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第七章

□引っ越し

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【お詫び】
 22日投稿予定だった第七章の第一話『女性騎士』の話が抜けており、23日17:30以前にお読みくださいました方におかれましては混乱されたことと思います、大変申し訳ありませんでした。

************************



 女性王族専門の護衛という任をいただいた私は第一騎士団所属となり、王宮内の王族の居室に近い場所に部屋を与えられた。

 荷物を取るために西部基地に戻ると、出会う騎士たちはみな既に私が女であること、第一騎士団に転属することを知っていた。




「正直に言って、お前を第一に取られるのは痛手だ」

 挨拶にうかがった団長室で、ボルテス団長は不機嫌そうに口の端を下に曲げて腕組みをした。

「折角いままで、他の騎士団からの引き抜きを追い払ってきたんだがな。さすがに王太子殿下直々の命令は無理だった」

 引き抜きがきていたはなしなどはじめて聞く、団長にきた時点ですべて断っていたのだろう。私には他に移る気がなかったからいいものの、他の騎士ならば噴飯ふんぱんものだな。

「そもそも、今年いっぱいで辞める予定だったので、それが少々早まっただけではないですか。今後は地道に事務に強い者を育成してください」

「それを、お前に頼もうと思っていたんじゃないか。事務ができそうなのを何人か目星を付けて、合同訓練が終わってから本格的に動こうとしていたんだよっ」

 頭をガシガシと片手でかきむしる彼に、ため息が出てしまう。そんな計画があるなら、もっと早くに行動していただきたかった……。
 後進の育成が、一朝一夕でできるわけがない。

「中央から、文官を何名か回してもらうことは、できないのですか?」

「文官の給料が発生するだろう、そんな余裕――」

「なくはないでしょう、そもそも、昔は文官を雇っていたそうじゃないですか。それを、経費削減のためにやめて、その分を諸雑費に繰り入れたという過去がありますよ。他の騎士団でやったことの真似のようですが。その分、ジリジリと予算を削られてるの気付かなかったのでしょうかね……」

 整理されていない過去の帳簿を捲った時に見つけた事実だった。二十年以上も前の帳簿が残っていること自体がおかしいが、そのお陰で大体の顛末が知れた。

「なんだそれは、そんなのは知らんぞ」

「そもそも、第四以上の騎士団には文官がいるではありませんか」

 そこからおかしいと思うこともできるのだ、なぜ平民出の騎士がいる騎士団には文官がいないのかと。あの頃の文官は貴族出ばかりだから、きっとそりも合わなかったのだろうなと予想できる。

 だが、昔とは違い、いまは平民出でも優秀な者は下級の文官になることができ、現に地方文官の半数は平民出だったはずだ。

「うぬぅ」

 眉間に皺を寄せて私の話を聞いていたようすを見ると、きっと近いうちに文官を雇うことになるだろうと予想できた。
 私は唸るボルテス団長に挨拶を済ませると、会う騎士団員に挨拶をしながら、荷物をまとめるべく自室へと急いだ。

「バルザクト様ぁぁぁっ」

 ドアを開けた途端、訓練服をボロボロにしたシュラに抱きつかれる。

 後ろ手にドアを閉め、私よりもずっと逞しくなった背に手を回す。ああ、本当に逞しくなったな。

「第一騎士団に移籍ってどういうことですかぁぁっ」

 半泣きになる彼を宥めてソファに移動する。

「私が性別を偽っていたことを正当化させるために、実験的に騎士団に入団していたことになったのだ。貴族ばかりの騎士団だと、一般の貴族と顔を合わせる機会も多くなろうということで、貴族出の騎士の末席となる第五騎士団に入ったことになっている」

