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狼が参上!

不幸ヤンキー、”狼”に定められる。【5】

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「失礼しま~す」
 約束の時間に哉太と撫子は社長室へと入室する。
 ―すると出迎えたのは高級なスーツを身に纏ってはいるが…スーツが浮いてしまうほど金髪に染められている髪の人間であった。その人間は言い方は悪いが品の無い笑みを浮かべて2人に向けて言い放つ。
 …なんか嫌な奴~。
 内心で哉太はそう思ってしまうほど、金髪の男は歯の浮いた笑みを見せていた。
「あぁ、田中先生に撫子さんやな~。まぁまぁ、席に着いてくれや」
「あ…はい」
「失礼しますね~」
 ソファに哉太とうやうやしく礼をする撫子が座る。するとスーツを身に纏った別の男が紅茶を淹れてくれた。香り立つフランボワーズの香りに包まれて男は2人に再度挨拶をする。
「初めましてやな。ワイは数珠 玉緒って言うねん」
「こちらこそ初めましてですな~。私、田中 皐月の担当編集の撫子と申します~! 以後、お見知りおきを!」
「ははっ、元気な兄さんやな~。そこの眼鏡の兄さんとは違って」
 ムカつく言い方をされた人嫌いの哉太は無言を貫こうと紅茶を一口含んだ。
 ―――ブッフッ!??
「げっほ、げっほ…!!」
「…場磁石? 平気かお前?」
 すると哉太は吹き出していたのだ。その反応に撫子は驚き、そして玉緒はゲラゲラと笑っていた。そして笑いながらタネ明かしをするのだ。
「あっははははっ!!! こりゃあ名作や、傑作や!! …”狼”でいっちゃあ強い男に紅茶飲ましてな~?」
 すると哉太は目をぎらつかせ、睨みつける。すると男は…玉緒はひとしきり笑い終えてからこのような言い方をするのだ。
「はは。今回はで良かったな~? …だったらたとえ最強だと謳われている”狼”さんでもひとたまりもないで?」
「…あんたさ、俺は喧嘩ならいつでも買うけれど」
「まぁまぁ、今回は挨拶や。嫌やろ? 駆け出しのベストセラー作家が規模は小さいものの、若社長をぶっ飛ばした挙句…傷害罪で牢屋にぶち込まれるのは?」
 含むような笑みを見せて言い放つ玉緒に哉太は舌打ちを打った。その様子を撫子は珍しく冷静になって見ている。…沈黙が続くかと思われた。
「あ~、そういえば言うのを忘れていたわ~。ワイも”狼”なんや」
「…は?」
 すると突然玉緒はスーツを脱ぎ、ネクタイを取ってからシャツのボタンを外したのだ。…そして現れたのは右肩に大きな”狼”が入った入れ墨に2人は驚く。
「”狼”の入れ墨…、ふ~ん。じゃあ何かの能力者ってことね~」
「言うとつまらないから言わないでおくわ~。あぁ大丈夫やで、お宅は有名やさかい。知っとるから」
「…そう」
 侮蔑をする哉太を見てから玉緒は再びシャツに袖を通し再度服を着始める。そしてネクタイを締めてから玉緒は宣言をする。
「あんたがその気になればワイは簡単に仏さん…いや、地獄行きやろな~。…でもこれだけは言えるで」
「……何を言えるって言うの。俺に喧嘩吹っ掛けておいて?」
 すると玉緒はまた含んだように笑って言い放ったのだ。
「そうやなぁ~、まぁ、覚えておいて欲しいっていうこちゃ」
 ―弱者も強者を狙っている。背後から狙っているってことをな?
「…ふ~ん。それ言いたくて俺に挨拶してくれたんだ」
「まぁ、今回は軽い挨拶や。…”狼争い”はまだやからな?」
 そして優雅に紅茶を含む玉緒に哉太は持っていたカップを地面にわざと捨てた。
 ―――カシャッーン!
「おい、場磁石! なにお前は―」
「撫子、帰ろ。こんな俺を殺そうと企んでいる奴にはこの仕打ちで十分だよ。…あぁごめんね~。そのカップ、1個で2~3万円の値打ちかな。テーマパークの社長さんには値打ちだね」
 さらりと酷い言葉を吐く哉太に玉緒は目をぎらつかせた。だがそれでも哉太は言葉を続ける。
「さっきの発言に対しての俺なりの回答だけれどさ~、気づかせてくれてどうも。…でも」
 ―俺には俺の強さがあるから。
 そして両者睨みあったかと思えば、玉緒は少し笑って座っているソファに身を預けた。そして一言発する。
「そっか、…ならええんや」
 玉緒が何かを企むような笑みを見せたのを哉太は覚えていたのだ。”狼争い”が始まる前のことであったのに。
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