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第五章 超銀河団を渡るトラブルバスター

第60話 銀河のプロムナード 楠見という名の男たち

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短編集です。
ちなみに、ここに登場する男たちは、全て「楠見」ですが、それぞれ別人ですので。
混乱するかと思い、予め説明しておきます。


その一 「楠見という名の男」

「おうおうおう!何をトチ狂ったのか知らねーが、ここに飛び出てきたってことは命もいらねーってことだよな……野郎ども、その女ともども、この不細工なコスチュームマニアも、やっちまえ!」

この状況、説明せねばなるまい。
ここは、とある未開星の一つ。
多数ある国家の大きめの都市にある、うらぶれたビルの1フロアを占領した違法なカジノバー……
というより違法カジノそのもの。
店名はバーやスナックを装っているが、そのフロアにある店全てが違法カジノの一部。

冒頭の状況より約半日前。
ここは各国より選ばれたエリート刑事や武装警官たちが集う、国際刑事機構と呼ばれる国家をまたいだ警察・検事・判事らの超国家的集団である。
ここの理念は一つ。

「許すまじ 犯罪者」

であり、国をまたいだ犯罪者の追跡や逮捕、そして超国家的な即席裁判と判決・懲罰まで行う。
その中には当然、弁護士も構成員として含まれるが、扱う犯罪の種類が種類だけに、もう犯人の基本的人権とか言ってられない事例が多すぎる。
国際的テロ組織の中心メンバーやら大量殺人事件の指名手配犯やら、うじゃうじゃと「生死問わずに検挙」のポスターやファイルが、あっちにもこっちにも。

「よーし、みんな揃ったな。明日の違法カジノ摘発、打ち合わせをやるぞ。ちなみに情報屋には明後日と手入れの日付を遅らせ情報を漏洩しているので、これが相手に知られることはない」

部長が、やけに上機嫌で言う。
色々と噂がある部長なんで当然だが、この情報も漏れてるんだろうなと摘発部隊の各メンバーは覚悟することとなる。

「部長の奥さんの多額の借金、チャラになったんだってさ」

「あー、それでカジノ摘発なんて自分からは決してやらないはずの事案を自ら提案したわけか。これで恩を売って、その代わりに自分の家族の借金を肩代わりさせようってか。さすがに泥豚と呼ばれる部長だけのことはあるわな……上は、そのこと知ってるのか?」

「長官以下、すでにご存知らしいぞ。情報は筒抜けだという状況で戦争も覚悟でやれだとさ……そのために秘密兵器が投入されるって聞くぞ」

「秘密兵器?重火器は勘弁してくれよ。市街戦になっちまう」

「いや、その秘密兵器ってのは……なんと人間らしいぞ」

「おいおい、戦場になるかも知れないってところに一般人かよ。犠牲者が増えるだけだろうが」

「いや、そうでもないって聞いたが。あ、作戦の詳細説明だ、聞いとけ、とりあえずでも」

部長以外、今夜が決行日だと知っている。
ダブルスパイを気取る部長ではあるが、それが誰でも知っている秘密であることは、部長しか知らない。
部長は、いわゆる世間の「スピーカーおばさん」役だ。
そのため部長から漏れた情報は仕方がない、公表しろということに(表向き)なっている。
部長が立ち会う打ち合わせは、これだけ。
後の詳細事項について部長は感知していない。
自分が現場へ行く気もないし現場の声を取り上げる気もない部長だが、犯罪者の裏をかくにはもってこいの人物だけに辞職もしないで肩書と給与にしがみつくことを許容されている。

「うっす。自分が今回手入れに同行する、クスミと言います。昔の名前から改名したんですが今はクスミが本名となってますんでクスミと呼んでください」

自己紹介された面々は、そのあまりの若さに驚く。

「どうも、このガサ入れで責任者を務める、オラン111と言う。数字の入ってない名前を聞くのは初めてなんだが、君は前職が特別だったのかね?」

興味深げに聞く捜査主任。
この星で数字の入ってない名前に改名するというのは、よほどの成果を上げるか重職を務めた人物くらいしか許されないからだ。

「あ、はい。昔は宇宙パイロットやってました。初期の跳躍航法船のテストパイロットやってましたが、とある事情で宇宙軍を辞めざるを得ない事態になってしまいまして……次の職場として国際刑事機構を選んだというわけです」

