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第三章 銀河団のトラブルバスター

第15話 宇宙の管理者、フロンティアへ試しを行う

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 これからしばらく貴方の目は貴方の身体を離れて、この不思議な物語に引きこまれていくでしょう……

「おい、フロンティア?!何なんだ、この異常な振動と、フィールド駆動でも消せない慣性を伴った衝撃は?!」

「わ、分かりません!周辺の宇宙空間に異常は認められないのです、 マスター!ただ、この宇宙船フロンティアのいる時空間が変になっているとしか考えられません!」

「何だと?おわっ!」

俺は横殴りの衝撃に吹っ飛ばされてコントロールルームの壁に、したたかに身体を打ち付けてしまう。
フィールド推進のフロンティアに、こんな馬鹿な事態が起ころうとは……
あれは、この事件の前兆だったのかも知れない……
俺は前夜に見た悪夢の事を思い出していた……

「それじゃ、当分は異常も何も起きなさそうなんで俺は寝るとするよ、フロンティア」

「はい、大丈夫です。私が船の制御とモニターは続けておりますので、マスターは、ゆっくりお休み下さい」

「プロフェッサーは?いないようだが」

「彼は彼で、このところのアンドロメダ付近の銀河集団スターマップを作成中です。当分は、これに集中するでしょう」

「あ、そうか。了解だ、じゃ、おやすみ。何かあったら知らせてくれ」

「はい、マスター」

という会話があって俺はいつものように宇宙船とは思えない寝心地のベッドで寝てたんだが……
久々に悪夢を見た。
これは夢だよな。
俺は、そう感じていた。
何もない空間……
しかし宇宙空間のような無の空間かというと、そうではない。
何もない、だだっ広い空間が俺の回りに広がっている。
そんな感じだ。
その中に俺という人間が一人だけ存在している。
俺の中の別人格が、これは完全に夢だと伝えてくるが、俺には、ただの夢だとは思えなかった。

『地球人よ。お前は、まだまだ未成熟な種族であり、個体でありながら無謀にも己の所属する宇宙を超えようとしている。お前は、その行動に値するものかどうかの試しを受けねばならぬ』

テレパシーだという事は分かる。
分かるが、これは俺よりも、ずっとテレパシーを使い慣れた存在、言うなれば俺が武道の初心者だとするなら、この存在は有段者、いや師範クラスだろう。
それほどの格の違いを感じるテレパシーである。

『ほう、儂の使う念話と、お主の使う念話の格の違いが分かるか。未熟な地球人だと思ったら少しはできる奴じゃったか。それなら、この試しも切り抜けられるじゃろう。良いか、力でねじ伏せようとするなよ、それは最悪の結論じゃぞ』

何か試練に遭うのか、俺は。
今までも力や武力に頼ろうとは思わなかったさ。
トラブルってのは根本的に解決しなきゃ、その場しのぎじゃダメなんだよ。

『ほほう、今までの道中でも武器には頼らなかったか?まあ良い、お主が起きて、しばらくしたら、お主のみ試しの世界に放り込む。そこで見事、問題を解決して見せい!さすれば、これからの旅も見守ってやろうぞ』

見守るって、あなたは神様ですか?
こっちは宇宙探検やトラブルシューティングで忙しいんですけれど……

『儂が上位者だという事は、うすうす理解しているようじゃな。儂は、お主のいた太陽系や銀河系、アンドロメダを含む銀河団の守護をしている存在じゃ。普通、あまりに存在平面が違いすぎるので、こんな事は滅多に無いんじゃぞ』

ふむふむ、銀河団の守護者ですか。
いわゆる「宇宙の卵の管理者」ですね?

『鋭いの。そう考えてもらって構わぬよ』

それで、その守護者あるいは管理者が何故に私ごとき存在に「試し」など与えます?
私は宇宙船フロンティアで宇宙を旅してるだけの存在ですよ?

『いや、その宇宙船フロンティアが問題なんじゃよ。その宇宙船は銀河団空間の調査用に作られておるじゃろう?儂の管理する銀河団から出る事のできる存在というのは実は特別なものになる』

はい?
あなたは管理するだけじゃなくて規制もするんですか?

