者として依頼をこなして資金を稼ぎながらランク稼ぐつもりだ。すぐに資金が尽きるという事はないはずだが…それでも、少し悩んでしまう価格だった。
「ああ、そうそう…ぅ」
と、そんなルカを見かねたのか主人が言葉を付け加える。
「ダブルベッドの部屋なら、一泊3500Krだよぉ。連泊で3000Krになるねぇ。そこに二人で泊まれば宿泊費は浮くんじゃないかい?」
「え、同じ部屋に二人で、ですか…?」
それならば、一泊につき2000Krほど宿泊費が浮く計算になる。この差は大きい。しかし、それは憚られた。仮にも男と女だ。野営の際に同じテントで寝るのは仕方がないにしても、何日も同じ部屋で…というのは、さすがにアレクシアも嫌だろう。
そう思ったルカだったが、
「なるほど、同じ部屋に二人…そういうのもあるのか」
と、アレクシアは納得した様子だった。
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