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第36話《藪のなか》
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俺は崖の上に立っていた。だって、慎さんが居なくなったから。亡くなってしまったら。……自殺なんて、そんな悲痛な状態であったから。
無慈悲な空に俺は嘆くように言葉を紡いでいく。
「慎さん、ひどいよ。辛かったのなら言ってよ? 俺たち、親友じゃん。……俺、慎さんのこと大好きなんだよ」
――どうして頼ってくれなかったの?
俺は慎さんが大好きだった。俺のことを差別しないで見ないでくれたから。
いつも優しくて冗談が通じて、たまに掛ける縁眼鏡がかっこよかった。同性だと分かっていても好きだった。
でも慎さんには彼女が居て、だから諦めた。いや嘘だ。……ずっと想いを隠していた。でも告げることは無かったと思う。
「慎さん。俺は、どうすればいいのかな? 慎さんが大切で大事で、俺の支えでもあったのに」
普段であれば俺は崖から落ちると思う。……でも今日は違っていた。
――乾さん……!!!
俺を呼んでくれる声がしたから。ほどよく低い声で、優しくて、でも今はしんどそうな声をしていて……。
だから俺は上に居るであろう慎さんに向けて言い放った。
「慎さんごめん。俺、まだ慎さんの所にはいけない。慎さんも大事だけれど、」
――もっと大事なヒトに巡り合えたから。
崖が次第に消えていく。消えたかと思えば……真っ白な天井が目に映っていた。
「あ、また、夢か……」
(ここは……?)
気づいたら俺は天井を見上げて呟いていた。少し固めのベッドは俺に安心感を与えてくれる。……でも1番は、俺がか細い声で話したかと思えば、ムカつくぐらい透き通った白潤の美青年が駆け寄ってきたのだ。
――蒼柳が起き上がる俺を見た途端に抱き締めていた。
「わぷっ」
「よかったすっ~! 倒れたときには本当に肝を冷やしったっすよ~!」
「わ、分かったから! とりあえず、苦しいし……!」
「嫌っす~」
引き剝がしたり、抱き着いてきたりの攻防をしていると盛大に息を吐いた白衣のカウンセラー、豊橋が苦く笑っているのだ。というか、疲弊した表情をしていた。
「はぁ~……。心配するのは良いけれど、乾はまだ病状が安定していないのだから、そこまでにしてやれ」
「え~! 豊橋先生の言い分が正しくても嫌です~」
「……蒼柳はともかく。乾、お前は奈々切と関わりがあったよな?」
もうどうにでもなっちまえとか言いたげな先生から問われた俺は、執拗に引っ付いてくる蒼柳を引き剥がすことに成功した。「……ひどいっす」なんて呟く蒼柳に目もくれず、俺は少し頷いてから「でも……」と続ける。
「俺はメッセージのやり取りぐらいでした。慎さんがまさか、その……そこまで追い詰められているとは思いもしなかったし、病気とも知りませんでした」
(そう思うと、俺は親友気取りのくせに……なにも知らなかったんだ)
――俺は慎さんに、認められていなかったんだ。
そう思うと切なさが募って、嫌になってきてしまいそうになるが……彼氏になってから俺に甘やかしてくる蒼柳がもっと悲痛な表情をするものだから、我慢をした。
なんとなく蒼柳を引き寄せて手を握ると、彼は花が咲いたように微笑む。やはり反応が返ってくると嬉しいものだ。堪らなく幸せで吹っ飛びそうになる。
――だから俺は、バカップルを見るような視線を向ける先生へ逆に尋ねた。
「慎さんはどうして自殺という行為をしてしまったんですか? 慎さんは彼女も居たし、実習中も大丈夫……」
(ちょっと待て、本当に大丈夫だったのか? 疲れた顔をしていて、身体も震えていて、少し汗も掻いていたような――)
「個人情報だから緊密なことは言えない。……ただ、内分泌系の病気は患っていたな。あとは――」
すると先生は俺と手を繋いでいる蒼柳を一瞥してから、悲痛な表情をするのだ。
「大事な彼女に裏切られた……なんていうのもあったかな。これ以上は個人情報だから、俺はなにも言えない」
吐き出された言葉には先生もやるせないというような感覚に陥る。もしかしたら先生も、慎さんを助けられなかったことに懺悔と後悔を抱いているのかもしれない。
――いや、先生だったらそうだ。先生は厳しいけど面倒見も良いし、優しいから。
「裏切られた……か」
ふと呟いて、俺は慎さんがどんな形で裏切られたのだろうと想像した。
普通に別れたか、病気を告白して嫌になって別れたか、「もうあなたと恋人になるのはやめよう。私、好きな人ができたの」とかだったら……。
想像してまた動悸がして泣き出しそうになってきた。それだったら、切なすぎて苦しいから。
それに自分ももしかしたらその可能性があるから。……かっこいいけれど、俺なんかよりかわいい彼女に絞殺されそうになって、それでも俺に告白をしてきた、頭が良いけれど変な奴に好かれてしまったから。
――怖かった。蒼柳に「もう好きじゃないんで」なんて言われたら、俺はどうなってしまうのだろう。
俺も慎さんと同じ目に遭うかもしれない。分からないけれど。
(慎さん……、俺も人のことが言えないね。俺も同じだから)
――俺も同じ、重たい気持ちを抱えているから。
だから俺は繋いでいた手を払おうとするが……蒼柳が強く繋いで離さなかった。
無慈悲な空に俺は嘆くように言葉を紡いでいく。
「慎さん、ひどいよ。辛かったのなら言ってよ? 俺たち、親友じゃん。……俺、慎さんのこと大好きなんだよ」
――どうして頼ってくれなかったの?