『普通の宇宙船が銀河団から飛び出るような性能を持つと思うかね?そんな性能を持つ宇宙船を造れる文明など、ほんの僅かな数しか無いぞ』

まあ、そりゃそうですよね。
理解は出来ます。
ということは自分の所属する銀河団を飛び出るような存在は、あなたと同等の存在となる、ということでもあるんですか?

『お主、本当に、あの未開で未熟な地球人か?とてつもなく頭が切れるのぅ。ま、ぶっちゃけ、そういう事じゃ。儂の管轄を飛び出すということは儂と同等の思考存在と認めるという事と同じ。じゃから、その前に銀河団を飛び出す資格があるかどうか試させてもらう。そういうことじゃ』

理解出来ます。
凶暴な性格や侵略者として銀河団を超えるものが出てきたら、それこそ「宇宙の迷惑」ですからね。

『飲み込み早いんで、こちらも楽じゃ。では、お主が起きて数時間後、試しに入るぞ。覚悟しておけよ』

ガバッと飛び起きたのが数時間前。
嫌な夢を見たと、その時には思ったんだが、あれ夢じゃなかったんだな。
正夢だった……

全面モニタ表示に変化が起きる。
宇宙が絞りこまれているような、そんな渦巻き状の模様が見える。
ブラックホールではないのが救いだが、それの中心にフロンティアは吸い込まれていく。
嘘だろ? 
フロンティアほどのエネルギーがあっても抵抗できないのか?! 
中心部へ接近すると、その衝撃で俺は気を失ってしまった。
船は、どんどん近づいて……
消えてしまった……

ここ、どこだ?
俺は不思議な感覚をおぼえていた。
何か見たことのあるような無いような、それでいて本能の奥底に訴えかけてくるような……

『試しはリーダーであり船の主である、お主だけじゃ。良いか、力で解決しようとするのは愚の骨頂じゃ。それを忘れるなよ』

夢で聞いた声だな。
やっぱり、あれは普通の夢じゃなかったか。
俺は自分の周辺を確認する。
草原というか原っぱというか。
ぐるっと見渡しても人影が見えない。
しかし、俺は感じ取っていた。
あちこちに人の気配と思考がある。
上手く隠してるつもりだろうが、テレパスでサイキッカーの俺にはお見通しだ。
殺気が、ぐぐっと膨らむ。
仕掛けてくるな……
と感じた瞬間!

「!!!」

声にならない程の小さい叫びで隠れている全てが苦痛を示す。
暴力はいけないと言われているが、襲われるのが分かっているのに抵抗しないのはバカと自殺志願者だけだろう。
隠れている地面の小石をサイコキネシスで浮かせ、弁慶の泣き所にぶつけてやったのだ。
痛みでこらえ切れなくなったか数人が飛び出てきた。
スネの一番痛さを感じるところに、こぶしより少し小さな石をぶつけてやったら無理もないか。

「こやつ、何か妖しげな術を使うぞ!」

「何者?!ここいらじゃ見たこともない恰好しとる!」

「ともかく捕らまえろ!まずは捕らまえて、お館様の所へ連れて行くのじゃ!」

はい?
お館様?
俺は、お館様と呼ばれる人間を知っている。
子供の頃、昔の歴史ということで習った憶えがある。
しかし、まさか?
言葉も俺からすれば古めかしい言葉遣いだ。
こうやって文章に直すと平板だが、かなり訛りも入っている。
それにしても不可解だ。
宇宙における定数、いわゆる時間定数は過去へ行くことを不可能としている。
今までの例外は球状生命体の祖先たちだけだろう。
俺の予想が当たっているなら、ここは俺の種族、いわゆる「日本人」が大昔に戦い合って領地を奪い合い、日本を征服して統一しようとしていた頃の日本列島だ……
それにしても、お館様が何処の誰かによって対応は変わるな。
激動の一生を送った奴でないことを祈るだけだが……
ここまで考えた俺は抵抗せず大人しく捕まることにした。
捕らえろというからには殺されることもあるまい。
まあ、殺そうとしてきたって武田騎馬軍団くらいでは俺は殺せないけど。
俺は両手を上げて抵抗の意思のないことを告げる。