「ほう、あそこは生まれてすぐに揺り籠の代わりに重力鍛錬装置に放り込まれるって噂だが、あそこからの卒業生、それも命がけの跳躍航法船テストパイロット……とんでもない逸材が世間にいたということか」

国際刑事機構に入るには過酷な訓練を受けて全てに合格する必要があるが、宇宙軍、それも宇宙船のテストパイロットともなると、まさに生きるか死ぬかの訓練やら経験を積んできているはず……この若さで……

クスミと言う名の新人は、さっそく打ち合わせに入れという捜査官たちの声に嬉しそうに答えながらも、その輪の中に入っていくのだった。
打ち合わせとブリーフィングは順調に進み、情報共有も終わる。

「新入り、クスミとか言ったか?得意分野は?情報システムへの潜りが得意なやつが欲しかったんだがな」

中年刑事がクスミに質問する。

「まあ、情報システムへの侵入もできますけどね、宇宙軍で徹底的にやられましたんで。でも、得意分野は、と言われると、やっぱり格闘かなぁ……巨木の一本や二本は倒せますけど」

おおー、こいつは頼もしい!
と言う声が、あちこちから。
中年刑事は、

「力ばかりに頼ると、いつか、しっぺ返しを食らうぞ。憶えておけよ、勝ったと思う時が一番の弱点なんだ」

「あ、それは先生に叩き込まれました。先生と言っても、もう一人の俺、のような先生ですが。いやー、鬼というのは、ああいった人を言うんですかね?最後の一発を決めるときに隙が出来るとか、勝ったと思った時に負けるとか様々な教えを受けましたよ」

「ほぅ……素晴らしい先生に出会ったな。闘いの極意を極めている人間だろう。この俺も格闘界に詳しいところだが、寡聞にして、お前の先生のような格闘家ってのは聞いたことがないんだが」

「ええ、弟子は俺だけですから……この星じゃ……」

後で、ぼそっと呟いた一言は中年刑事には聞こえなかったようだ。
それ以降は普通に定時まで業務を行い、久々の定時退社ということで捜査班のほとんどが退庁する。
部長が定時退庁するのはもちろんだが、それ以降は各自が少グループで集まる手配になっている。

あっちの路地で数人、こっちの大通りに数人、駅からやってくる集まりもある。
散らばっていた少グループは、とある小さなビルに集まる。
ここは捜査のために別会社名義で借りているビルで突発的な犯罪や事故に関しては使わないが、通常は小規模な民間企業として雇っている社員もいたりする。
こういうことが可能なのは国を超える権限を持つからだろう。

「さて、全員、いるな。ここで準備を行い、夜半すぎに当該ビルへガサ入れを行う。小型の銃や催涙ガス、ともかくスーツに隠せるものや、アタッシュケースに入るようなものは、ここで入れていけ。新人、お前はどうする?」

指名されたクスミは、

「いえ、何も持たない武術なんで素手だけで大丈夫です。あ、バイクのヘルメットだけは被りたいですね。一応、形状は、こういうものなんですが」

取り出したヘルメットは小さなハーフサイズヘルメットと呼ばれるもの。

「あれ?お前、かなり大型のバイクに乗ってなかったか?そんな小さなヘルメットで大丈夫か?」

心配する中年刑事に向かい、クスミが、

「ああ、大丈夫です。こいつ、ある程度、大きくなるんで。ボタン一つでフルフェイスにもジェットにも、こんなハーフサイズにもなるんで」

「へー、便利になったもんだなぁ。俺の若い頃は、でっかいヘルメットが邪魔でなぁ……」

昔の話に一時、花が咲く。

「さて……時間だ。各人、用意は十分だな?行くぞ。かなり抵抗されるだろうが、構わん。死ぬ一歩手前なら大丈夫と、上からお墨付きも貰ってるんで、違法カジノ、叩き潰すぞ!」

応!
という声の元、散開して少グループごとに違法カジノのビルへ向かう。

時は夜半すぎ。
飲み屋も閉まっているところは多く、空いているのは深夜営業のバーや、色っぽいサービスが売りの違法営業スレスレの店、水で薄めに薄めた酒の一杯が数万にもなる違法ボッタクリバーなど。
3人、5人と分かれて目当てのビルへ向かう集団がいくつも見られる。

