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第二章

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「あ……っ、ど、してっ」
 ディアスは、戸惑う声をあげる。

「まずは、どのような状況になるのか、知らねばならないと言っただろう?」
 背後から逞しい腕の中に囲われたディアスの首筋に、グレイドの唇が這う。
 口付けは「夫婦でもないのに、いけません!」とディアスに頑なに断られ、それならばと性感を高めるように服越しに、彼女の柔らかな体にグレイドの大きな手のひらが触れる。

「ああ、ドキドキしているな」
 柔らかな胸に手を置き耳元で囁く低い声に、ディアスは首を竦めた。
「グレイド師長、あの、もう十分では……ぅんっ」
 首筋を舐められたディアスはびくっと背を強張らせる。
 もう、とっくに下腹部は欲望を感じて切なく熱を帯びている。股間だって下着が濡れるほど潤っている、だからもうグレイドにもこの感覚が伝播しているはずだと、ディアスは熱い吐息を吐いて、背後から自分を弄ってくる男を見上げた。
 潤んだ瞳で、切なげに息を上げるディアスを見下ろし、グレイドは目を細める。
「そうだな。確かに、これほど欲望を感じたのは久しく無いな」

 至極冷静な声で言われて、本当に欲望を感じているのかと疑わしい目を向けたディアスに、膝に乗せた彼女の尻に、固くなった己の物をぐりっと擦りつけた。
 それがなんであるのか理解したディアスは、ドキドキと一層胸を高鳴らせてしまう。
(いけない、逃げなくてはならないのに……っ)
「実証できたのでしたら、あっ、離してください、もう戻りま……んっ」
「こんな状態で、部屋まで帰るつもりか?」
 はだけた服の隙間から見える、柔らかな二つの膨らみとその先に色づいている乳首を目にしながらも、直に柔肌に手を触れることはせずに、服の上から彼女の体に触れる。
 欲望を感じていても理性を失わないグレイドに安堵しつつ、熱い吐息を零して羞恥に熱くなる顔を背ける。

「だって、どうしようもないもの。部屋に戻って、冷水を浴びれば、すこしはマシにな……んっ、だから、やめ……っ」
 分厚く大きな手のひらは、その様相に反して巧みな強弱でディアスの体から熱を引き出す。
「冷水など、風邪をひいてしまうぞ。一度、解放してから、部屋に戻ればいいだろう? そうすれば熱も引く」
「かい……ほう?」

 戸惑うように彼を見上げたディアスの濡れた唇にグレイドは欲望のまま、口づけそうになるのを耐えて、まじめくさった顔で頷いた。
「ああ、男と同じで、一度達してしまえば、熱は引くだろう?」
「たっす……る? どうやって?」
 熱が引くという言葉に、ディアスは縋るように振り返ってグレイドを見上げた。
「女でも手淫はするだろう? 快楽を高めて、爆ぜてしまえば、欲望は落ち着くはずだ」
「しゅ、しゅいん……?」
 戸惑う声に、彼女がそれを理解していないことを悟ったグレイドは、服の上から彼女の股間の上を手のひらで押さえた。
「ここを刺激するのだが……」
 言葉を濁すグレイドに、驚いたように身を竦ませたディアスは必死な様子で首を横に振る。

「そ、そんなところっ。お、夫となる人しか、触ってはいけませんっ」
「…………」
 頭の固い聖職者のように頑なな言葉とその様子に、ディアス自身そこに触れることが無いのだと察する。
(身持ちが固いのはいいことだが……。自らもその禁の中に含むのは、なぁ。見た目を裏切る、生真面目で不器用な女性だ)

 色づく彼女の首筋に吐息を落としながら、グレイドは苦笑を漏らした。
 首筋に触れる唇の感触におののくディアスは、腰に当たる彼のものが固さを増していることに気付いていない。

「それは、誠実なことだと思うが。しかし、現状君の体は、欲望を発散せねば、周囲に影響を与えてしまう状況にあることを考慮せねばならない。わかるな?」
 頭を傾けて彼女の横顔をのぞき込めば、ぎゅっと口元を固くしたのが見え、グレイドはひっそりと笑った。