「俺はお前たちに抵抗するつもりはない。さっさと、お館様という人のところへ連れて行け。俺は、その人に会わねばならんのだ」

俺の宣言にも関わらず簀巻き状態にされ戸板に乗せられ、とある豪奢な武家の家に連れてこられる。
ちなみに所持品も検査されたが、服は宇宙服仕様で頑丈だし所持品も別に無かったため、そのままの格好だ。

「親方ぁ!あやしい奴をひっ捕らえてめーりやした。こいつが、お館様に会わせろっつーんで簀巻きにして身動きできんようにして持ってきやした!」

さて、誰が出てくるのかいな、と。
しばらく待っていると、こりゃまた貧相な小男が出てきた。
あれ? 
こいつの顔、見た記憶があるぞ? 

「こりゃ、おめーら。せっかく殿様が奥方とえーかんじになっとるのに庭先をさわがせたら、だちかんぞ!御勘気に触れたら切り捨てられるぞ、こりゃ!」

あ、思い出した。

「木下藤吉郎殿ではないかな?」

興味が出たので聞いてみた。
小男のおどろいた顔、いやー、あれは見ものだった。

「わしなんぞ、殿づけせんでもええぎゃ。お前さん、見たところ間者ではなさそうだの。そんな目立つ服装の間者なんぞ、わしゃ見たことねーわ」

さもあらん、宇宙服だからね、これ。
地上で着てたら目立つ目立つ!

「ということは、この屋敷は織田信長公のお屋敷で間違いないかな?」

「そうだぎゃ、織田の殿様の家だぎゃ。おめーさん、どこかの国の使者かの?朝鮮?明?」

こんなおかしな格好しているのは外国人だろうってか? 
まあ大昔の常識じゃ、こうなるか。

「いいや、俺は日本人だ。こんな格好にも理由がある。まあ話したところで分かってもらえるとは思えないほど奇妙な理由だが」

「ほぉー、まあ、しゃべり方も、どことなく関東訛りが感じられるが、まあ異国人よりはまともな言葉遣いだな。おい下人達。この方の縄、ほどいてやれ。あやしい格好はしとるが間諜ではねーじゃろ」

ということで俺は簀巻き状態から開放されて木下藤吉郎に案内され、お館様、つまり織田信長のもとにお目見えする事となる。
さて、これから先、宇宙の管理者は俺に何をさせたいのだろうか?
間違えてしまえば俺達の銀河系を含む銀河団内部でしか調査・探検は許されないんだよな、これ。

俺が、この世界に跳ばされてから3ヶ月が過ぎた。
何故か分からんが初対面で信長に気に入られた俺は本名を名乗ることも出来ず「天界」と名乗る僧だと言っておいた。
(この時代、頭を剃らなくても僧になってる奴はいっぱいいたから心配ない)
とんでもない事を言われた。
俺は勘気に走りやすい信長を、何故か初対面から気のあった藤吉郎と一緒になって鎮め、激情を抑えなくては天下は取れぬと信長の突っ走りを抑える役目となった。

「木下殿、今日もお館様は怒りに任せて、戦場で退いた将を罵倒の上で追放なされようとした。あの時の木下殿は素晴らしかったぞ!身を挺して将をかばい、お館様の間違いを正された」

「なに、それを言うなら天界殿のほうが上じゃ。儂の身一つじゃ、殿のご勘気は止めようがない。不思議な法術で殿の動きを封じ込めて、その上で理路整然と道理をとく。あの殿に向かって、それができるのは天界殿くらいのものじゃ」

わっはっは! 

と共に笑う凸凹コンビである(ちなみに俺の身長は195cm、俺の生まれたあの時代の地球人の平均身長である。小男の木下藤吉郎とは、いいコンビだ)
何度も戦へ連れて行かれ、参謀のような役目も負わされた。
俺は未来の戦術を使い、この時代からは魔術か魔法のようにみえるだろう敵味方共に損害無しという戦い方で何度も勝利をもぎ取った。
(その影には情報解析専門集団の存在がある。俺は信長に上奏し、地元の忍者や知恵者を大量に得て情報戦の専門集団を創り上げた)
信長の配下の将達からは最初こそ、

