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”狼”の存在意義

不幸ヤンキー、”狼”に委ねる。【2】

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太陽のまぶしさで幸が目を覚ませば自分がふかふかのベットに寝転がっていたことに少し驚く。どおりで床が痛くないわけだ。なぜなら自分はいつも薄い布団で眠っているから。
つまり自身の家ではないことが確認できる。匂いも違う。少し頭痛を感じながら軽やかな布団を剥いでみれば着替えさせられていたことも分かった。薄いガーゼのよう浴衣のような着衣に既視感を抱きながら今、置かれている自身の状況について幸は頭を抱えつつ考えてみる。
「えっと…。いつものホテル?って感じはしないな…。なんかなんもない部屋…だし?…やばい。…全然覚えてない。昨日はフライとあの紫髪の奴が喧嘩?してたのは覚えてるけど…あとは…?」
『あんたに…惚れた…から…』
「!!!!?」
自身の発言に幸の顔が一気に真っ赤になってしまった。なんて自分はあんな恥ずかしい言葉を言ってしまったのだろうと幸は羞恥と共に少し後悔をした。
(…多分、哉太さんに言ったんだよ…な?どうしよう。キモイとか思われてないかな?…あの人、一応、俺のこと好きだって言ってくれたけど…もしかしてジョーダンじゃ…?)
言ってしまったことに対しての後悔の念が強く出てしまったのは明白ではある幸ではあったが、気分を紛らわせるために、無駄に広い部屋を見まわしてみることにする。窓も大きいが部屋には洗面所が設置されていた。ビジネスホテルにでも泊まったのかと思うが少し薬品の匂いがする。そういえば腕の当たりも何かが繋がっているような感じがしたので見てみれば、長くチューブで繋がれた液体パック…おそらく点滴がされていたことにも驚く。そして点滴の横には山盛りのフルーツが置かれていたのだ。
…このような状況に幸は容量の少ない頭で考えて出したのはこの結論である。
「???もしかして、俺、病院に運ばれたのかな…?そういえば哉太さんに…、抱っこ…されてたな。…ガキじゃねぇのに。…また恥ずかしいことを思い出した。」
更に顔を赤く染めた幸ではあったが奥のドアが気になったので痛む頭を抑えながらふらりと立ち上がり、点滴を引き連れてドアらしきものを触って捻れば、そこはトイレであった。以前怪我をして病院に搬送された時よりも格段に良い病室に幸は驚きつつも一体誰がここまでしたのかを考えようとして…その張本人はドアをノックせずに現れたのである。彼は点滴をしている幸がふらついて立ち上がり部屋を見ていたことに驚きつつもすぐさま駆け寄って優しく抱き着いたのだ。
「駄目だよ!花ちゃん!!!まだ万全ではないんだから~!」
点滴のチューブを避けつつ離さないでいる哉太に幸は問い掛けてみた。
「あんたがこの豪華な病室にしてくれたのか?」
幸に抱き着いて離さない哉太に問い掛ければ彼は少し恥ずかしげな顔を見せてから笑う。
「まあ…?そうかな?俺がこの部屋にして欲しい…って頼んだケド?」
哉太の金銭面を気にしつつ幸は少し笑ってから礼をする。普段の幸であれば天邪鬼で素直ではないので思ってもみないことを言ってしまうのだが、本当に自分は記憶がないほど弱っていたので素直な気持ちになれたのだ。
「ありがとな。…俺のこと、想ってくれて。本当に助かったけど、でも良かったのに。大部屋でも俺は別に」
「それは嫌!!!ってその前に花ちゃんはベットに入らないと!…そこにフルーツあるでしょ?リンゴ剥いてあげる!お腹空いたでしょ~?昨日は花ちゃん、マジでやばかったんだから~!」
「…?そうだったのか?あんまり昨日のこと、覚えてなくて…。」
「マジか…!仕方ないな~!俺が教えてあげるから!」
哉太に連れられてベットに戻れば彼は昨日の経緯を話し出す。