「お客さん、ここはメンバー制になってましてね。どなたかのご紹介ですか?一見さんはお断りしてるんですけど」

入店しようとすると黒服に引き止められる。
かなりゴツい肉体をしているのが服の上からでも分かるくらい……
もしかして違法な有機サイボーグかも知れない。

「お、こりゃすまんね。**商事の++部長から、ご紹介受けてね。紹介状は書いてもらったんだが……ありゃ?しまった!肝心の紹介状、忘れてきちまった。部下を引き連れてきてるんだ、ここは入れてくれないか?」

黒服は人の良さそうな中年男を、どこかの大企業の重役か何かと思ったらしい。
何処かへ連絡して上の指示を仰ぐと、

「通常はお断りするんですがね。今日は特別ということで、お通しします。次には紹介状、持って来てくださいね」

「あ、はいはい、分かってるって。お詫びに、今日は散財しちゃうからさ、部下たちにも使わせてやって頂戴な」

「分かりました……ご一行様、ご案内でーす!」

室内ヘ入ると……
ビルの1フロアがブチ抜きで、だだっ広い空間になり、そこかしこにルーレットやバカラ、カード、その他様々な賭け事の台や機器が置かれている。
庶民の払えるような金額を動かすようなケチな勝負ではないことは、あっちこっちでチェック(小切手)が乱れ飛んでいることでも分かる。
捜査チームのリーダーと課長(中年刑事が課長だった)は目配せで、もう少し現場で証拠固めを行うように動き始める。

「さあ、珍しい本場のカジノの雰囲気が味わえる店だと聞いてるぞ。みんな、あんまり入れ込みすぎて、この俺を破産させるなよ!では各自、自由に遊べ!」

総勢で15名ほどが入店して、後のメンバーは店外で待機。
クスミは?
というと入店してるグループに。

「おお、当たった!でも2倍かぁ……もう一回だ!今度は00へ来てくれよぉ!」

とか、

「うーん……役が低い……二枚チェンジ……なんとかフルハウスだったぜ。勝ったか?え、親がストレート?!ちくしょー!」

とか、叫びにも喜びと悲壮なのが混じってる。
そんなこんなで一時間ほど。
捜査リーダーと課長は程よい時間で落ち合い、またも目配せで。

「よーし!この場にいる皆さん、その場で動かないように。この違法カジノの捜査です。おっと、逃げるなよ、そこの。一般人には事情を聞くだけで帰してあげるから、ちょーっと動かないように。さて店長やマネージャー呼んできて……はぁ、やっぱ、そう来るかねぇ……捜査妨害と認め、検挙する!やれ!」

逃げようとするもの、捜査妨害を行うもの、証拠物件を破棄しようとするもの、捜査員に歯向かうもの……
あっちこっちでドタンバタンと殴り合いやら喧嘩やら、始まる。

黒服の一人が騒ぎに気づき、店に入ると捜査員を羽交い締めにかかる。
捜査員たちは慣れたもの、肩をハズしてするりと抜け出し、一瞬にして肩をはめると黒服の顎先端を軽くアッパー。
体は鍛えられても脳が揺れるのは無理、黒服はストンと力が抜けるように倒れる。

自暴自棄になったか店の従業員である女性を人質に逃走を図ろうとするやつも出る。
その時、どこから来たのか分からぬような動きでクスミが女性を救い、背中に回す、

「てめぇ、かっこよく女を助けたつもりか?!お前ら、こいつをやっちまえ!殺しても構わんぞ、5年くらいで出られるように弁護士の先生に依頼してやるからな!」

この店の実質的な責任者だろう男(スーツの腕から入れ墨が見えている。こりゃ、結構、暴力団体でも上の階級だ)が、そう吠える。
上納金が、この店だけで出せるくらいに儲かっていたのだろう、その店に手入れが入ってしまい頭に血が上ったようだ。

「ははは、笑わせるね、人間の屑が何か唸ってる。あんたも暴力団体で出世したんなら人質なんて取らずに自分だけの力で逃げりゃ良かったのにね……この俺と出会ったからにゃ、もう逃げられんよ」

