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決意と宣戦布告
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競技場に隣接するサブグラウンド。
ここでは、近い時間に試合を控えた選手達が個々にアップを行っている。
トラックの周囲に植林してある木々は、まだら模様の木陰を作っている。
そんな、いく数もの木陰の一つ。
そこには二人の男女が座っていた。
何やら楽しげに会話しているのが、見て取れる。
その輪に入りたい。
そんな気さえ覚えさせないような空間がそこにはあった。
「あいつ意外と元気そうだな」
「全く準決勝前だと言うのに気楽なもんだよ」
サブグラウンドの入口付近にも二つの人影が会った。
メガネをかけた秀才風の男、それと、そちらよりは一回り大きな体格をした明るさが取得を言わんばかりの男。
親友と、その彼女を見つめる男達は、木陰の男女と同じ目を持っていた。
「予定通りでいいな」
既に分析済みと言った調子はいつもと変わらない。
それを一段高い目線で聞く男の調子も変わらない。
「ああ、そうだな。こりゃ話しかけるのはタブーにしか思えんだろ? それに……」
「これ以上人のこと心配する余裕はない……かな?」
「────」
二人の間に沈黙が訪れた。
心地よい沈黙だ。
二人の周囲に空間が創られる。
緊張の糸が繭を作るように。
一本一本丁寧に、でも時に遊び心を入れて。
寄り道する糸は他の糸へと絡まり、個々の空間に小さな小さな繋がりを与える。
〝運命の赤い糸〟そんな言葉がある。
糸で繋がれた個と個に運命がある。そんな意味だ。
運命。今それを偶然のようで必然な大切な繋がりであると定義するならば。
繋がれるのは決して個と個の二人だけに限定する必要はないように思われる。
現に俺達は繋がっている。
意図したものか、はたまた無意識か。
共に歩んで……いや、走ってきたからこそ、何度ともなく糸は絡まってきた。
〝今〟また新たな糸が絡まり出した。
四人の間に新たな糸が紡がれた。
「あっ、あの二人……」
こちらは、男女がストレッチをしている側の木陰である。
糸が気づかせたのか、彼らの視界は親友────同じ志を持つ同士────の姿を捉えた。
「みんな一緒に……」
……行きたいな
ふと、飛び出しそうになった言葉。
でも何故か最後まで言いきれず、その言葉は宙に消えた。
こういう時、〝願望〟では行けないのだ。
今、俺達に必要なのは〝決意〟なのだ。
〝したい〟ではなく〝する〟。
俺は既に己と、己の過去に向けてそれを誓っている。
だから、その根底にある気持ちを支える存在に、一言。
どうしても言っておかなければいけなかった。
「俺の走りを見ろ」
唐突な一言。
驚き。そんか感情を一瞬だけ走らせ、隣の彼女は微笑んだ。
「はい。あなたの全てを」
「では私からも────私の走りを見てください」
凛とした、誰をも寄せ付けない声だった。
自分が先頭を走ることに微塵の躊躇いも、不信も抱かない。
それが当たり前で、これからも当たり前でい続ける決意の言葉。
常に追われ、待ち、決してその背を掴ませない。
そんな背中だけを見せる彼女の〝言霊〟。
そこに〝決意〟のエール交換はなかった。
高校総体 四日目
サブグラウンド木陰にて 両者 宣戦布告
ここでは、近い時間に試合を控えた選手達が個々にアップを行っている。
トラックの周囲に植林してある木々は、まだら模様の木陰を作っている。
そんな、いく数もの木陰の一つ。
そこには二人の男女が座っていた。
何やら楽しげに会話しているのが、見て取れる。
その輪に入りたい。
そんな気さえ覚えさせないような空間がそこにはあった。
「あいつ意外と元気そうだな」
「全く準決勝前だと言うのに気楽なもんだよ」
サブグラウンドの入口付近にも二つの人影が会った。
メガネをかけた秀才風の男、それと、そちらよりは一回り大きな体格をした明るさが取得を言わんばかりの男。
親友と、その彼女を見つめる男達は、木陰の男女と同じ目を持っていた。
「予定通りでいいな」
既に分析済みと言った調子はいつもと変わらない。
それを一段高い目線で聞く男の調子も変わらない。
「ああ、そうだな。こりゃ話しかけるのはタブーにしか思えんだろ? それに……」
「これ以上人のこと心配する余裕はない……かな?」
「────」
二人の間に沈黙が訪れた。
心地よい沈黙だ。
二人の周囲に空間が創られる。
緊張の糸が繭を作るように。
一本一本丁寧に、でも時に遊び心を入れて。
寄り道する糸は他の糸へと絡まり、個々の空間に小さな小さな繋がりを与える。
〝運命の赤い糸〟そんな言葉がある。
糸で繋がれた個と個に運命がある。そんな意味だ。
運命。今それを偶然のようで必然な大切な繋がりであると定義するならば。
繋がれるのは決して個と個の二人だけに限定する必要はないように思われる。
現に俺達は繋がっている。
意図したものか、はたまた無意識か。
共に歩んで……いや、走ってきたからこそ、何度ともなく糸は絡まってきた。
〝今〟また新たな糸が絡まり出した。
四人の間に新たな糸が紡がれた。
「あっ、あの二人……」
こちらは、男女がストレッチをしている側の木陰である。
糸が気づかせたのか、彼らの視界は親友────同じ志を持つ同士────の姿を捉えた。
「みんな一緒に……」
……行きたいな
ふと、飛び出しそうになった言葉。
でも何故か最後まで言いきれず、その言葉は宙に消えた。
こういう時、〝願望〟では行けないのだ。
今、俺達に必要なのは〝決意〟なのだ。
〝したい〟ではなく〝する〟。
俺は既に己と、己の過去に向けてそれを誓っている。
だから、その根底にある気持ちを支える存在に、一言。
どうしても言っておかなければいけなかった。
「俺の走りを見ろ」
唐突な一言。
驚き。そんか感情を一瞬だけ走らせ、隣の彼女は微笑んだ。
「はい。あなたの全てを」
「では私からも────私の走りを見てください」
凛とした、誰をも寄せ付けない声だった。
自分が先頭を走ることに微塵の躊躇いも、不信も抱かない。
それが当たり前で、これからも当たり前でい続ける決意の言葉。
常に追われ、待ち、決してその背を掴ませない。
そんな背中だけを見せる彼女の〝言霊〟。
そこに〝決意〟のエール交換はなかった。
高校総体 四日目
サブグラウンド木陰にて 両者 宣戦布告
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