「臆病者集団」

だとか、

「刀も槍も鉄砲すら使わずに地図の上だけで勝敗が決まるものか!」

とか言われたが初戦で圧倒的優位を見せつけて無血開城と全面降伏を勝ち取ると、もう何も言われなくなった。
今のところ打つ手打つ手が怖いくらいに決まっていく。
まあ俺も戦国時代には一時期ハマってしまい、この戦は、こうすれば簡単に勝てただろうとかシミュレーションはいっぱいやったからな。
この時代に情報が戦いの勝利を得る一番のものだと気付いている奴が、どれだけいるか知らないが、まだまだ猪武者が大多数の時代だから大々的に、この情報解析集団が公にならぬ限りは勝ち続けるだろう。
まあ、そのおかげで世間の噂では、

「織田信長殿は得体の知れぬ法術を使う僧を得て、破竹の快進撃を続けているそうな」

とか、

「天界とかいう邪教の僧が信長様に魔王の力を与えて戦という戦に全て勝てるようなったそうじゃ」

とか、とんでもない噂が飛び交っていた。
本人が、たまたま変装して城下の楽市楽座になっている町へ繰り出して情報収集してた時、実際に、この耳で聞いた話だから間違いない。
いい迷惑だ、本当に。

「のう天界よ、そなた、それほど頭が切れるのなら、この儂に取って代わりたいとは思わんのか?」

信長本人から単刀直入に聞かれたことがある。
その時の俺の返事、

「いえ、全くありませぬ。我が身は、この世界に試しとして送られし故に、この世は我が身にとって幻なれば」

「ほう、この世が幻とな。儂が好む舞に、そのような一節があるが、そちにとって、この世とは夢幻のごときものか?」

「はい、我が身はもともと、この世より、はるか遠き時・空にありました。そこより、神とも呼べる者により、この世に送られて来たものであります故」

「おもしろき奴よの。そなたと話しておると、この世で戦ばかりしておるこの身が、あほらしゅうなるわ」

「はい、この世は殺し殺される阿修羅の世で有ります故に。我が身があったのは戦ではなく人々の助け合いと信じ合いの世界でありました。 軍も刀ではなく人を助ける道具を持って災難から人々を救うものでありました」

「はっはっはっは!そちの話、いつ聞いても面白き事ばかりじゃ。水の上も中も自由に動けるカラクリとか地を馬よりも素早くかけるカラクリ、空を飛ぶカラクリ、果ては、この世から飛び出せる、宇宙というか?それすらも自由に飛べるカラクリ……ああ、儂も、そんな世に生まれたかったのぅ」

「恐れながら上様には、この日の本を統一する役目がございます。それを果たす直前で上様は討たれます。しかし、我が身がこの世に送られたからには、その運命、どうあっても変えてみせます。今、そう確信しました」

「うむ、そちの働き、あっぱれである。そのうちサルともども一国一城をくれてやろうぞ」

「あ、いえ、それはご勘弁を。この身は、この世にて仮の身故、いつ本来の世界に戻るか知れませぬ。褒美なら他の方へお願い申し上げます」

「そちは、いつもそうじゃの。もっと誇っていいものを、全く誇らず奢らず褒美すら遠慮する。あのサルとは大違いじゃ」

「いえ、木下殿は、この世の方。現世利益を求めても当然。他の方も同様です。上様も、ご同様でしょう」

「そうじゃな、まったくそうじゃ。そなたが、この世に未練がなさすぎるんじゃな。一つだけ問うが、そのように生きていて楽しいか?」

「我が身の楽しみは、この世に有りませぬ。元の世界に戻れば気心の知れた仲間と、まだ見ぬ世界、宇宙が待っています故、そちらの方の期待が勝っております」

「ふーむ、そちの楽しみというやつ、儂も一度で良いから見てみたいものじゃ。この世と全く違った世、惑星とか星系とか言うたか?そこに生きる、人とは違う生き物が町を作り国を作って生きている……これこそ夢じゃの」

