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第16話 意外な《共通点》

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 固まってしまった蒼柳に利里は不審に思って声を掛ける。すると彼はかぶりを振って、なぜか赤面して「……なんでもないっす」と答えた。
「ふ~ん。てっきり、ビーフシチュー取られて怒ったのかと思った」
「俺はそこまでケチじゃないっすよ~」
(ちょっと乾さんのほわほわな笑顔が見られたから、なんて。……いや、これは! 親友になろうとしているからであって!)
 頭の中での葛藤をしながら食す蒼柳と、疑問に感じている利里の姿がそこにあった。
 ――お昼休みではいろんな話をした。
 学校生活のことや校内実習のこと、クラスメートで香水と化粧がきつい女子のことも話した。だがふいに蒼柳は利里のトプ画に触れたのだ。
「というかあのトプ画なんすか~、あれ。かわいい女の子だな~とかは思ったけど」
「なっ、あの子は主人公を支えるヒロインなの! 頭いいし、かわいいのもあるけど、悲しい過去を背負っても生きている、強くてかわいい子なの!」
「へぇ~、じゃあ聞かせて下さいよ~。金髪碧眼でドレスを着た……乾さんがロリ男子疑惑を晴らすための、口実を」
「いいぞ~、リンツちゃんのかわいさだけではないのを教えてやる!」
 利里は普段の正直な表情と熱弁で語った。アニメで観たときに息を呑むほどの世界観とキャラクターに惹かれ、主人公を支えるヒロインのリンツの強さに惹かれ、どんなに悲しい過去を背負っていても逃げずに前進する彼女の姿にも惹かれて、――ついにはトプ画にするぐらい好きになってしまった。
 つまり推しになった、ということである。
 ついでに彼女を好きになったおかげで、オープニングを歌っているバンドの曲もよく聞いていると話した。
「ふ~ん。まぁ乾さんがロリ好きなのは変わらないとして……」
「いや、そこは否定してよ! 違うし!」
「でも、そのバンドの曲は気になりますね~。なんていうバンドっすか?」
 からかう蒼柳に少々憤慨しつつも、利里はスマホから曲のタイトルとバンド名を見せる。「あ、このバンド!」そう言って蒼柳はまた瞳を大きくした。
「知っていますよ、このバンド! 最近、流行っているじゃないすっか~!」
「え、知ってんの?」
「そりゃあ流行っているっすからね~。乾さんは知らなかったんすか?」
 俺は軽く頷くと「乾さ~ん?」と、またイジるような目線を向けては食べ終わったビーフシチューに手を合わせて、またにやりと笑った。
 ――さすがにその視線に俺は分かった。
「流行に疎くてスミマセンね」
「なに怒っているんすか~? いいじゃないすか~、……疎くても」
 とか言いながら肩を揺らして笑うのを堪えている様子の蒼柳に、俺は残りのご飯を食してはふて腐れて横へ向く。
「ふん。だったら今度、曲教えてよ。バカ」
「怒んなくてもいいじゃないすか~、ふふっ!」
「もう……」
 横を向いてのり弁を食していくと、時間が刻々と迫っていくのが見えた。「あぁ、もうこんな時間か……」
 どうしてだが寂しくなって、切ないなとか思ってしまう俺に、蒼柳は席を立ってからまたにこりと微笑む。切れ長の鋭い瞳が半円を描いていると、なんだか嬉しくなってしまった。
「大丈夫っすよ。今日も帰りに、ここへ寄りますから。……そんな寂しそうな顔、しないでください」
「……うっさい」
「ふふっ!」
 破顔して笑う蒼柳の美しい顔立ちに目もくれずに、利里は残りのご飯を食べていく。そして手を合わせてスマホを見た。
 すると嬉しいことがあった。怒っていた顔が目を丸くして、安心したように微笑んだのだ。
(あ、慎さんから連絡来てる! 嬉しいな……)
「ふふっ!」
「ん? なんかあったんすか~?」
「いや、から連絡がきただけ」
 利里は気づかずにメッセージを開いているが、蒼柳はどうしてだが気になってしまう。――この訳アリ留年生だが、親友になろうと画策している存在が、豊橋に見せたような安堵した顔を見せていたから。
 それがどうして気になったのかは分からない。
 (こんな風な気持ちを持つのは、乾さんに気に入られたいからだ)
 彼は自分にそう納得させて、自身の嫉妬心を抑え込もうとしたが、……抑え込めない自分も居た。
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