「何言ってるんだ、このガキ?もういい、やっちまえ!」

「転身、Go!」

ハーフヘルメット状からフルフェイス状になったと思うと、そこから瞬時に超重合物質が流れ出し、クスミの肉体を覆う。

「こうなれば後は一方的にならざるを得なくなるが……最後の降伏勧告だ。気絶以上になりたくなきゃ、ここで持ち物捨てて降伏しろ」

「こいつ、何だこの奇妙な衣装?頭のイカレたコスプレ野郎が混ざってたようだな、野郎ども、行け!」

後は向かってくるチンピラ共を、ナイフを指で千切り捨て、短刀はへし折り、長ドスは白刃取り!
金属バットは最初、相手の殴るに任せ、相手の手がしびれた時にバットごと手足を蹴り折る。
超重合物質の鎧は金属バットや刀くらいじゃ傷もつかない。
ちなみにクスミに殴られ蹴られると、それだけで手足の骨折は免れない。
当然だ、ヘルメットの重量は実は1t以上あり、その慣性は止められない。
相手にしてみれば鉄骨の大きなもので殴られるとか蹴られるに等しい。

「お、おめぇの強いのは分かった……ものは相談だがウチの組に入らねぇか?おめぇなら幹部も夢じゃねぇ……ぐぇ!」

いかにも汚い言葉を汚い奴から聞いたとばかり、触れたくもないとばかりにクスミはカジノの責任者だろう男にデコピンをかます。
男は、その一発で気絶して、その場に崩れ落ちる。

さてとクスミが辺りを見回すと、もう捜査員以外ではクスミの庇った女性以外、立っているものもいない。
逃亡しようと図った者達も数人いたらしいが、外で待機していた班が全て確保していた。

「さて……クスミ、お前は恐ろしいほど強いな。それに加えて、この変身……どうなってるんだ?」

「ああ、課長。今、解除します……Go!転身……」

「元に戻ったか。そのヘルメットが大元の変身ギアか。見せてもらって良いかな?」

「お見せするだけなら。ただし、俺の手を離れると、こいつの元の重さ、1t以上の重量に戻りますんでお渡しは不可能ですね」

「そりゃ危険物だろうがよ!はぁ……厄介なやつが入ってきたもんだなぁ……」

ドタバタの違法カジノ手入れの件から数日後。

「クスミ、一つ聞きたい。何処で、こんな代物を手に入れた?転身?だったか、あんなことが可能になるようなガジェットなんて、この世のものとは思えんのだが」

中年刑事、捜査課長が新人として配置されてきたクスミに聞いている。
ちなみに今、クスミはヘルメットを持っていない。
クスミが被る時には問題ないが、それ以外には専用の収納庫に入れておかないと、部屋の床や、更には建物の基礎部分に損害が出る可能性が非常に高くなるから。

「課長、分かりますか……って、まあ、あんなものが世の中に出回るはずないですよね。実は……ちょっと、こんな対盗聴策も取られていない部屋で話せることじゃないんですが」

ということで取調室の一つ、盗聴器やミラーガラス等の一切無い、完全な秘密会議を開催できるような部屋に二人はいる。

「この部屋なら、どんな衝撃的な秘密でも俺とお前以外に聞くものはない。さあ、話してくれ。直属の上司としては部下にトップシークレットなんてものを抱え込もせたままで任務など与えられん」

「よろしいでしょう……課長。ずいぶん前のことになります、俺が宇宙パイロット訓練所から初めての任務で超空間跳躍航法のテスト機を、この星最初の人間として跳ばすことになる時点から話しましょう……」

長い話だったが聞いている課長の顔色は赤くなったり青くなったり。
如何に衝撃的な話だったか想像できるというものだ。

「……そうか……その、惑星規模宇宙船に衛星規模宇宙船が3隻合体している、想像すら追いつかない超大型宇宙船のマスター……船長と言うよりマスターだな、これは……から、お前とマスタークスミとが同一人物だと告げられて様々な情報を教育機械とやらで詰め込まれ、お前だけが専用の名前を与えられて自我が芽生えたと……でもって、その超大型宇宙船ガルガンチュアが、この銀河を去る前に、お前に、この銀河すら違う星の超古代遺物であるヘルメットと、それに付随するガジェットを貰ったと……って!何なんだよ、それ。実物の転身を見てなかったら、とてもじゃないが誇大妄想狂のタワゴトだと一喝するところだんだがなぁ……お前の言ってることには真実味があるし完全な嘘をついているような身体的反応もない。じゃあ、これは真実かと言うと聞かされた俺自身ですら未だに信じられないんだよなぁ、これが」