「はい、その面白さは残念ながら日の本とは比べ物になりませぬ。あ、これは言い過ぎでしたか」

「全くじゃ、そちの楽しみが儂には分からんし、そちの世に行くことも出来ぬとは。2つの世を渡り歩くなど、そちは贅沢極まりないぞ!羨ましい奴め!」

はははははは!
俺と信長は大笑いしていた。
その後も俺達は勝ち続け、京へ上らずに東海地方を平定、次は北陸、上がって東北から北海道、下って、上りと合流して関東制圧。
関東以北を平定した俺達は関西へ。

ここでも京都は避けて他の国々を征服し、京都を孤立させてから中国・四国。
あとは最も厄介な九州。
情報収集にやたらめったら時間がかかったが(特に薩摩)最終的には無血開城と全面降伏を達成! 
ここに京を除く全てが織田信長のものとなった(戦いは最小限しか許可してない。自軍に負傷者若干名、敵に軽傷者数千名は出たが死者は最後まで出なかった)
信長は堂々と騎馬・歩兵・足軽鉄砲隊を引き連れて京へと入っていった……

後は、ご想像通り。
征夷大将軍の位を足利氏から禅譲させ、ついでに遷都ということで那古野に皇居を持ってきて政治と宗教の中心を京から那古野へ移す。
遷都して天皇家の回りの汚いお歯黒貴族たちを追い払ったのち、天皇家を「日本の象徴」として儀礼と認可のみのものとする。
これで薄汚い詔勅や天皇発行の書類などは、ただの紙切れと化す。
長年、天皇家に吸い付いて甘い汁を吸ってきた貴族家など、これを幸いと全部潰す!
信長の天下となったところで本来は安土城だったはずのものを権威の象徴ということで那古野に建設!
未来にも残る大那古野城が実現する。

ふう……
こんなもんか?
これ以上やるなら織田幕府の足固めまでやることになるぞ?

『お主、やるのぅ。ここまで死人を作らない歴史改変は初めてじゃ。よろしい、認めてやろう。儂と同じ精神的存在ということで、この銀河団から飛び出ることを許そう』

おっ?!
久々に、この声が来た!
そうか、もう終わりか……
じゃあ、信長へ最後のお別れしてくるから待ってて欲しい。

「上様、天界でございます。ご挨拶に参りました」

「よぉ!天界。また何か役に立つ物の提案か?お主の言うものは全てが余人には思いつけぬものばかりだからな、助かるぞ」

「あ、いえ、今日は最後のお別れに参りました」

「何?最後のお別れじゃと?外国から引き抜きでも来たか?それとも全く別の組織か?」

「いえいえ、そうでは有りませぬ。上様、信長様、今まで本当にお世話になりました。たった今、我が身が元いた世界に帰ることとなりましたゆえに、お別れを申し上げにまいりました」

「何っ!?ものども、であえ……と言っても無理なんじゃったな。そちの元々の世界は、さぞかし愉快で面白きことに満ちているのであろうなぁ……一緒に行けぬのが口惜しい」

「上様、事ここに至って何を申されますやら。日の本が平和になったのも1つになったのも全て上様あったればこそです。これからは上様と羽柴様が、この平和な日の本を導いていくのですぞ」

「それでもなぁ天界よ。もう少し、いましばらく、こっちにいてくれんかの?サルのやつも寂しがるじゃろうに」

「羽柴様には、よろしくお伝え下さい。世間には天界は位も衣も捨てて放浪の旅に出たと言っておくのが良いかと。では、おさらばです。宇宙の管理者!何時でもいいぞ!」

『よろしい。では戻す』

気がつけば俺はいつもの格好で宇宙船フロンティアにいた。
戻ってきた!
ついにフロンティアへ戻ってきたぞ!

「マスター、何をニタニタしてるんですか?そういえば数分間、マスターの姿が消えてたような記録があるんですが何ですか?この欠落情報は」

え?
俺が別の世界へ跳ばされて数年間も血を吐くような苦労をしてきたってのに……
あれが数分間の消失事故だとぉ?!

