91 / 106
第四章 魔王の国を改革するための第一歩! 採用試験で自由に職業選択できる世界を目指します
11 ケリーのステータス画面は?
しおりを挟む
中庭の植え込みを抜けると、視界が開け、言い争いをしている男女二人の姿が目に入った。
一人は、がっしりとした体躯を持つ、背の高い獣人の青年。
狼の耳と尾は弟のベルクとお揃いだ。しかし、緑の髪を持つベルクと違って、その髪はまるで秋の紅葉のようだ。燃えたぎる炎のように赤い。
背中の中ほどまで伸びた赤い髪は、春の地面から萌え出た新芽のごとく、元気よくあちこちを向いている。
一方、青年に対峙する女性は、その口調に似合わぬ、色白の線の細い美女だ。
妹のメイヴよりも、エルフの血が色濃く出ているのだろうか。
人間離れした、恐ろしいほど整った顔立ちの周りを絹糸のような銀のまっすぐな髪が覆っている。
ほっそりとしたその腕でどのように弓を扱うのか、まるで想像がつかない。
ヴィネ陛下の姿を認めたゴヴァンが、驚いたような表情を見せた後、恐縮しつつ急ぎその場に跪く。
「へ、陛下!? こ、これは、お見苦しいところをお見せして大変失礼いたしました!」
「えっ、陛下!? 陛下なの!?」
ゴヴァンの様子に、ケリーも慌てて跪こうとした。
それを、ヴィネ様が
「ああ、よいよい。そのままで、かまわぬ」
と、手を左右にひらひらと振りながら止める。
「それよりも、ゴヴァン。この女性に惚れたのか? ならば、素直にそう言えばいいではないか?」
ヴィネ様のからかうような物言いに、ゴヴァンは顔を真っ赤にさせながら反駁した。
「ちょっ……ち、違いますよ、やめてください、陛下。俺はただ……その……」
反論を試みるものの、動揺しているせいか、その語尾は大きな身体に似合わぬほど小さく、消え入りそうだ。
決まりの悪そうなゴヴァンの態度に、一瞬、本当に一目惚れだったのだろうかと思う。
しかし、ヴィネ様が続けた言葉からは、そういうことにしてうまく事を収拾させようとしている意図が感じられた。
「惚れた女性が危険な職に就くのは、いかにもつらかろう。しかし、今回の採用試験は私が決めたことだ」
あらためてこの場にいるすべての人たちに対して、「女性を受け入れるように」というメッセージを、ヴィネ様は発したいのだろう。
「此度の雇用より、女性にも男性と等しくその機会を与えることとする。その約束で、今回、皆に集まってもらったのだ」
「は、はい……」
毅然としたヴィネ様の発言に、ゴヴァンは恐縮しつつ、同意した。
先ほど、ケリーのことをからかっていたと思しき男たちも、恥ずかしそうに皆、下を向いている。
彼らが、黙ったのを見届けると、ヴィネ様は私に小声で尋ねた。
「エレイン。それで、あの女性のステータスは、いかほどのものなのだ?」
ゴヴァンやケリーには聞こえないようにという配慮からだろう。
ヴィネ様が、私の耳元に口を寄せてそっと囁く。
ヴィネ様の吐息が耳にかかり、くすぐったい。
ふいうちのようにして、突然、ヴィネ様の顔がすぐ傍まで近付いて来たものだから、動揺のあまり私の心臓はドクンと大きく脈打った。
「あ……、え……と、少しお待ちくださいませ」
いったん深呼吸をしてから、私はケリーのパラメーターへと意識を集中させる。
「力は18、体力は17。並の女性のものではありませんね。セパル様と同じぐらいの数値です。また、器用さと敏捷性は20。ずば抜けて高い数値を持っています。これは、確かに相当な弓の名手かもしれません」
「なるほど。よし、わかった」
ヴィネ様は満足そうな表情を浮かべて頷くと、再びゴヴァンに向けて、語りかけた。
「そのような無益な言い争いなどせずに、ケリーの腕前をまずは見せてもらったらどうだ? それで、弓兵としてやっていく腕前があるようなら、先ほどの発言についてはきちんと謝るのだぞ」
「はっ」
「まだ試験の開始の刻限までには間があるが、特別だ。ケリーの実技試験を始めようではないか」
「陛下、ご配慮いただき、どうもありがとうございます!」
ケリーは満面に笑みを浮かべ、礼を述べると、その場に跪いた。
一人は、がっしりとした体躯を持つ、背の高い獣人の青年。
狼の耳と尾は弟のベルクとお揃いだ。しかし、緑の髪を持つベルクと違って、その髪はまるで秋の紅葉のようだ。燃えたぎる炎のように赤い。
背中の中ほどまで伸びた赤い髪は、春の地面から萌え出た新芽のごとく、元気よくあちこちを向いている。
一方、青年に対峙する女性は、その口調に似合わぬ、色白の線の細い美女だ。
妹のメイヴよりも、エルフの血が色濃く出ているのだろうか。