(これも、彼女の内にある魔力石の効力なのか。色恋を知らぬ朴念仁と渾名される俺が、こんなにも心惹かれる。ああ、どんな手を使っても、ティアを俺のものにしたい――まずは信頼、体、そして願わくば……心も)
 荒ぶる体を押し隠し、冷静さを失っていないように取り繕い、彼女の体を優しく撫でる。

「でも……っ、どうすればいいか……っ」
「治癒の魔力石を研究するには、人体の構造について精通する必要があった。だから女性の体についてもある程度理解はしている。私に任せなさい……君を解放してあげよう。これは、緊急避難的措置で――そうだな、治療だと思えばいい」

「治療……」
 熱を込めず、いつもの口調で彼女の心に伝えるようにそう言えば、腕の中に囚われている華奢な体から少しだけ緊張が解かれた。
(警戒されないように――ゆっくりと。そして、脅えさせぬように、注意深く……ティアに快楽を)
 首筋に口付けながら、彼女の服の裾から手のひらを中に差し込み、直にディアスの柔肌に触れる。
 戸惑うように竦む体を、安心させるように腹を撫で、ゆっくりと手のひらを移動させて柔らかな胸を包み込む。
「ん……っ」
 胸の先端に固い手のひらが掠めた感触に、ディアスの喉から声が漏れた。
(な、なんで、こんなに感覚が鋭くなってるのっ。すこし、彼の手が触れただけなのに――っ)
 両手で口を覆ったディアスに、グレイドは首筋を食んでいた唇を耳朶へとずらし、そこを舐って舌先で耳周りをくすぐる。

「快感が高まると、体の色々な部位が鋭敏になる筈だ。快感を解放するためには、気持ちのいいところを、私に教えなさい。そうすれば、解放するのも早くなる」
(早く、解放できるの……? そうよ、師長のお手を煩わせるのはいけないわ。早く、早く解放しなくては)
 グレイドの言葉に、ディアスは早くなる吐息を堪えながら頷いた。

「はい……よろしくお願い致します……んっ」

 素直に受け入れる姿勢を見せるディアスに、グレイドは内心安堵しながら、腕の中で従順に身をゆだねる彼女の肌に手を這わせる。

「ここは? 気持ちいいか?」
 胸の先を摘ままれ、ビリッと走った感覚にディアスは顔を顰める。

「ああ、まだ快感と認識できないのかもしれないな。では、理解できるまで、もう少し弄ろう」
「んん……っ!」
 両手で隠された口から漏れたのは、拒絶だったのか、胸先を摘ままれた刺激によるものなのか、ディアス本人にもわからない。
 ただ、漏れそうになるあられもない声を必死に堪える。
 服の上から大きな胸をすくい上げて固く尖る乳首を指の腹で刺激され、きゅうと腹の奥が切なくうずき膝を擦りあわせたディアスの呼吸が熱くなる。

「声を聞きたいが、ここでは無理か」
 低い声が耳朶に囁かれ、ねっとりと舐めてゆく。
(そうよ、ここは、師長の執務室だわ。私達、なんてところで……っ)
 グレイドの言葉にディアスが正気を取り戻そうとしたとき、グレイドの右手が布越しに彼女の股間を撫でた。
「ひぅっ」
「早く終わらせたかったら、快感に集中するんだ」
 彼女の考えていることなどお見通しのように、グレイドが言葉を放つ。
「膝の力を抜け。そうだ、私の手を感じろ」
 足の間に差し込まれたグレイドの指先が、布の上からディアスのそこをくすぐるように撫でる。
 その微妙な感覚に、かえってディアスの感覚が鋭敏になり、ギュッと彼の手をふとももで挟んでしまう。しかし彼の指は、彼女のふとももの力など意に介さずに、その割れ目をまさぐる。
 公的な場所で卑猥なことをしている背徳感と、他人の手により与えられる刺激によって、少しずつディアスの体は開かれてゆく。