「フロンティア、実はな……」

俺の体験した妙な事件を詳細に話す。
するとフロンティアが微妙な表情をする。
こんな表情、俺も見た記憶がない。
苦渋に満ちたような、懐古の念のような、それでいて、ちょっとしたミスをした事を悔いているような……

「は、すいません、マスター。ちょっとサブ回路に情報が流れこみすぎて動作不全状態に陥っておりました。もう大丈夫です」

「おい、フロンティア。お前は超高性能とは言えロボットだ。しかし超高性能なゆえに引き起こされる厄介な事態もある。辛かったら俺に話せよ」

「はい、マスター。今はちょっと……しかし、いつかはお話しますので、お待ちください。それを話すときには少なくとも私の船体が完全に復旧した後になるでしょうが……」

ま、今はこれで良いか。
俺達は、また別の銀河へと近づいていった……

ここで時空間を戻り、天界という僧がいなくなった後の大日本国(織田幕府が誕生し 国内の争いも平定されて落ち着いた後、織田信満つまり信長の息子が日の本と呼ばれていた国名を大日本と改めさせる)は、どうなったか? 

を、しばらくは語るとしよう。

「上様!儂だけ天界殿と最後の話を出来なかったのは上様が儂を嫌っておったからではにゃーですか?」

「落ち着け、サル。天界は、自分は、いつ元の世界に戻されても良いように、こちらに未練を残すようなものを作りたくなかったのじゃろうな。あやつが貴様のように褒美や位、女で釣れるようなら、とっくに儂が引き止めておったわ」

「はあ、それにしても天界殿、儂にも何もいわんと帰ってしまうとはのぅ……あの、刀よりも斬れると言われたお人がいなくなると織田幕府も、これからどうなることやら」

「おい、サル。もういっぺん言うてみぃ。その口、ねじ切ってやろうか?」

「そ、そのように、すぐ怒りを覚える上様を止められるのは儂と天界殿、いや、怒りが頂点にまで達した上様を抑えられるのは、やはり天界殿しかおらんでしょうが!ああ、これからどうしたら……」

「やかましい!うじうじ泣いておっても天界は、もう戻らん!あの天才軍師無しで、いやがおうでも儂らは、この日の本を動かしていかねばならんのじゃ!サル、湯漬けを持てぃ!御前会議を開催する!」

「おっ?!それでこそ上様じゃ!はいはい、すぐにお持ちいたしまする。誰ぞ、誰ぞある!上様には湯漬けを所望じゃ!それから御前会議じゃー!」

頭脳で抑えていた人間がいなくなったので、はっちゃけ気味ではあるが彼らは彼らで、この日の本を真面目に舵取りしていくつもりであった……

「外務大臣、外国の動きは、どうなっておるか?」

「はっ。情報省の発表によりますると戦いよりも科学技術で他を先駆けようとする動きが全世界で出ています」

「そうか。では、あの計画、速めねばなるまいな」

将軍となった信長、官僚組織も今はなき天界の素案から幕府と各藩ではなく都道府県として地域や所領を改変し、小国として大名を配置するのではなく民衆から選ばれた知事を、そこの地域の統領として配置するという前代未聞のことをやった。
当然、旧大名や武士階級から猛烈な反対の声が上がるが信長は一喝で黙らせる。

「もう日の本は統一されたのじゃから大名も武士も不要じゃろ?刀も全て取り上げる。民衆の力は武士など必要としていない。今、必要なのは技術者と発明家、そして商人と農民じゃ。威張り散らして働かぬ武士など飢えて死ね!」

もう、やりたい放題、言い放題である。
しかし、それだけの実績と実力があるので誰も文句は言えない。
一時期、関東の家康が不満勢力を結集して信長に反旗を翻そうとしたが実行まで行かずに潰された。
影で動く情報戦組織の力である。
結局、家康は蟄居閉門を申し付けられ無期限の幽閉状態。
薩摩も独自に反政府勢力を立ち上げようとしたが、これは民間からの内部告発により瓦解。
首謀者は身分剥奪の上、佐渡へ流される。
10年で赦免されたが、その時にはもう武士の世は無くなっていたという……

官僚組織が一変され全て民間からの登用という、この時代では前代未聞の組織改編が実行された後は内務と外務。
内務では米作に機械が導入され一気に米の作付けが倍となる。
蒸気機関が外国から概念として入ってきたが技術者と発明家集団により3年後には試作機、5年で集団手工業生産体制が整うまでになった。
そして内燃機関が発明されたのは外国と大日本国、ほとんど同時。

