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第四章 魔王の国を改革するための第一歩! 採用試験で自由に職業選択できる世界を目指します

11 ケリーのステータス画面は?

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 中庭の植え込みを抜けると、視界が開け、言い争いをしている男女二人の姿が目に入った。

 一人は、がっしりとした体躯を持つ、背の高い獣人の青年。
 狼の耳と尾は弟のベルクとお揃いだ。しかし、緑の髪を持つベルクと違って、その髪はまるで秋の紅葉のようだ。燃えたぎる炎のように赤い。
 背中の中ほどまで伸びた赤い髪は、春の地面から萌え出た新芽のごとく、元気よくあちこちを向いている。

 一方、青年に対峙する女性は、その口調に似合わぬ、色白の線の細い美女だ。
 妹のメイヴよりも、エルフの血が色濃く出ているのだろうか。
 人間離れした、恐ろしいほど整った顔立ちの周りを絹糸のような銀のまっすぐな髪が覆っている。
 ほっそりとしたその腕でどのように弓を扱うのか、まるで想像がつかない。

 ヴィネ陛下の姿を認めたゴヴァンが、驚いたような表情を見せた後、恐縮しつつ急ぎその場に跪く。

「へ、陛下!? こ、これは、お見苦しいところをお見せして大変失礼いたしました!」
「えっ、陛下!? 陛下なの!?」

 ゴヴァンの様子に、ケリーも慌てて跪こうとした。

 それを、ヴィネ様が

「ああ、よいよい。そのままで、かまわぬ」

 と、手を左右にひらひらと振りながら止める。

「それよりも、ゴヴァン。この女性に惚れたのか? ならば、素直にそう言えばいいではないか?」

 ヴィネ様のからかうような物言いに、ゴヴァンは顔を真っ赤にさせながら反駁した。

「ちょっ……ち、違いますよ、やめてください、陛下。俺はただ……その……」

 反論を試みるものの、動揺しているせいか、その語尾は大きな身体に似合わぬほど小さく、消え入りそうだ。

 決まりの悪そうなゴヴァンの態度に、一瞬、本当に一目惚れだったのだろうかと思う。
 しかし、ヴィネ様が続けた言葉からは、そういうことにしてうまく事を収拾させようとしている意図が感じられた。

「惚れた女性が危険な職に就くのは、いかにもつらかろう。しかし、今回の採用試験は私が決めたことだ」

 あらためてこの場にいるすべての人たちに対して、「女性を受け入れるように」というメッセージを、ヴィネ様は発したいのだろう。

「此度の雇用より、女性にも男性と等しくその機会を与えることとする。その約束で、今回、皆に集まってもらったのだ」
「は、はい……」

 毅然としたヴィネ様の発言に、ゴヴァンは恐縮しつつ、同意した。
 先ほど、ケリーのことをからかっていたと思しき男たちも、恥ずかしそうに皆、下を向いている。

 彼らが、黙ったのを見届けると、ヴィネ様は私に小声で尋ねた。

「エレイン。それで、あの女性のステータスは、いかほどのものなのだ?」

 ゴヴァンやケリーには聞こえないようにという配慮からだろう。
 ヴィネ様が、私の耳元に口を寄せてそっと囁く。
 ヴィネ様の吐息が耳にかかり、くすぐったい。
 ふいうちのようにして、突然、ヴィネ様の顔がすぐ傍まで近付いて来たものだから、動揺のあまり私の心臓はドクンと大きく脈打った。

「あ……、え……と、少しお待ちくださいませ」

 いったん深呼吸をしてから、私はケリーのパラメーターへと意識を集中させる。

「力は18、体力は17。並の女性のものではありませんね。セパル様と同じぐらいの数値です。また、器用さと敏捷性は20。ずば抜けて高い数値を持っています。これは、確かに相当な弓の名手かもしれません」
「なるほど。よし、わかった」

 ヴィネ様は満足そうな表情を浮かべて頷くと、再びゴヴァンに向けて、語りかけた。

「そのような無益な言い争いなどせずに、ケリーの腕前をまずは見せてもらったらどうだ? それで、弓兵としてやっていく腕前があるようなら、先ほどの発言についてはきちんと謝るのだぞ」
「はっ」
「まだ試験の開始の刻限までには間があるが、特別だ。ケリーの実技試験を始めようではないか」

「陛下、ご配慮いただき、どうもありがとうございます!」

 ケリーは満面に笑みを浮かべ、礼を述べると、その場に跪いた。

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