「じゃ、じゃぁ、このまま第五でいいじゃないですか」

「管轄が違うから駄目らしい。王族の警護となると、やはり第一騎士団でなくては、となってしまったのだ。有事の際に近くにいなければならぬ、というのもある」

 第一騎士団長からそう説明されてしまえば、私のような平の騎士は納得せざるを得ないし、納得できる内容でもあった。

 それはシュラも同じだったようで、私の説明を聞いて黙り込んでしまう。

「はっ! まさか、部屋は第一騎士団の寮じゃ……そんな、狼の群れに、子羊じゃっ!」

「……私は子羊ではないが。仕方あるまい、有事の際に駆けつけられる場所に居らねばならないのだから」

「それはそうでしょうけれどもっ! 俺のバルザクト様に万が一のことがあったらっ」

「ジェンド団長の隣の部屋をいただいたから、大丈夫だろう」

 私の言葉に、絶望的な顔をした。

「最強の童貞の、隣の部屋……。えっ、もしかして、俺、夜這いに行けないのでは……。あの人なら、絶対にバレる……っ!」

「夜這……お前、そんなことを考えていたのか」

「会いに行くって、言ってあったじゃないですか!」

 もう忘れたのかと詰め寄る彼に、あれはそういう意味だったのかとやっと気付いた。

「部屋に忍び込むのは諦めてもらうことになるが。それよりも、休みを合わせて、デートをしよう。その、普通のお付き合いも、してみないか?」

 彼の胸に体を預けておずおずとそう提案すると、強く抱きしめられ、頬ずりされた。

「しますっ! デートします!」

 機嫌を浮上させた彼に微笑んでその頬に唇を寄せれば、お返しとばかりに唇を奪われる。深く全てを吸い上げようとするような口付けに息も絶え絶えになりながら、それでも彼に求められる幸福感を感じずにはいられなかった。

「準備不足が憎い……っ。断腸の思いではありますが……っ、これ以上してしまうと、止まらなくなりそうなので……っ」

 断腸の思いを表情で現すとこうなるのか、という表情で抱きしめていた私を離した彼から立ち上がり、部屋の片付けをはじめる。
 とはいえ、年明けには退団する予定だったので、荷は少なくしてある。僅かな荷物をまとめれば、それをシュラが持ってくれた。

「これだけですか? 自分が運びます」

「いや、これしかないのだから、自分で運ぶから大丈――」

 言いかけた唇を触れるだけの口付けで止められた。

「俺がもっとあなたと居たいんです、運ばせてください」

 微笑まれて、熱くなる頬を止められない。私だって、もっと彼と一緒に居たいのだから否はなく、言葉に甘えて、第一騎士団の寮まで運んでもらうことにした。



「それにしても、その騎士の制服素晴らしいですね。禁欲的でありながらも失われない女性らしさが最高ですが、最高すぎて、隠してしまいたいです」

 訓練服から騎士服に着替え、私の隣を歩くシュラがそう評してくれる。

「大衆の目に触れるように、なるべく来て歩くようにとのことなんだ。体型が変わって、手持ちの服がほとんど着れなくなったから、これを着るしかないというのもあるが」

 そうこぼしたら、シュラの目が見開かれた。

「そうか! いまのバルザクト様なら、あのネタ装備もいける……っ! バルザクト様っ、部屋についたら是非渡したいものがあるのでっ」

 急ごうとする彼の袖を引いてその足を止めさせ、少し躊躇ってから彼を見あげる。

「渡したいものは逃げぬのだろう? なら、もう少しゆっくり歩いていかないか」

 二人きりの時間を延ばしたいのだと、伝わっただろうか? ああ、伝わったな。
 溶けるような目で見下ろされ、胸が熱くなる。

「今すぐ抱きしめてキスしたいです」

「往来ではやめてくれないか。公序良俗に反する」

 憮然として言った私に、彼が耳元で「では、部屋についてから」と囁いた。
 ゆっくり歩きたいのに、早く部屋に着きたいという矛盾した気持ちで、歩かなければならなくなってしまった。






 部屋に着いた彼は、感心したように室内を見回した。その気持ちは理解できる、西部基地とは一線を画しているものな。部屋の広さはそう変わらないが、備え付けの調度品が違う。

「なんだか、華やかですね」

「ああ、本当にな。だからなんだか落ち着かないのだ」

 彼から荷物を受け取り、寝室に置いてくる。
 すぐに部屋に戻ると、ジェンド団長が増えていた。いや、誰か来てシュラが応対してくれたのは知っていたが……。

「騎士バルザクト、今後は同じ騎士であっても、みだりに部屋に入れるのは感心しないな」

 従騎士だったから気安いのはわかるが、とか、他の騎士への示しがとか、未婚の若い女性がとか、とにかく正論を並べられ、私は小さくなるしかなかった。

 そして、ジェンド団長はシュラを連れて出ていってしまった。
 荷物運びを手伝っただけ、という体裁だったので仕方がないが、もう少しくらい一緒に居たかったと思いながら荷を解き片付けをした。
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