大日本の場合、天界という未来人がいたゆえに内燃機関の発達も素早く、ディーゼルやターボ技術、リーンバーン技術も次々と現実化していく。
そして近代的な大量生産体制も確立した大日本は、ここで世界が驚く手を打つ。
飛行機すら、まだ現実的ではないと言われている時代に大日本は宇宙へ乗り出す。
具体的に言うと人工衛星の実現化。
未来の技術は、こうなるよという天界の残した文言集を編纂したものがあるが故に大日本は宇宙空間へ乗り出していく。
まずはコンピュータの実現。
集積回路などという概念すらない時代に天界は大規模集積回路という、顕微鏡でも見えない細くて小さい回路の集まりという概念を書き記していた。
それにより、その実現化を目指して大日本中の技術者と発明家が集まり、知恵を出しあう。
日本人という、

「天才は出現しにくいが、秀才は温泉の泡ほど出現する」

という国家にとり、この未来人からの予言集は国家発展に見事にマッチした。
まず簡単な四則演算のできる計算機(畳一畳分)が開発され、それを小さく高性能化していく。
ものの10年経たぬうちに初期コンピュータが完成する(その過程でマイクロサイズのトランジスタの技術も発展した)
ビジネス用トラベルバッグサイズで弾道計算が可能なコンピュータが生まれるのは、それから数年後だった。

この頃には、もうロケット技術も安定してきており大気圏突破と再突入は充分に信頼できるものになっていた。
大日本の場合、他の各国とは少し変わっていて自動化技術とロボット技術が特に注目、開発されていた。
ロケットにも初期の段階から人間は乗せず自動機械あるいはロボットが搭乗し、的確な任務をこなせるように着々と性能を上げていく。
衛星を地球の回りにバラ撒くと、日本は衛星の性能を公開した。
一個の衛星だけではダメだが2個3個と使うとGPS(地上位置測定システム)が出来上がるということも公表し、加えて衛星の超高度からの写真撮影機能も公開する。
一部の国家からはひと悶着あったが、性能を全て公開すると言っているため、ここだけ隠したらおかしいでしょ?
という事で大日本は開き直る(笑)

次はロボット技術を山ほど使った、スペースコロニー兼ねた宇宙ステーション建設にとりかかる大日本。
他の国が月到着を真っ先にやろうと焦っている中、着々と発電所を兼ねたスペースコロニー部分が出来上がる。
そして、それに付属するステーションモジュールの取り付け。
長さが数kmもあるスペースコロニー兼ステーションを見て各国は首を傾げる。

「どうやって維持し、機能させるのか?金の無駄遣いだろう」

という影の噂も大日本は無視する。
それからの大日本国。
なぜかインド沖にあるセイロン島を政府開発援助金の名目で買い取る。
(巨額の金と権利が動いたため、すわ!戦争?!と勘違いした一部国家もあったようだが 大日本そのものが武装に力を入れていないことも有り、早々に火種は消えていく)
セイロン島をまるまる買い上げた大日本は、そこで妙ちきりんな土木工事を始める。
セイロン島全体を、まるでビルを建てるときのように、いや、それよりも徹底的に掘りまくり、コンクリートと鋼鉄の島に作り変える。
ちなみに土木工事の段階で貴重なルビーやサファイヤ等の宝石が掃いて捨てるほどに出てきたが、それらは大日本の国庫に入ることになる。
ベースが出来上がると、その上にビルの巨大なる根本のような巨大なる塔の根幹部分のような物が建設されていく。
耐震性能は天界ノートによると建設完了してしまえば、そんなに気にならないとの事なので遠くから見ると、ぶっとい天に上る柱のような物が見る度に高くなっていくのが見える。
各国情報部は(その頃には大日本の情報部の力が一部に知られ、世界各国が大日本のような情報組織を作って闇社会では情報争奪戦が繰り広げられていた)困惑していた。
ただ馬鹿高い建築物を大日本は作ろうとしている。
その理由は?
いくら考えても、さっぱり。

その頃、基礎研究がようやく実を結んだダイヤより固く鋼鉄よりも粘りのある金属が開発される。
未だ実験段階に過ぎない、そのスーパー金属を、なんと大日本は大量生産させるように国家指令を出す。
更に世界各国の情報部は首をひねる。
何をやりたいのだろう、大日本は。
スーパー金属は、いくらやっても、せいぜいが糸か、それより少し太い金属繊維になるくらいで実用化できるようなものではないのに?

