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1章 サバイバル
好敵手
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「それじゃあ皆は取り敢えず休息をとってくれ。起床は5時だ。遅れるなよ」
それぞれが思い思いの部屋に散らばると部屋に残ったのは零のみとなっていた。相棒の隼人には先に部屋に戻ってもらっている。最終的に意見交換をするにしてもまずは自分の意見を固めておきたかった。
俺たちは拠点への撤退後、情報交換のためのミーティングを開いていた。
このミーティングによって分かったことが1つ。
それは、当サバイバルにおける最大勢力とその目的について。
この情報が得られたことは第九小隊にとって助けとなったことは認めざるを得なかった。
その最大勢力を〝束ねる〟のは第一小隊小隊長 小林 直
彼はそのリーダーシップと人の感情の誘導により、第一中隊、つまり第一から第三までの小隊を自分の駒として手に入れている。
その事実だけなら俺たちもひどく気にする必要はなかったであろう。しかし、彼の行った感情の誘導は第九小隊を強い強制力によりサバイバルの沼へと引きずり込んだ。
共通の敵を持つ、それが彼の行った誘導であった。その誘導はそのまま彼らの目的となる。
共通の敵、その標的とされたのは当初、燻る程度の反感を持たれていた第九小隊であった。
だが、彼はその燻りにいきなり油をかけるような真似はしなかった。彼はその燻りにそっといきを吹きかけた、但し休むことなく。
火はゆっくり、ゆっくりとその勢力を増し、小さな火種を飛ばしていった。
その結果がこれであった。表面的に実質的な彼の支配下にいるのは第一中隊であったが、他の小隊にも彼を支持しているものがいるとみるのが当然であろう。
この情報は第九小隊への特に夜空へと強くダメージを与えていた。彼女はその立場と経験に似合わず、綺麗な心を持っていた。
それ故に事の一つ一つを受け流すような器用さを持ってはいなかった。
零はまだ戻って来ないか、考えていることは同じなのだろう。それならこちらもそれ相応の考えを提示しなければならない。
だが……
最後のあの声、聞き覚えのある古い記憶を刺激する音。
零には悪いが、僕は個人的な事にその時間を使わなければならないようだった。
小山 疾風、あいつに会うのは2年ぶりか。あの日の空は忘れるべくもない。彼が……疾風が僕との再戦を臨むのなら、僕は────
隼人は思い出す、その遠い記憶を。彼の目に浮かぶ3人の男の子は山を駆け回る、1人は零、1人は自分、そして疾風。
3人の中で一番理知的であり、彼がそれとなく2人の無茶を止める姿は日常の光景だった。
彼の髪は男にしてはやや長髪であり、その端はおでこのところで軽くカールをえがいていた。
もっと小さな頃はその髪の癖を気にすることもあったらしいが、その頃には既に彼のトレードマークとして定着していた。
時間が動く、今度は2機の戦闘機が見えた。『97戦』と『隼』、大きな空に浮かぶ2つの黒点は時期にその軌跡を交わらせる。
片方が火を噴いた。
コンコン
控えめなノック音と共に意識が現在へと戻る。無意識に握りしめていた手にはくっきりとした爪跡が残っていた。
「どうぞ」
ゆっくりと扉が開いた。そこに立っていたのは少し緊張した様子の夜空だった。
彼女は隼人の顔を見て、何かを確信したように目をつぶると、大きく深呼吸をして、ようやく言葉を発した。
「隣、座ってもいい?」
黙ってシーツを整えると夜空は静かに腰を下ろした。
彼女の匂いが香り、不思議と肩の力が抜けた。
────暖かい
どうしてだろうか、部屋に暖房がついたわけでも、まして身体が触れ合ったのでもない。
温もりが懐かしい。僕はいつの間にかその過去を語り出していた。
夜空は一度も口は挟まず、時折うなずく以外はじっと僕の目を見つめ話を聞いていた。
夜空が去った部屋で隼人は1人、つい先ほどまでの出来事を振り返っていた。
詳しくは零にさえも話してなかったのにな……
なんとなく空を見上げるとちょうど雲の間から月が出てきたところだった。月の光が隼人の横顔を照らした。
光は隼人の頬をつたうものから心へと吸収され、彼の決意と覚悟、そして記憶を輝かせた。
「ただいま。隼人寝たか?」
ちょうど興奮が収まってきたころ、零は部屋へと戻ってきた。タイミングが良すぎることについては敢えて追求することはしない、ここは彼の配慮に素直に甘えたかった。
「いや、起きてる」
「早く寝とけよ。これは俺の勘だが、明日このゲーム動くぞ……大きな動きだ」
零の勘は昔からよく当たる。それは、勘というには当たりすぎる部分もあった。
彼の勘は野生の勘、危険察知の野生の勘。
今、獣たちはそれぞれの思いとともにその牙を出す。────チュートリアルが終わろうとしていた
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
3日目 午前8時
〝ミッション発動 拠点を攻略せよ ルールは……〟
確かに動いた。否、本当に動くのはこれからだ。学生たちは立ち上がる。その闘争本能は彼らを燃やす
〝……、再度言うルールは簡単、拠点を落とせ。拠点は現在3ヶ所、一つは湖、一つは火山、一つは森にあり、湖を第十小隊、火山を第二小隊、森を第九小隊が占拠している。制限時間は4日目の午後8時まで。────拠点を落とした小隊にはポイントが入る。協力も可能だがその場合のポイントは山分けとする〟