課長の独白に、

「課長、到底、信じられないかも知れませんが、全て本当のことですよ。だいたい、超重合物質なんて代物、発見されたってニュースすら無いじゃないですか。ヘルメット大で1t超える重さの物質なんてものが他にあるとでも?」

「そうなんだよなぁ……あり得ないものを、ありえない状況で、あり得ない存在から貰ったという人物が俺の目の前にいるわけだ。で?お前にそれを譲ったマスタークスミとやら、どんな条件を付けたんだ?無償・無条件で、そんなものをポイとくれる存在なんて、それこそあり得ないだろう」

その質問に少し恥ずかしそうに答えるクスミ。

「まあ、無料・無条件に近かったんですが……マスタークスミの性格として生命体を殺傷しないように使うくらいですかね?あ、これは犯罪者を除いてということでしょうが。マスタークスミは、こんなガジェット使わなくても自身の超能力、サイコキネシスがもう宇宙規模の天災レベルでしてね。念ずるだけで星が一個、砕けると言ってたな……」

それを聞いた課長は、はぁと溜息を吐く。

「オリジナルのマスタークスミは、このガジェットの上を行く力を持つのか……それって、もう神のレベルじゃないか?なんで、そんな存在が、いちいち銀河単位とはいえ、ちまちまと宇宙を渡り歩いて平和と安全なんて与えまくってるんだろうな?もう、神になったほうが手っ取り早いだろうに」

「さぁ?マスタークスミから聞いた限りでは生身の体だからこそ成し得ることもあるという話でしたが。まあ宇宙船自体も超銀河団すら渡れる能力を持つらしいので、もう生命体として最高ランクくらいの能力と科学力を得てることになりますよね。それでも神になりたくない、生身の体に拘りながら宇宙を平和に、安全にしていくというのは、それも神のなせる業の一つじゃないかと俺は思うんですけど」

「まあ、そうかも知れなんなぁ……神ならぬ身には神の行動も思惑も想像すら無理だということか」

話は、そこまでとなった。
課長は、署長や、それ以上の人間に知らせようかと思ったが到底信じてもらえないということに気づき、自分の胸に収めることにした(実物を現場で見ない限り、その後の話も信じられるはずがない)
その後も課長のチームは暴力団体同士の抗争事件やら違法な貸金業(実は巨大暴力団体がバックにいた)の摘発、変わったところでは他の国の要人警護(本来は他部署の仕事だが人手が足りないと駆り出された)やらに抜群の成果を挙げることとなる。
クスミが新人として配置されてから数年で、この都市(地方都市としては大きい方)の闇は、ずいぶんと規模を縮小せざるを得なくなった。
クスミが参加する事案・事件は、すぐさま解決し、迷宮入りと思われるような事件すら、あっと驚く短期間で犯人が捕まる。

「よぉ、クスミ。あっちこっちで大活躍じゃないか。お前を捜査チームに入れたいと他の部署や警察署、はては国家警察までが派遣希望を出してきた。お前、故郷に戻ることも出来るんだぞ、今なら」

「あ、課長……じゃなかった、今は部長ですよね。前任者は小狡い小悪党でしたが今の部長は公明正大、正義のシンボルとして堂々と捜査に出てるじゃないですか」

「まぁな。前任者が酷すぎたんで今じゃ俺がメディアへの説明責任を一人で被ってる。大変なんだぞ、お前のことを秘密にするのも。突如現れる無敵の仮面ヒーローの正体は?って、どんな現場や番組でも聞かれるんだ。知らぬ存ぜぬで通しているが、そのうちバレるのは覚悟しとけよ。ああ見えてメディアの中にも腕と度胸と頭の切れるやつはいるんだから」

「あはは、いつかはバレるでしょうね。まあ、それより、この星から悪の組織を叩き潰すのが先ですが。本当にもう1人いたら30人はいると思えってのは暴力団体ですよねぇ……しつこいまでの組織力です」