「花ちゃんを病院に搬送させたんだけど、花ちゃんね~、嘔吐が酷かったのよ~。そんで衰弱してたから栄養剤入りの点滴を打って検査してさ~。そしたら驚いたよ!花ちゃんね?軽い放射線被ばく…言うなれば、悪い空気に充てられて(あてられて)たんだって~!その影響で吐いちゃったりしてたらしくてさ~。そんで少しお腹が緩くなってるかもって言われたから…すぐにトイレに行けるし、日当たりも良さそうなこの病室なら良いかなと。」
哉太の配慮に礼をしつつ自分がどこで怪我をしてしまったのかを模索するが検討もつかないでいる。
「…つまり俺は一応怪我をしてたのか。…つーかどこで充てられ?たんだろう?全然分からん。」
「覚えもない?」
「うん…。なんでこうなったのかも分からない…。」
ベットに入って考え込む幸に哉太は危なっかしい手つきでリンゴを剥いていたのだが、普段は見せない彼の一生懸命な姿に幸の顔が少し綻んだ。哉太が疑問を抱けば幸は笑ってから哉太の握っているリンゴと果物ナイフを取り上げる。
「慣れないことすんなよ?…危なっかしくて見てられないからさ。…俺が剥くから。」
器用にリンゴを剥いて哉太が用意した紙皿へと置いていく幸に哉太は少ししょげていたので今度は幸が疑問を抱いた。すると哉太はとある言葉を口にしたのである。
「…花ちゃんだけの。花ちゃんだけの特別をあげたかったの。…俺にはあんまりそういうのないから…さ。」
「???特別?…ってなんでまた?」
すると哉太はリンゴを剥き終えた幸に向けて真剣な表情を見せたのである。そして頭を下げた。
「ごめんなさい!!!俺!ある時はイケメン物理講師だったり、またある時は田中 皐月っていう超売れっ子の小説家をやっていたのを花ちゃんに言わなくて…。花ちゃんにフランクな関係でいて欲しかったから言わなかったの。…みてくれとか肩書きで見て欲しくなかった…。言わなくて、いや!言えなくてごめんなさい!!!」
自慢の入った謝罪ではあるが本人に悪気が無いのが分かるので幸は彼の熱意を少しだけ汲む。
「…お、おう。それが理由だったら…まあ…なんとも言えないけれど…。」
突然の謝罪に戸惑いを見せる幸ではあったが哉太はとんでもないことも謝罪に入れてきた。
「あとは…その。花ちゃんとその時は恋人…ではなかったけれど、匂わせておいたにも関わらず女性と致そうと…セ○クスしようとしてすみませんでした。…でも!やらなかったよ!!!というか出来なかった!!!」
「いや…別にそれは。というか朝っぱらからそんなハレンチなこと言うなよ…?まぁ、その時は悲しくはあったけど…そっか…。何事もなかったの…か。…でも、なんでやらずに?」
「それはおいて置いて!!!なんやかんやあって俺、”ED”になりかけていたんだけどね!?もう!その時はめちゃくちゃ悩んでさ~?」
”ED”という言葉に首を傾げる幸ではあるが哉太は話しを続けていく。
「でも!!花ちゃんのオ○ニー(ムマサチも)してる夢見たら、俺の息子も…ち○こも元気になったし!溜まっていた仕事も片付けられたし!!花ちゃんの元にも行けたし!良かった!という」
「すまん。それは引いたわ。…さすがに、”ダシ”にされたのは…。」
なんとなく”ED”という名称に察しがついた幸ではあるが哉太の変態発言に若干引いてしまっている。…しかし自分も哉太を想像して自慰していた時もあったので言うのはやめようというのも心に誓ったりもした。そんな幸の考えなど知らずに哉太は言葉の訂正と疑問を抱く。
「…花ちゃん。それを言うなら”おかず”ね?似てるけどね?…というか、なんで致そうとした女の話題よりそっちの方が引いてんの??!嬉しくないの???」
「…う~ん。女は仕方ないかな~って。同じ男だし付き合ってもなかったし、女の人に惹かれるのはしょうがないかなって思うし。でも、おかずは……微妙?寒気がしたくらい?」
「なにそれ!??ヒドイっ!!!」
泣く真似をする哉太に幸は少し笑ってしまう。度重なる謝罪と哉太の反応に幸は話すのが楽しくて仕方がない様子だ。少し元気も出てきた。そのことを恥ずかしいが伝えようとした時、哉太が再び真剣な眼差しで幸を見つめてきたのだ。サングラスの隙間から見える赤い瞳に自身の心臓を掴まれたような感覚を抱けば、哉太は幸の手を取って告白する。