人間離れした、恐ろしいほど整った顔立ちの周りを絹糸のような銀のまっすぐな髪が覆っている。
ほっそりとしたその腕でどのように弓を扱うのか、まるで想像がつかない。
ヴィネ陛下の姿を認めたゴヴァンが、驚いたような表情を見せた後、恐縮しつつ急ぎその場に跪く。
「へ、陛下!? こ、これは、お見苦しいところをお見せして大変失礼いたしました!」
「えっ、陛下!? 陛下なの!?」
ゴヴァンの様子に、ケリーも慌てて跪こうとした。
それを、ヴィネ様が
「ああ、よいよい。そのままで、かまわぬ」
と、手を左右にひらひらと振りながら止める。
「それよりも、ゴヴァン。この女性に惚れたのか? ならば、素直にそう言えばいいではないか?」
ヴィネ様のからかうような物言いに、ゴヴァンは顔を真っ赤にさせながら反駁した。
「ちょっ……ち、違いますよ、やめてください、陛下。俺はただ……その……」
反論を試みるものの、動揺しているせいか、その語尾は大きな身体に似合わぬほど小さく、消え入りそうだ。
決まりの悪そうなゴヴァンの態度に、一瞬、本当に一目惚れだったのだろうかと思う。
しかし、ヴィネ様が続けた言葉からは、そういうことにしてうまく事を収拾させようとしている意図が感じられた。
「惚れた女性が危険な職に就くのは、いかにもつらかろう。しかし、今回の採用試験は私が決めたことだ」
あらためてこの場にいるすべての人たちに対して、「女性を受け入れるように」というメッセージを、ヴィネ様は発したいのだろう。
「此度の雇用より、女性にも男性と等しくその機会を与えることとする。その約束で、今回、皆に集まってもらったのだ」
「は、はい……」
毅然としたヴィネ様の発言に、ゴヴァンは恐縮しつつ、同意した。
先ほど、ケリーのことをからかっていたと思しき男たちも、恥ずかしそうに皆、下を向いている。
彼らが、黙ったのを見届けると、ヴィネ様は私に小声で尋ねた。
「エレイン。それで、あの女性のステータスは、いかほどのものなのだ?」
ゴヴァンやケリーには聞こえないようにという配慮からだろう。
ヴィネ様が、私の耳元に口を寄せてそっと囁く。
ヴィネ様の吐息が耳にかかり、くすぐったい。
ふいうちのようにして、突然、ヴィネ様の顔がすぐ傍まで近付いて来たものだから、動揺のあまり私の心臓はドクンと大きく脈打った。
「あ……、え……と、少しお待ちくださいませ」
いったん深呼吸をしてから、私はケリーのパラメーターへと意識を集中させる。
「力は18、体力は17。並の女性のものではありませんね。セパル様と同じぐらいの数値です。また、器用さと敏捷性は20。ずば抜けて高い数値を持っています。これは、確かに相当な弓の名手かもしれません」
「なるほど。よし、わかった」
ヴィネ様は満足そうな表情を浮かべて頷くと、再びゴヴァンに向けて、語りかけた。
「そのような無益な言い争いなどせずに、ケリーの腕前をまずは見せてもらったらどうだ? それで、弓兵としてやっていく腕前があるようなら、先ほどの発言についてはきちんと謝るのだぞ」
「はっ」
「まだ試験の開始の刻限までには間があるが、特別だ。ケリーの実技試験を始めようではないか」
「陛下、ご配慮いただき、どうもありがとうございます!」
ケリーは満面に笑みを浮かべ、礼を述べると、その場に跪いた。
0
お気に入りに追加
173
あなたにおすすめの小説
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
貴妃エレーナ
無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」
後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。
「急に、どうされたのですか?」
「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」
「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」
そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。
どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。
けれど、もう安心してほしい。
私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。
だから…
「陛下…!大変です、内乱が…」
え…?