と言いながら今日も2件ばかり巨大暴力団体を叩き潰しているクスミだった……
まだまだ、この星は宇宙文明に届く一歩手前で足踏みしている。
まあ、あと数十年ほどはかかるだろうが宇宙に出られる要件は揃い始めている。
跳躍航法は発見されてエネルギー問題も解決された。
あとは人々の精神の成熟度だけ。
平和な世の中が一刻も早く訪れるように、クスミは今日も闘っている。
それが、ひいては星に棲む生命体の進化を促すこととなるなどとは露ほどにも思わず。


その二「楠見太二という男」

ここは銀河系から離れ、超銀河団すら超えた彼方にある少々小さめの銀河。
ここには楠見の名を地球以外で名乗る者がいる。

「さて、今日は君らの卒業式と入社式だ。小学生の頃から、ここへ通いつつ超常能力を磨いてきた者たちも多いと思うが今日で訓練と座学は終了する。これからは現場へ飛び込むこととなるが君らは十分に現場で動けると思う。この訓練所を卒業しても、ここで憶えたことは現場で役にたつぞ。では卒業、おめでとう!」

所長として祝辞を述べているのは楠見太二。
養子とはいえ、あの楠見糺の直接教育を受けた者。
教育機械も使い、父親ほどではないが超天才とテレパスの両方の能力を持っていた。
今は楠見インダストリーズ(また会社が大きくなり、改名した)の部長待遇で、超常能力を持つ子どもたちの受け入れ先となった感のある専門学校のような訓練所の所長を任されている。
ここから旅立った子どもたちの先輩は楠見インダストリーズの災害救助部門で目覚ましい活躍をしている。
あちこちのメディアで取り上げられる活躍の模様は楠見インダストリーズの業績にも反映し、その会社名を全世界に轟かせている。

「今月は赤道付近の島々が津波被害で大変なことになっているのを解決したか。もうひよっ子段階は卒業したかな?第一期の卒業生たちは、もう宇宙デブリの掃除に励んでいると言うし……やりがいはあるなぁ、この仕事」

所長と言うより自分では小中高一貫校の校長のような気分でいる太二である。
ちなみに未だ独身……
決してモテない部類の人間ではないが、まだまだ自分が家族を持つような気分にならないので仕方がない。

「楠見、いい加減に身を固めろ。独身だからということも君を部長止まりにしてる原因だぞ。まだ遊び歩いているそうだが何が気に入らないんだ?付き合ってる女性たち、けっこう家庭的らしいじゃないか。今すぐに結婚しても良いと思うぞ、私は」

直属の上司である専務は、そう忠告と催促をしてくるが、自分自身が結婚して家庭を持つ光景が想像できないと素直に太二は答える。

「父親である前会長の楠見さんに影響受けたか?しかし、あの人は文字通り本当に一人でも生きていける人だったからなぁ……巨大企業の会長職にある人間が格闘界の第一人者だなんてのは後にも先にも、あの人だけだろう。楠見よ、君は普通に生きるほうが良いぞ」

専務は前会長に多大なる恩があるためか太二を自分の孫のようにかわいがってくれる。
部長になるについても専務の後押しが大きかったと周囲の評判だ(太二の実績についても部長になるにふさわしいものだったが)

「もう少し独身を楽しんでから真面目に結婚相手を考えるかな。まあ、どちらにせよ、この広い部屋は一人じゃ使い勝手が悪いよなぁ……」

以前の会長室はセキュリティの問題から今では太二の専用となっている(どうやっても他の人物に入室許可を広げることができなかった)
巨大ビルの最上階全てが今では太二専用となっているため過去に住んでいたマンションを手放して、ここが太二の居住するところとなっている。
まだまだ、この星はいくつもの国家に分かれて様々な問題で争っているが大きな紛争や戦争は無くなって久しい。
それもこれも楠見インダストリーズが全世界組織となり、災害出動の拠点化を進めたから。

「父さんがいた頃から計画は進んでたらしいけど目標が世界統一政府の樹立だもんなぁ……まだまだ遠いよな。戦争が無くなっただけでも良しとしようか」

太二は呟くが、今この瞬間にも楠見インダストリーズの頭脳集団は世界統一政府の樹立を目指した長期計画を準備し、短期目標を次々と達成している。
数十年も経たぬうち、この星は統一政府となるに違いない。
問題は、その時が早いか、それとも太二が身を固めるのが早いか、という問題だった……
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