「色々あったけど。出会いは最悪だっただろうし、傷つけてしまったけれど。それでも、俺…花ちゃんが。…幸が好き。本当に好き。遊びでもなんでもなくて。…だから幸も俺のことを好きになって?…お願い。」
普段は自信ありげで飄々としていて、でもどこか子供っぽい哉太の告白に幸は失笑してしまった。吹き出して笑う幸に哉太は怒りを見せようとするが彼は笑いながら、誠意を見せてくれた哉太に自分も誠意を見せることにしたのだ。
「ふふっっ。…いや、なんか哉太さんが必死な感じなのが凄く嬉しくて…。」
「…花ちゃん。ちょっとバカにしてるでしょ?」
「してねぇよ。…ただ、俺。さっき、思ってたんだよ。…哉太さんに告白して、2回くらい告白したけどキモかったかな~って。自分の言った言葉で哉太さんに捨てられるかもって思っちゃってさ。…俺、素直じゃないってよく言われるけど、素直になって自分が傷付くのが嫌だから…怖かったから、いつも予防線?っていうのかな?…だから意地を張っててさ。」
自分の今までの行動を顧みる幸に哉太はどこか腑に落ちたような表情を見せる。
「花ちゃん…。」
「でも、ちゃんと告白して良かった。素直になれて良かった!…これも哉太さんのおかげ。」
すると幸は傍で座っている哉太の顎にキスを落とした。哉太は自分よりも長身だから顔を上げても顎にしか出来なかったのだ。突然のアクションに目を見張る哉太に幸は恥ずかしげに呟く。
「…これが俺の答え。…俺の”コイビト”になってくれません…か?」
幸の顔が真っ赤になるのを見届けた哉太は目をぱちくりさせてから笑いだす。今度は哉太が笑いだしたので幸が怒ろうとすれば哉太の顔が近くなり、そして言葉を紡いだ。
「普通は唇でしょ?…幸?」
「…うん。」
…哉太が幸と視線を合わせ恋人としてのキスをしようとした。

「そこまでですよ。…まったく。なに朝っぱらからやってるんですか?はしたない。」
聞きなれた声に幸が驚いて仰け反れば大きなカバンを持った麗永と哉太よりもさらに大きなそばかすの男性がニヤついている。先ほどの現場を見られて顔を真っ赤に染め上げる幸と相反して舌打ちをする哉太は麗永に文句を言う。
「ちょっと~!今、すっごい!!すっっごく!!!良いとこだったんだよ?なんで入ってくんだよ?空気読めないの?」
「こっちだって忙しいんですよ。今回は被害者の彼岸花君が無事で良かったというのもありますし、一応、事情聴取でも来てるんですから。…あ。あなたに言われていた彼岸花君の着替えはこちらに持ってきましたし、今、コインランドリーで洗濯もしてますから。ご安心を。」
「ちょっと待って!洗剤やら柔軟剤は俺と同じにしてるよね?…花ちゃんが俺と同じ匂いで…その…なんか…いや…良いんじゃん?」
哉太の変態的な問いかけなどは気にせず、麗永は赤面して恥ずかしさで布団に包まってしまった幸に声を掛ける。その声はとても安心できるような優しげな声であった。
「彼岸花君も今回は配慮が足りずに申し訳ありませんでした…。まさか、君も被害者になるとは思わなかったので…。本当に申し訳ありませんでした…。病院に運んでくれたのは場磁石君ですし、この部屋を取ってくれたのも彼なのですが、申し訳ありません。…このバカ狼は頭脳は確かに折り紙付きですが、生活能力がとんでもなく低レベルなので、洗濯物や下着や着衣は僕の方で用意させて頂いたので。…一応、医師からは長くても1週間程度で退院できると伺っています。」
麗永の丁寧な説明に礼を言おうと幸は布団からおそるおそる顔を出せば…麗永ではなく彼の隣に居たそばかすの大男がニヤニヤと笑ってこちらを見ていたので仰け反ってしまった。大声で笑われたかと思えば男ははにかんで自己紹介をする。
「はっはっはっ~!!!初々しいね~!…俺はこの場磁石、いや、田中 皐月の担当編集者の撫子 努(なでしこ つとむ)って言うんだ!人からは撫子って言われることが多いがな~よろしく頼むよ!赤髪の青年!」
会話で分かるほど語尾に『!』が付くのが分かるくらい元気ではつらつとしているが、自分の体力を吸い取られそうな気がする撫子に幸は困ったような表情を浮かべる。しかし自身も礼儀として自己紹介をすることにした。
「えっと…。彼岸花 幸っす。よろしくお願いします。」