ーーーーーーーーーーーーー
ここは、どこ?
さっきまで内乱が…
「エレーナ?」
陛下…?
でも若いわ。
バッと自分の顔を触る。
するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。
懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!
ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
ゲームと現実の区別が出来ないヒドインがざまぁされるのはお約束である(仮)
白雪の雫
恋愛
「このエピソードが、あたしが妖魔の王達に溺愛される全ての始まりなのよね~」
ゲームの画面を目にしているピンク色の髪の少女が呟く。
少女の名前は篠原 真莉愛(16)
【ローズマリア~妖魔の王は月の下で愛を請う~】という乙女ゲームのヒロインだ。
そのゲームのヒロインとして転生した、前世はゲームに課金していた元社会人な女は狂喜乱舞した。
何故ならトリップした異世界でチートを得た真莉愛は聖女と呼ばれ、神かかったイケメンの妖魔の王達に溺愛されるからだ。
「複雑な家庭環境と育児放棄が原因で、ファザコンとマザコンを拗らせたアーデルヴェルトもいいけどさ、あたしの推しは隠しキャラにして彼の父親であるグレンヴァルトなのよね~。けどさ~、アラブのシークっぽい感じなラクシャーサ族の王であるブラッドフォードに、何かポセイドンっぽい感じな水妖族の王であるヴェルナーも捨て難いし~・・・」
そうよ!
だったら逆ハーをすればいいじゃない!
逆ハーは達成が難しい。だが遣り甲斐と達成感は半端ない。
その後にあるのは彼等による溺愛ルートだからだ。
これは乙女ゲームに似た現実の異世界にトリップしてしまった一人の女がゲームと現実の区別がつかない事で痛い目に遭う話である。
思い付きで書いたのでガバガバ設定+設定に矛盾がある+ご都合主義です。
いいタイトルが浮かばなかったので(仮)をつけています。
【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました
As-me.com
恋愛
完結しました。
とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。
例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。
なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。
ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!
あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。
※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
【完結】目覚めたらギロチンで処刑された悪役令嬢の中にいました
桃月とと
恋愛
娼婦のミケーラは流行り病で死んでしまう。
(あーあ。贅沢な生活してみたかったな……)
そんな最期の想いが何をどうして伝わったのか、暗闇の中に現れたのは、王都で話題になっていた悪女レティシア。
そこで提案されたのは、レティシアとして贅沢な生活が送れる代わりに、彼女を陥れた王太子ライルと聖女パミラへの復讐することだった。
「復讐って、どうやって?」
「やり方は任せるわ」
「丸投げ!?」
「代わりにもう一度生き返って贅沢な暮らしが出来るわよ?」
と言うわけで、ミケーラは死んだはずのレティシアとして生き直すことになった。
しかし復讐と言われても、ミケーラに作戦など何もない。
流されるままレティシアとして生活を送るが、周りが勝手に大騒ぎをしてどんどん復讐は進んでいく。
「そりゃあ落ちた首がくっついたら皆ビックリするわよね」
これはミケーラがただレティシアとして生きただけで勝手に復讐が完了した話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる