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《幸せ》

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 先ほどの救命行為から逃れくたびれた様子のヨルと満足そうなシギュンに、二人は安堵してショッピングモール内の喫茶店へと向かった。
 ブラウン系統のレトロ調な雰囲気の空間にて四人は席に座り、それぞれメニューを見て頼んでいく。ヨルはメロンクリームソーダ、シギュンと燐はアイスティーにシフォンケーキ、聖はブルーマウンテンにした。
 最初にメロンクリームソーダとアイスティーが運ばれ、ヨルは翡翠色の瞳を瞬かせソーダを口にし、アイスを食す。「うまい……」と感動するように瞳を潤ませている姿に、シギュンは果てしないほど心臓に来るものがあった。
(ヨルは緑が好きなのですね……。それにメロンソーダも好きなのですか。それにしては本当に可愛すぎますよ! その表情で私を貫いてくれたら、なんというご褒美に――)
「シギュンさん、アイスティー飲みませんの?」
 はしたなく口端によだれを垂らしそうになっているシギュンを見て、不思議に思った燐ではあったのでアイスティーを飲まないかを促した。
 まさか兄の同性の妻が変態の妄想癖であることを知らない彼女の視線に、シギュンは我に返り慌てた様子でアイスティーに口を付ける。……美味しいが少し苦みがあった。だから彼はミルクとガムシロップを入れて混ぜて再度飲み直した。
 ちょうど良い甘さになって思考も少し落ち着いたようだ。ストレートで飲んでいる燐を差し置いて、メロンクリームソーダにかぶりついていたヨルはシギュンの行動を見て口にする。
「シギュン、お前は甘いものが好きなのか?」
「あぁ、はい。だからお菓子とか好きなんです。……母国では甘いものは極上の贅沢でしたから、つい……」
「ふ~ん、そっか」
(シギュンは甘いものが好きなのか。今度、お菓子でも作ってあげたら喜んでくれるかな?)
 妻の性的妄想とは正反対で、他者のことに興味を抱いたヨルを見て聖と燐は顔を見合わせて軽く微笑んだ。――ブルーマウンテンとクリームの乗ったシフォンケーキが運ばれた。
 話では主にキョウダイの話をシギュンが聞いていたという感じであった。聖はヨルが居ない間に経営学を学び、責任者となった自慢話を。燐は先日、金利が間に合わずに駄々を捏ねた人間に対しての制裁……を言おうとしたが、その部分は日本語で話されてシギュンはわからないでいた。ヨルと聖は顔を青ざめて寒気を催したそうだが。
 そしてヨルはこれまでの旅とシギュンとの出会いについて赤裸々に話すことになった。会話をしていくうちに次第に頬を染めたヨルを見てニヤつく聖は「おいおい~。まさかの誓いのキスまでしちゃったのかよ~」とか言って茶化してきた。
「あら。良いじゃありませんか、ロマンチストで。私は好みですわよ?」
「それにしても光速だが音速の速さでスピード婚じゃん~。兄さんやるね~」
 またもや遊ぶように聖が笑っていると、恥ずかしさのあまりヨルは「もう、この話はおしまい! 外に出て買い物するんだからな!」そして残りのメロンクリームソーダを飲み干して席を立ってしまった。
 キョウダイのなかでわずかな人間としか触れ合えないおかげで恥ずかしがり屋になってしまったヨルの姿を見て、弟と妹はどこか安堵し急いで兄に付いていこうとするシギュンへ声を掛けた。
「シギュンさん、本当にありがとう。……兄さんや俺たちと関わってろくなことないかもしれないけれど、それでも、ヨル兄さんに付き添って欲しい。――これからもずっと」
 聖の重みのある言葉にシギュンは強く頷き「私はヨルの妻になる者ですから、一生付き合います」と答えた。強みがあり芯のある言葉に、聖は深緑の瞳をゆっくりと瞬き笑みを見せて「期待しているよ」なんて告げる。すると燐も強く頷いたかと思えば「結婚式、楽しみにしております」また恭しく礼をした。
 ヨルが認めているキョウダイに告げられた言葉に、シギュンは顔を上気させる。
 ――だが、外は次第に雨が降り轟音を鳴らしてショッピングモールに響き渡るほどである。……不吉な予感を四人は知らずにいた。
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