「んっ……ふっんっ」
 耐えるように息を詰めるディアスに気付いたグレイドは、口を押さえる両手を外し、その中に己の指を食ませた。
「噛んでもいいぞ」
 耳朶を嘗めながら言われた言葉に、背筋を震わせたディアスは嫌がるように首を横に振る。
 その答えに合わせるように、下着の上から擦っていた固い指先がそこを逸れて、下着の股刳りからするりと中に入り込んだ。
「あっ……っ!」
 思わす開いた口の中に指が増やされ、舌を撫で上あごをくすぐられて、顎から唾液が零れる。
 背後から包み込むように覆い被さったグレイドは、ディアスの口腔を指で嬲りながら、仰向けさせた首筋に流れる彼女の唾液を舐め取った。
 かつて無い高ぶりに飛びそうになる理性を精神力でねじ伏せ、ディアスの反応を見ながら行為をすすめていく。
 上気した頬、潤んだ目と赤く染まった目元、いつもはすましている顔が情欲に溶けている。
 窮屈なズボンに押し込められ痛いほどに反り返った己の股間、痛みがあるからこそ暴走せずに居られる。

「ティア……」
 グレイドは囁きながら下着の中に忍び込ませた指先で彼女の茂みをかき分け、熱く濡れたその肉の間に指を這わせた。
「んんっ!」
「早く快感を解放したいのだろう? 私の指に集中しなさい」
 抵抗を見せたディアスに、グレイドは耳を食みながら囁き、入り口を弄っていた指先をぐっとその秘裂へと差し込んだ。
 入り口にまで溢れていた愛液は中を潤し、はじめて受け入れるであろう異物をすんなりと奥へと通してしまう。
「ぅん……っ!」
 ぎゅううと両膝を擦りあわせ、腿でグレイドの手を挟み込んだ。すると余計になかに入り込んだ指の異物感がまざまざと感じられ、恥ずかしさのあまり目を瞑れば中に差し込まれた指がゆるゆると動くのを感じる。
 最初は違和感しかなかったのに、体温が馴染むころになると内側を擦るその快感に内部が彼の指を緩急を付けて締め付ける。
 ――まるで、もっともっとと強請ねだるように。
 数度指を行き来させたグレイドは、とろりと愛液に濡れた指を抜き出し、秘裂の入り口に立つ突起にそっと触れた。
「ひぅっ」
 新たな快感に体を竦ませたディアスの様子を見ながら、ぬるぬると濡れた指先で彼女の花芯を嬲ってゆく。
 びりびりと痛いくらいに増す快感に体を震わせるディアスから流れ込んでくる快感を呼吸を整えることで逃がしながら、彼女を追い上げる手を早める。

「んんんーっ!」
 達した瞬間口に含ませていた指を噛まれ、グレイドはその痛みに、危うく暴発しそうだったところを救われた。
 くたりと脱力したディアスの口から、唾液にまみれうっすら血を滲ませた指を抜き出し、次いで下肢を弄っていた手を抜いた。
 グレイドは両手をハンカチで拭ってから、呼吸を乱しているディアスの服を整え、まだ高まりが治まらない自身の股間は上着の下に隠し、劣情など無いふうを装う。

「どうだ? 一度解放すれば、すっきりするだろう?」
 そう言いながら、自身も先程までの圧倒的な性欲が薄れていることを認識して、仮説が正しかったのだと安堵する。
「すっきり……あ、え、は、はい、すっきり……しました」
 冷静なグレイドの声に現実に引き戻され、自身の体に帯びていた熱がかなり引いていることに気付いたディアスは、濡れた下着の感触にもじもじとしながらも、安堵に頬を緩めた。
 グレイドは彼女の無防備な表情に隠した劣情を刺激されながらも、冷静な表情を崩さずに腕の中に囲っていた彼女を立ち上がらせ、自分も身を起こした。

「さて、やり方は覚えただろう。今度からは自分でやりなさい」
「は……はい。お手数を、お掛け致しました」

 いままでは禁忌感に絶対に自分ではできなかった行為だが、幼い自分を救ってくれた英雄のような彼がその禁忌を破り、尚且つ、決して自分自身の快楽は求めずにどうすればいいのかだけを教えてくれたことに気付き彼への信頼度は一気に跳ね上がる。

 そして、彼への信頼に応えるべく、明日は自分で熱を散らしてくることを胸に誓った。

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