「ほう~!彼岸花!別名、曼珠沙華(まんじゅしゃげ)とか幽霊花とか言われてるだったか!同じ花の名前同士だがお前の方がなんか不幸そうな名前してるな~!でも!小説のネタとしては想像が深まりそうな良い名前だな!」
「!!!ちょっと!撫子!花ちゃんが気にしてること言わないでよ!本当に失礼な奴!謝れ!」
哉太がちゃっかり幸に抱き着いて抗議をすれば撫子は部屋中に広がるくらい笑う。
「はっはっはっ~!!!そうか~?俺は別に失礼なことを言ったつもりはないぞ?小説のネタとして!お前に書いてもらうという編集者の熱意という」
「お前うるさいっ!!!花ちゃんの元気が吸い取られるから!」
「それは俺のような太陽のように熱く燃え滾る熱意がな~!!!はっはっはっ~!!!」
「もううるせぇっっっ!!!!」
哉太が席を外し撫子と賑やかな口喧嘩をしているが、幸には黒い大きなライオンとオオカミがじゃれあっているように見えて笑ってしまう。すると今度こそ麗永が幸の傍によって話し掛けてきた。
「すみませんね…。うちのバカどもがうるさくしてしまって…。」
「大丈夫っすよ。こっちの方が楽しいです。…すみません。俺が病院に運ばれた時…その、久遠君とあの長髪野郎はどうなったんですか?」
幸が心配をしている様子であったので麗永は優しく微笑んでからこのように伝えた。
「久遠君から喧嘩を吹っ掛けたわけではないどで彼自身には問題はありませんが…速度君は厄介ですね。彼自身、問題行動が目立ってはいたので。恐らくは後天的な狼による副作用だとも考えているのですが、彼自身が薬を服用していなかったので暴走をしてしまったのかと。…久遠君は完治して、しかも術者の素質があったので大丈夫だったらしいのですが。」
「…!!!じゃあ、あの速度って奴は少年院?とかに?」
すると麗永は首を振ってこのように告げたのだ。
「いえ。久遠君が彼を庇ったんですよ。理由は分かりませんが速度君は悪くないと言い張っていたので。…狼の苦しさには狼にしか分かりません。もしかしたら、情が移ったのかもしれませんね…。場磁石君とは違って。…それに速度君も挑発的な態度を取らずに反省していた態度だったので、今回は割れたガラス代の分を2人で働いてもらうことになりました。…安心しましたか?」
微笑む麗永に幸はゆっくりと頷く。すると麗永は幸から離れてじゃれあっている(*哉太は怒っているが撫子は笑って相手にしていない。)2人に声を掛けて喧嘩を止めさせてから哉太に問い掛ける。
「ほらほら。喧嘩はあとにして下さいね。…場磁石君。君に時間をあげましょう。…僕と撫子さんはこの場を離れます。その間にこの持ってきた袋に入ってる着替えや彼岸花君が今、着ている服を取り換えてあげて下さい。一応、”それなりの”準備はしてきたので。」
幸は不思議に思った。なぜ自分ではなく哉太に問い掛けたのかというのもある。それに”それなりの”という言葉にも引っかかった。
(…?俺の考えすぎかな?点滴打ってるから1人じゃ変えられない…から手伝うとか?)
1人で内心納得をする幸に麗永の言葉に察しがついた哉太はにやりと笑ってから礼を告げる。
「気が利くじゃん~?っさんきゅ。1時間くらいで終わらせっからよろ」
「そこは30分でお願いします。そんな長く待てませんよ。」
「……ケチ。」
すると麗永は優雅に微笑んで毒を吐く。
「君の心の狭さほどではありませんから。…それではいったん席を外しますので。…彼岸花君。何かあったら最悪ナースコールしてくださいね?行きましょう。撫子さん。」
「おう!!!じゃあな~!彼岸花~!」
麗永と撫子が席を外し2人の時間が再び訪れる。少し恥ずかしくなった幸ではあるが早く着替えてしまおうと病衣の紐を解こうとすれば哉太に止められた。
「ちょっと待って。…俺がやるから…。ね?」
どことなく先ほどとは違った雰囲気を感じるが幸は気のせいかと考えて軽く頷いてしまう。
…この時の幸は知らなかった。先ほどのじゃれあっていたオオカミがスケベで変態な野獣であることに。


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