俺は慎さんが大好きだった。俺のことを差別しないで見ないでくれたから。
いつも優しくて冗談が通じて、たまに掛ける縁眼鏡がかっこよかった。同性だと分かっていても好きだった。
でも慎さんには彼女が居て、だから諦めた。いや嘘だ。……ずっと想いを隠していた。でも告げることは無かったと思う。
「慎さん。俺は、どうすればいいのかな? 慎さんが大切で大事で、俺の支えでもあったのに」
普段であれば俺は崖から落ちると思う。……でも今日は違っていた。
――乾さん……!!!
俺を呼んでくれる声がしたから。ほどよく低い声で、優しくて、でも今はしんどそうな声をしていて……。
だから俺は上に居るであろう慎さんに向けて言い放った。
「慎さんごめん。俺、まだ慎さんの所にはいけない。慎さんも大事だけれど、」
――もっと大事なヒトに巡り合えたから。
崖が次第に消えていく。消えたかと思えば……真っ白な天井が目に映っていた。
「あ、また、夢か……」
(ここは……?)
気づいたら俺は天井を見上げて呟いていた。少し固めのベッドは俺に安心感を与えてくれる。……でも1番は、俺がか細い声で話したかと思えば、ムカつくぐらい透き通った白潤の美青年が駆け寄ってきたのだ。
――蒼柳が起き上がる俺を見た途端に抱き締めていた。
「わぷっ」
「よかったすっ~! 倒れたときには本当に肝を冷やしったっすよ~!」
「わ、分かったから! とりあえず、苦しいし……!」
「嫌っす~」
引き剝がしたり、抱き着いてきたりの攻防をしていると盛大に息を吐いた白衣のカウンセラー、豊橋が苦く笑っているのだ。というか、疲弊した表情をしていた。
「はぁ~……。心配するのは良いけれど、乾はまだ病状が安定していないのだから、そこまでにしてやれ」
「え~! 豊橋先生の言い分が正しくても嫌です~」
「……蒼柳はともかく。乾、お前は奈々切と関わりがあったよな?」
もうどうにでもなっちまえとか言いたげな先生から問われた俺は、執拗に引っ付いてくる蒼柳を引き剥がすことに成功した。「……ひどいっす」なんて呟く蒼柳に目もくれず、俺は少し頷いてから「でも……」と続ける。
「俺はメッセージのやり取りぐらいでした。慎さんがまさか、その……そこまで追い詰められているとは思いもしなかったし、病気とも知りませんでした」
(そう思うと、俺は親友気取りのくせに……なにも知らなかったんだ)
――俺は慎さんに、認められていなかったんだ。
そう思うと切なさが募って、嫌になってきてしまいそうになるが……彼氏になってから俺に甘やかしてくる蒼柳がもっと悲痛な表情をするものだから、我慢をした。
なんとなく蒼柳を引き寄せて手を握ると、彼は花が咲いたように微笑む。やはり反応が返ってくると嬉しいものだ。堪らなく幸せで吹っ飛びそうになる。
――だから俺は、バカップルを見るような視線を向ける先生へ逆に尋ねた。
「慎さんはどうして自殺という行為をしてしまったんですか? 慎さんは彼女も居たし、実習中も大丈夫……」
(ちょっと待て、本当に大丈夫だったのか? 疲れた顔をしていて、身体も震えていて、少し汗も掻いていたような――)
「個人情報だから緊密なことは言えない。……ただ、内分泌系の病気は患っていたな。あとは――」
すると先生は俺と手を繋いでいる蒼柳を一瞥してから、悲痛な表情をするのだ。
「大事な彼女に裏切られた……なんていうのもあったかな。これ以上は個人情報だから、俺はなにも言えない」
吐き出された言葉には先生もやるせないというような感覚に陥る。もしかしたら先生も、慎さんを助けられなかったことに懺悔と後悔を抱いているのかもしれない。
――いや、先生だったらそうだ。先生は厳しいけど面倒見も良いし、優しいから。
「裏切られた……か」
ふと呟いて、俺は慎さんがどんな形で裏切られたのだろうと想像した。
普通に別れたか、病気を告白して嫌になって別れたか、「もうあなたと恋人になるのはやめよう。私、好きな人ができたの」とかだったら……。
想像してまた動悸がして泣き出しそうになってきた。それだったら、切なすぎて苦しいから。
それに自分ももしかしたらその可能性があるから。……かっこいいけれど、俺なんかよりかわいい彼女に絞殺されそうになって、それでも俺に告白をしてきた、頭が良いけれど変な奴に好かれてしまったから。
――怖かった。蒼柳に「もう好きじゃないんで」なんて言われたら、俺はどうなってしまうのだろう。
俺も慎さんと同じ目に遭うかもしれない。分からないけれど。
(慎さん……、俺も人のことが言えないね。俺も同じだから)
――俺も同じ、重たい気持ちを抱えているから。
だから俺は繋いでいた手を払おうとするが……蒼柳が強く繋いで離さなかった。
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