後半の言葉に今までなかった感情が見えた。
〝さぁ諸君楽しもう!〟
サバイバル訓練が本当の意味でスタートした。
それぞれが思い思いの部屋に散らばると部屋に残ったのは零のみとなっていた。相棒の隼人には先に部屋に戻ってもらっている。最終的に意見交換をするにしてもまずは自分の意見を固めておきたかった。
俺たちは拠点への撤退後、情報交換のためのミーティングを開いていた。
このミーティングによって分かったことが1つ。
それは、当サバイバルにおける最大勢力とその目的について。
この情報が得られたことは第九小隊にとって助けとなったことは認めざるを得なかった。
その最大勢力を〝束ねる〟のは第一小隊小隊長 小林 直
彼はそのリーダーシップと人の感情の誘導により、第一中隊、つまり第一から第三までの小隊を自分の駒として手に入れている。
その事実だけなら俺たちもひどく気にする必要はなかったであろう。しかし、彼の行った感情の誘導は第九小隊を強い強制力によりサバイバルの沼へと引きずり込んだ。
共通の敵を持つ、それが彼の行った誘導であった。その誘導はそのまま彼らの目的となる。
共通の敵、その標的とされたのは当初、燻る程度の反感を持たれていた第九小隊であった。
だが、彼はその燻りにいきなり油をかけるような真似はしなかった。彼はその燻りにそっといきを吹きかけた、但し休むことなく。
火はゆっくり、ゆっくりとその勢力を増し、小さな火種を飛ばしていった。
その結果がこれであった。表面的に実質的な彼の支配下にいるのは第一中隊であったが、他の小隊にも彼を支持しているものがいるとみるのが当然であろう。
この情報は第九小隊への特に夜空へと強くダメージを与えていた。彼女はその立場と経験に似合わず、綺麗な心を持っていた。
それ故に事の一つ一つを受け流すような器用さを持ってはいなかった。
零はまだ戻って来ないか、考えていることは同じなのだろう。それならこちらもそれ相応の考えを提示しなければならない。
だが……
最後のあの声、聞き覚えのある古い記憶を刺激する音。
零には悪いが、僕は個人的な事にその時間を使わなければならないようだった。
小山 疾風、あいつに会うのは2年ぶりか。あの日の空は忘れるべくもない。彼が……疾風が僕との再戦を臨むのなら、僕は────
隼人は思い出す、その遠い記憶を。彼の目に浮かぶ3人の男の子は山を駆け回る、1人は零、1人は自分、そして疾風。
3人の中で一番理知的であり、彼がそれとなく2人の無茶を止める姿は日常の光景だった。
彼の髪は男にしてはやや長髪であり、その端はおでこのところで軽くカールをえがいていた。
もっと小さな頃はその髪の癖を気にすることもあったらしいが、その頃には既に彼のトレードマークとして定着していた。
時間が動く、今度は2機の戦闘機が見えた。『97戦』と『隼』、大きな空に浮かぶ2つの黒点は時期にその軌跡を交わらせる。
片方が火を噴いた。
コンコン
控えめなノック音と共に意識が現在へと戻る。無意識に握りしめていた手にはくっきりとした爪跡が残っていた。
「どうぞ」
ゆっくりと扉が開いた。そこに立っていたのは少し緊張した様子の夜空だった。
彼女は隼人の顔を見て、何かを確信したように目をつぶると、大きく深呼吸をして、ようやく言葉を発した。
「隣、座ってもいい?」
黙ってシーツを整えると夜空は静かに腰を下ろした。
彼女の匂いが香り、不思議と肩の力が抜けた。
────暖かい
どうしてだろうか、部屋に暖房がついたわけでも、まして身体が触れ合ったのでもない。
温もりが懐かしい。僕はいつの間にかその過去を語り出していた。
夜空は一度も口は挟まず、時折うなずく以外はじっと僕の目を見つめ話を聞いていた。
夜空が去った部屋で隼人は1人、つい先ほどまでの出来事を振り返っていた。
詳しくは零にさえも話してなかったのにな……
なんとなく空を見上げるとちょうど雲の間から月が出てきたところだった。月の光が隼人の横顔を照らした。
光は隼人の頬をつたうものから心へと吸収され、彼の決意と覚悟、そして記憶を輝かせた。
「ただいま。隼人寝たか?」
ちょうど興奮が収まってきたころ、零は部屋へと戻ってきた。タイミングが良すぎることについては敢えて追求することはしない、ここは彼の配慮に素直に甘えたかった。
「いや、起きてる」
「早く寝とけよ。これは俺の勘だが、明日このゲーム動くぞ……大きな動きだ」
零の勘は昔からよく当たる。それは、勘というには当たりすぎる部分もあった。
彼の勘は野生の勘、危険察知の野生の勘。
今、獣たちはそれぞれの思いとともにその牙を出す。────チュートリアルが終わろうとしていた
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
3日目 午前8時
〝ミッション発動 拠点を攻略せよ ルールは……〟
確かに動いた。否、本当に動くのはこれからだ。学生たちは立ち上がる。その闘争本能は彼らを燃やす
〝……、再度言うルールは簡単、拠点を落とせ。拠点は現在3ヶ所、一つは湖、一つは火山、一つは森にあり、湖を第十小隊、火山を第二小隊、森を第九小隊が占拠している。制限時間は4日目の午後8時まで。────拠点を落とした小隊にはポイントが入る。協力も可能だがその場合のポイントは山分けとする〟
後半の言葉に今までなかった感情が見えた。
〝さぁ諸君楽しもう!〟
サバイバル訓練が本当の意味でスタートした。
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