数年後、地上300mを超す超高層建築物となったセイロン島に大日本で開発されたスーパー金属の糸が持ち込まれる。
直径1cmにも満たないが、これ一本で数tもの重さに耐える超高性能の金属糸だ。
タワーというよりも超高層ビルに似た建築物の最上階に持ち込まれたスーパー金属糸はロールに巻かれている。
一本が数kmあるロールだ。
それが数10本。
さすがの大日本国の誇る産業技術も、ここまでで精一杯だった。

無線(世界各国が長波や短波無線に可能性を見出していた頃、大日本はミリ波や光波通信、果てはレーザやメーザを利用した通信すら実用化していたの)電話で、どこかと連絡を取った計画担当者は、しばらく待つ。
すると巨大な飛行船が姿を表す。
全長500mは越しているであろうヘリウムガス利用の安全な飛行船である。

しかし、この時の大日本はプロペラ飛行機どころかジェット、ロケットすら実用化して民間にも技術移転しているくらいなのに、なぜに古めかしい飛行船?
飛行船は静かに超高層建築物の上に降り、乗員が計画担当者よりスーパー金属糸を預かる。
ただし一方の端だけ。
その後、飛行船は、そのまま糸を引きながら上空高く舞い上がっていく。
成層圏近くまで上がると、そこで停止。
何かを待つ。

しばらくして天からキラキラした物が降ってくる。
スーパー金属糸だ。
だが、どこから?
糸の落とし主(もう一方の端の持ち主)は実はスペースコロニー兼ステーションである。
スペースコロニーとして建設していたが実はセイロン島と宇宙とをつなぐ点だった。
後はご想像の通り。
飛行船内で地上からと天からの糸を接着・融合し一本の長い糸にする。
そして、それを回していき、ループの輪を作る。
そこからは早かった。

そのループの輪を基準に地上とコロニーとの資材の往復をするために簡易のエレベータが作られる。
そして、それを基準に宇宙と地上とを結ぶ塔が作られていく……
計画から30年以上かかったが、これで無理な地上打ち上げタイプのロケットを作る必要はなくなった。
軌道エレベータの完成である。
数年後、軌道エレベータの安全性が確認されると大日本国は世界が驚きのあまり腰を抜かすような声明を発表する。

「セイロン島に作られた軌道エレベータはスペースコロニー兼ステーションも含めて大日本国だけのものとはしない。国家の範囲を超え地球という惑星が管理すべきものである。よって大日本国は軌道エレベータとスペースコロニー兼ステーションを全ての附属設備を含めて全国家で管理・運用するものとする。ただし自分勝手な理屈で専有しようとするもの、これを破壊しようとする意図を持つものには大日本国は容赦しない。ちなみに我が国の武装は他の国家の及ぶものではなく核兵器すら通用しないと心得よ」

つまりは他の国の方でも自由に使わせてあげますが、自分のものにしようとしたり破壊工作しようとしたら国家ぐるみで破滅させますよ!

という宣言である。
ごくごく一部のみ、この宣言に猛烈に反対したが大日本が数日後にデモンストレーションした武装のカラービデオ(映画ではない、 世界では未だにモノクロ映画だが)を見た、ごくごく一部の国家代表は両手を上げて賛成に回ったという。
数10年後、織田幕府から正式に自由国家になった大日本国。
天皇も将軍も居るが、ただの象徴扱い。
小学校から明るい声が響いてくる……

「こうして天界僧正が織田信長の元へと来たことにより大日本は戦乱から解き放たれたのでした。その後、天界僧正は信長の元を離れ、様々な奇跡を各地で行いながら人々を癒やし戦いや争いを無くし、大日本、いえ地球を今のような宇宙国家にする大計画を残し、元いた天界へと旅立たれたのでした。マル!」

数100年も経てば現実も伝説となり伝説は神話となる。
今日も宇宙は平和である。
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