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第七話 虫殺し
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はじめて入ったエンボルグ隊長のお屋敷の、立派な応接室の、立派なソファに、ぽつんとひとりで座っている。目の前には温かい紅茶が出されているけれど、手を付けることはせずに、ぐったりと体をソファに預けていた。
隊長は着替えに行ってしまった。
ここに来るまでに聞いた話をまとめると。
刺された瞬間に致命傷を確信した隊長は、咄嗟に仮死の魔法を使い身体機能を停止させた。だから出血も少なかったのかと納得。
私の張ったバリアは、行き来はできないものの会話を阻害するものでは無かったので、従僕のジェイクがバリアの外にいる衛兵に治癒に長けた魔術師を呼び寄せて貰い、バリアの外で待機。隊長をその側まで移動させて、バリアの解除と共に傷の治療をして、ジェイクが予め決めてあった呪文で仮死を解除したということだ。
すっかり死んだと思ってた。……なんだよ仮死って。そんな魔法知らないもん。
誰も居ないのをいいことに、ソファに置いてあったソファと同じ柄の高級そうなクッションを抱きしめて、そこに顔を埋める。
うう、くそっ、眠くなってきた。部屋に戻って楽な格好になって眠りたい。
いやいや、そもそも私ってこんなところに居ていいの? あれだけ派手に魔法を使っちゃったから、想定しているバッドエンドコースに乗っかっちゃったよね。
本気を出すときは、逃げるとき。って決めてたのに。呑気にお茶なんか出されて……。
きゅう――――とお腹が寂しげな音をたてた。
ゆらゆらと揺られている感覚が、とても心地いい。
私の硬い髪を撫でる手の感触に、意識がふわりと浮き上がる。
あたたかなベッド、石けんの匂いがする白いシーツ、ちょうきもちいい。
二度寝しそうになって、はたと気付いて目を見開けば。ベッドの端に腰掛けて、私を見下ろす隊長を認識した。
「おはよう。もう昼過ぎだぞ」
目をまん丸にした私に、そう声をかけてくる隊長にがばっと飛び起きようとして、上掛けの上から隊長に押さえ込まれてしまった。
「え、と。エンボルグ隊長?」
「腹、減ってるだろ?」
当惑する私に、全然関係のないことを言ってくる隊長に、ムッとする。
「そりゃ、減っていますけれど。な……に」
目の前に出された、芽キャベツのような物体に、胸がドキドキする。
だって、それは、私の主食だけれど。バンガーキュート、別名虫殺しと呼ばれる毒性のある植物だった。
採れたてのように瑞々しいそれを、開いていた唇に当てられる。
呆然と口を開き、半ばでカシュッと噛み切る。瑞々しい、凄く美味しい、凄く、凄く美味しい。
もぐもぐと咀嚼しながら、涙が勝手に零れて枕を濡らす。
「おいしいか?」
真剣な表情の隊長に問われ、嗚咽に喉が詰まりそうになる。
バンガーキュートを飲み込み、口を開く。
「ええ、とても、おいしいです」
「そうか」
差し出された残りのバンガーキュートを口で受け取り、噛みしめた。
虫殺しの毒で殺そうとして与えられたわけじゃない、ならば――もう、私の体質もバレているのだろう。
隊長は着替えに行ってしまった。
ここに来るまでに聞いた話をまとめると。
刺された瞬間に致命傷を確信した隊長は、咄嗟に仮死の魔法を使い身体機能を停止させた。だから出血も少なかったのかと納得。
私の張ったバリアは、行き来はできないものの会話を阻害するものでは無かったので、従僕のジェイクがバリアの外にいる衛兵に治癒に長けた魔術師を呼び寄せて貰い、バリアの外で待機。隊長をその側まで移動させて、バリアの解除と共に傷の治療をして、ジェイクが予め決めてあった呪文で仮死を解除したということだ。
すっかり死んだと思ってた。……なんだよ仮死って。そんな魔法知らないもん。
誰も居ないのをいいことに、ソファに置いてあったソファと同じ柄の高級そうなクッションを抱きしめて、そこに顔を埋める。
うう、くそっ、眠くなってきた。部屋に戻って楽な格好になって眠りたい。
いやいや、そもそも私ってこんなところに居ていいの? あれだけ派手に魔法を使っちゃったから、想定しているバッドエンドコースに乗っかっちゃったよね。
本気を出すときは、逃げるとき。って決めてたのに。呑気にお茶なんか出されて……。
きゅう――――とお腹が寂しげな音をたてた。
ゆらゆらと揺られている感覚が、とても心地いい。
私の硬い髪を撫でる手の感触に、意識がふわりと浮き上がる。
あたたかなベッド、石けんの匂いがする白いシーツ、ちょうきもちいい。
二度寝しそうになって、はたと気付いて目を見開けば。ベッドの端に腰掛けて、私を見下ろす隊長を認識した。
「おはよう。もう昼過ぎだぞ」
目をまん丸にした私に、そう声をかけてくる隊長にがばっと飛び起きようとして、上掛けの上から隊長に押さえ込まれてしまった。
「え、と。エンボルグ隊長?」
「腹、減ってるだろ?」
当惑する私に、全然関係のないことを言ってくる隊長に、ムッとする。
「そりゃ、減っていますけれど。な……に」
目の前に出された、芽キャベツのような物体に、胸がドキドキする。
だって、それは、私の主食だけれど。バンガーキュート、別名虫殺しと呼ばれる毒性のある植物だった。
採れたてのように瑞々しいそれを、開いていた唇に当てられる。
呆然と口を開き、半ばでカシュッと噛み切る。瑞々しい、凄く美味しい、凄く、凄く美味しい。
もぐもぐと咀嚼しながら、涙が勝手に零れて枕を濡らす。
「おいしいか?」
真剣な表情の隊長に問われ、嗚咽に喉が詰まりそうになる。
バンガーキュートを飲み込み、口を開く。
「ええ、とても、おいしいです」
「そうか」
差し出された残りのバンガーキュートを口で受け取り、噛みしめた。
虫殺しの毒で殺そうとして与えられたわけじゃない、ならば――もう、私の体質もバレているのだろう。
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