俺を彩る君の笑み

幸桜

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決して足を止めるべからず

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 1、2、……3

  先程、3本目の棒を通り過ぎた。
  徐々に大きくなるゴール地点。
  空は満点の星空のみ。

  もしかしたら、その星々も少しずつ動いているのかもしれない。

  まだ世界に大きな変化は起こっていない。

  でも、微かな風の感触。
  それは、前方から迫ってくる。

  肌になでる風、なでた風は通り過ぎることなく、俺のすぐ前を漂い始める。

  走りにくい。

  押し戻そうとする風じゃない。
  ただそこに留まらせようという風。

  これくらいじゃ止まらない!

  風の隙間を見つけ、無理やり身体をねじ込んでいく。

  風そのものは柔らかい。

  ……行ける


 ────4本目の棒を通り過ぎた


  風はそのまま。
  だが、また新たな違和感。

  風だけじゃない。地面も軟らかい。

  まるで沼地のように一本一本が地中へと沈んでいく。
  真っ黒の泥。
  それは、俺の弱気だ。

  俺の不安がこの泥を地形を呼び、変えている。

  ……重い

  足の上に積もる泥、それを押し上げながら前へ進む。
  もう片方は更に地面に沈んでいく。

  右、左、右、左……

  果てしなく続くような道。

  でも、……まだ行ける!

  足の回転が速くなる。
 
  何、簡単な事だ。沈む前に進んでしまえばいい。


 ────5本目の棒を通り過ぎた

  物理的には残り半分。

  そこに若干の心の余裕。
  否、隙が生まれた。

 それに気づいたのは、棒と棒のちょうど中間辺り。

  何故か軽い足に身を任せている時。

  突然脳に響く、打撃音。
  一定のリズムを保ち、途絶えることなく響く音。

  その音と共鳴するように俺の心臓が鳴った。

  この世界に来て忘れていた、俺の鼓動。


  共鳴したのは時計の音だ。

  300メートルを50秒以内。

  そのペースが今、崩れようとしている。

 …………っ!!

 
 不意に背中に寒気を感じた。

  振り返る。
  いや、正確には首を傾け、横目で後方を確認する。

  そこにあるのは、道。通って来たみ……ち、……は無かった。

  そこには虚無だった。

  心臓に語りかける鐘の音。
  時計は協会が時を知らせるように、鐘を鳴らす。

  空気が震え、大地が震え、星が震え、世界が震え

  虚無が生まれる。

  圧倒的な恐怖。
  迫りくる闇に身体がまた動き出す。

  そう、本来この練習に楽な時など存在しない。
  それを感じた時は、既に脱落の一本手前だ。

  空気と大地と星と世界と
  心臓が震える。

  ……苦しい


 ────6本目の棒を通り過ぎた

  坂道になった。徐々に角度を増していく。

  5、10、20、40……60度。

  主観的には垂直に近い。

  風が俺を留まらせる
  地面が俺を沈めさせる
  虚無が俺の過去を消す
 

 ────7本目の棒を通り過ぎた

 残り3本。

  道が消えた。

  3本の棒を残し、それらは消えた。

  棒は立っている。

  長く長く、上は満天の星空めがけ、下も
  ……満天の星空めがけ

 
  〝決して止まるべからず〟

  何処からか聴こえた声に、それでも俺は一歩を踏み出す。



  変わる世界に流れ星。
 

  一つ
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